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シャインブレイブ!  作者: finalphase
第4章 最終決戦!!
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第50話 目覚めの涙

 華奢な少女の頬を、一粒の涙がゆっくりと滑り落ちた。

 その涙は、壊れやすい硝子細工のように繊細で、触れれば砕けてしまいそうで——それなのに、確かな熱だけは消えずに残っていた。


 凜華の肩がかすかに震えている。

 本来なら、彼女はオルフェウスの呪縛で身動きひとつできないはずだった。

 それなのに、細い指がぴくりと痙攣し、ぎゅっと握られ、そして——拘束を縛る見えない鎖が、きしりと音を立てて歪んだ。


 その光景を、私は呆然と見つめることしかできなかった。

 私自身も洗脳され、心はどこか遠くへ置き去りにされていたはずなのに、胸の奥にじん、と痛みが灯る。


「……凜華?」


 呼びかけた自分の声の弱さに驚く。

 彼女は答えない。ただ震え、苦しげな呼吸を繰り返しながら、必死にもがいていた。


 そして——その瞬間。


 凜華の指先が、宙を彷徨うように伸び、ためらうように震えてから、私の手を掴んだ。


 ひんやりしていた。

 けれど次の瞬間、その冷たさの奥に、確かにある体温がじわりと伝わり、私は呼吸を忘れた。


(あ……あたし、生きてる……?)


 胸の奥で、ずっと凍っていた何かが溶けていく。

 凜華の手に触れた途端、洗脳の霧が一枚、また一枚と剥がれていくようだった。


 私はただの“駒”じゃない。

 私は——ちゃんとした、私という人間だったんだ。


「……ひかり……」


 凜華が小さく、小さく、囁いた。

 そのたった一言が、胸の奥に突き刺さる。


 彼女は、私の名前を呼んだ。

 凜華の記憶が、ほんの少しずつ戻り始めている。


「凜華……」


 返そうとした声は、震えて言葉にならない。

 それでも、私は彼女の手を強く握り返していた。


 そのとき、ぱあっと凜華の周囲が光に満たされた。

 最初は蛍火のように頼りなく、小さな光。

 だが、彼女の祈りに呼応するように、光は強まり、暖かさと神聖さを帯びていく。


「凜華? その光……なに? だめ……今無理したら!」


 抱きしめたくなるほど彼女は弱々しかった。

 痩せた肩は震え、痛みを噛みしめるように唇を噛む。


 そのとき、不意に聞き覚えのある声が響いた。


「凜華ッ!!」


 反射的に振り向くと、瓦礫を踏みしめながら走ってくる影が見えた。

 凜華の彼氏——山田浩平。

 行方不明だったはずの彼が、必死の形相で駆け寄ってくる。


「良かった……見つけた……!」


 その声は震え、けれど希望の色があった。


 そして気づく。

 浩平だけじゃない。

 周囲の人たちが、次々と目を覚まし始めていたのだ。


 洗脳で曇っていた瞳が澄み渡り、きょろきょろと周囲を見回す。


「……ここ、どこ……?」

「私……何を……?」


 人々の瞳に、生気が戻っていく。

 誰かが声を上げた。

 誰かが抵抗した。

 その祈りが波紋のように広がり、町中へ伝わっているのだと悟る。


 それでも凜華は光の中心で、深く静かに息を吸った。


「ひかり……思い出してきたの。断片的だけど……大事なこと……全部」


 声は細く震えていた。

 けれど、瞳には覚悟が宿っていた。


 胸騒ぎがして、私は彼女の腕を掴んだ。


「ねえ、凜華……やめて。その光……危ないよね? これ以上は……!」


 すると凜華は、泣き崩れていたはずの少女とは思えないほど穏やかに微笑んだ。

 月の光みたいに静かで、どこか遠くを見ている微笑み。


「大丈夫。怖くないよ、ひかり」


(怖いよ……!

 私は……大切な人を失うのが、一番怖いの……!)


 心の中で叫んでも、声にはならなかった。


 凜華の光はさらに強くなり、輪郭を淡く照らし始める。

 光が強まるほど、彼女が現実から遠ざかっていくようで、胸が潰れそうだった。


「凜華……何をするつもりなの……?」


 震える声で問う私に、凜華は静かに首を横に振った。


「ひかり。ここから先は……もう、戻れないの」


 その言葉の意味の重さに、心臓が跳ねた。


 いやだ。

 そんな顔しないで。

 そんな終わり方、絶対に——。


 光に包まれながら、凜華は祈るように両手を合わせ、天を見上げた。

 まるで何かに呼ばれるように。

 まるで“別れ”の準備をしているように。


 息が止まる。

 胸が締めつけられた。


 凜華の光は、もう彼女だけのものじゃない。

 町中で目覚めた人々の希望、祈り、想い——

 そのすべてが、凜華へと流れ込んでいる。


 いやだ。

 絶対に行かせない。

 そんな未来……受け入れられるわけがない。


「……凜華!!」


 私の叫びは、光に吞まれていく。

 光はさらに強く、まっすぐ空へ伸び上がる。


 そして——私は悟ってしまった。


 彼女が何をしようとしているのか。

 その先にある“悲しい未来”を。


 まだ誰も気づいていない。

 けれど私は知っている。

 この物語は、嫌な予感のまま進んでしまう。


 光の中心で、凜華は静かに、穏やかに微笑んでいた。


 ——ここから、すべてが始まる。


【次話予告】


私の嫌な予感は、的中する。

「凜華! やめてってば!」

「お願い……戻ってきてよ!」

叫び続けても声は震え、光に掻き消されていく。

もう届かないの……?


第51話 世界が祈る


必ず、次も読んでね。

最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。

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