番人の許可証
今年最大の寒波が日本列島を襲った日。
寒さに肩をすくめ凍える手でスマホを触りながら歩く人々の間をぬうように、高校生1年の佐倉奏は目的地へと急いだ。
繁華街の大通りを抜け、裏通りに入り一軒の小さな古本屋に入っていった。
カウンターにメガネをかけた若い男が店番をしている。
客はいない。そもそも奏はこの店で客を見たことがない。
「八雲さん、許可証の更新にきた」
奏はカウンターにいる男に声をかけた。
椅子に座って何かの本を読んでいた八雲と呼ばれた男は、顔をあげた。ただの顔ではない、カッコいい顔だ。
「奏、よくきたね」
(八雲さんて本当に変わらないな。相変わらず20代みたいだ。化粧品とか気を使っているのかな)
会うたびに奏は不思議に思う。奏が初めて会った10年前からその容姿は変わっていない。
奏は抱えていた学生カバンの中から、小さな板切れを取り出した。蒲鉾板くらいの大きさで赤い房飾りがついている。板には文字とも絵とも言えない何かが書いてある。
はい、と板切れを八雲に見せる。
八雲は机の脇に置かれた硯で慣れた手付きで墨をすると、紙にサラサラと何かを書き、奏に渡す。
正直、奏には何が書いてあるか読めない。
「じゃあここに血判を押して」
「血判って、何回やっても慣れないんだよなぁ」
奏はそういいながら自分の小指を噛んで血を出すと、八雲に指示された箇所に判を押した。
「血判なんて今時知らないヤツの方が多いんじゃないの?」
「そうかもねー。でもこれには佐倉家の血が必要だからね」
八雲は奏から紙を受けとる。よしよし、と頷く。
「この鬼の番人の許可証にはね」




