第48話 早乙女凜華とオルフェウス
オルフェウスは、ついに――自分の“実の娘”である早乙女凜華の元へ向かおうとしていた。
街のあちこちで洗脳が広がり、混乱と混沌が渦巻く中、凜華は他のシャインブレイブたちと同じように、人々の心を光で浄化し、正気を取り戻そうと必死に戦っていた。
……だが、オルフェウスの胸の中には、戦場とは別の感情が渦巻いていた。
中学生になってからの凜華は、明らかに変わった。
彼女は元々、自分の意志を真っ直ぐにぶつけるタイプで、他人の気持ちを深く考えるような子ではなかった。良く言えば素直、悪く言えば自己中心的。
しかし今の彼女は違う。
友人たちや先生、そしてシャインブレイブとしての経験を通し、人の痛みや不安に寄り添えるようになっていた。
その成長を嬉しいと感じる部分が、オルフェウスの中にも確かにあった。
けれど――同時に、ひどく複雑な感情が胸に刺さっていた。
(優しすぎる……。そんな心では、世界を統治する器ではない……)
支配に必要なのは冷酷さであり、迷いのない判断力だ。
凜華は優しすぎる。そのままではオルフェウスの後継にはなれない。
だからこそ彼は、決着をつけるために彼女の前へと現れた。
凜華は校舎裏の広場に立ち、夕焼けに照らされた風に髪を揺らしながら、真っ直ぐオルフェウスを見据えた。
「早乙女凜華、虹ヶ丘中学校2年生。血液型AB、生年月日2月24日。特技、勉強、運動、音楽、料理。弱点は……素直すぎるところ。」
「何よ、急にそんな自己紹介みたいなことして……」
強気に返した凜華だったが、オルフェウスの次の言葉が心をえぐった。
「オルフェウス――こと、私の娘。」
「……は?」
その瞬間、凜華の全身に寒気が走った。
彼女は即座に否定しようとした。
「何言って……るのよ? お父様が、オルフェウスなわけ――」
そして途中で口を閉じた。
オルフェウスが指を鳴らした次の瞬間、闇の霧が彼を包み、その姿形が変わっていく。
姿を現したのは――凜華が知る“父親”そのものだった。
「お、お父様……どうして……!?」
「凜華……立派になったな。」
穏やかな声。それは確かに、いつも家で聞いていた父の声だった。
「私の後を継ぐ気はないか? 世界を統べる者として。」
「……そんなの、あるわけないでしょ。」
凜華は後ずさりもせず、真っ直ぐ彼を睨み返した。
「こんなの、私の知ってるお父様じゃない。
――いや、たとえお父様本人だったとしても、その正体がオルフェウスなら……倒す。」
彼女はコンパクトを強く握りしめ、叫ぶ。
「光よ、私に新たな力を!
プリズルミナスブレイク!!」
虹色の光が彼女を包み、シャインブレイブの新形態へと変身する。
凛とした瞳がオルフェウスを射抜いた。
「……そうか。やはり私を倒すと言うのだな。」
オルフェウスは深く息をつき、ほんのわずかだけ寂しそうに目を細めた。
「残念だ。実の娘とは戦いたくはなかったが……儀式の“生贄”にするには、これ以上ない存在だ。」
「生贄? ふざけないで! プリズルミナス――ブレイクッ!!」
凜華の放った光の矢が一直線に飛ぶ。
オルフェウスも黒いビームを放ち、二つの力は空中で激突した。
眩い光が爆ぜ、大気が震える。
「さすがは私の娘……。だが――」
オルフェウスの姿がふっと掻き消えた。
高速移動だ。
「ッ!」
気付いた時にはすでに遅く、凜華の背後に彼がいた。
「光の射手でも、対応できぬ速度がある。」
振り返ろうとした瞬間、オルフェウスの蹴りが彼女の腹に命中した。
「ぐっ……!」
凜華は大きく体勢を崩し、その手からコンパクトが無防備に浮き上がる。
オルフェウスは指先でそれを軽く弾き――
パリーンッ!
粉々に砕いた。
「……っ!!」
光が霧散し、凜華の変身が強制的に解除される。
制服姿に戻った彼女は膝をつき、苦しげに息をした。
「や、やめて……」
「凜華。すべては世界のためだ。」
オルフェウスは黒い煙を口元に吹きかける。
ふわりと漂ったその煙を吸い込んだ途端、凜華の意識が急速に薄れていく。
「………っ、く……」
視界がぼやけ、父の顔だけがゆっくりと遠ざかっていく。
「眠れ。儀式までは、大人しくしていろ。」
そして、凜華は完全に意識を失った――。
【次話予告】
オルフェウスは、なんと――
“実の娘”である凜華を、儀式の生贄として捧げようとしていた!
私と遥はその事実を知り、なんとしても凜華を救い出そうと奔走する。
だがオルフェウスの結界は強く、時間は残されていない……!
第49話 儀式の生贄
――必ず、読んでね!
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