第43話 オルフェウスの覚醒!
早乙女律――いや、オルフェウスは、胸の奥底から湧き上がる異様な気配をはっきりと感じ取っていた。
それは、ただ力が満ちるという次元ではない。血の流れが黄金に変わり、心臓の鼓動が世界そのものと同調していくような、根源的な変化だった。
全身を満たしていくのは、限界のない“力”。
目を閉じると、世界のどこかで軋む音が響く。それは風の音ではなく、何か巨大なものが形を変える時の、世界の悲鳴のようにも聞こえた。
(これが……神の力か。)
胸の奥から湧き上がる陶酔感と万能感が、律をゆっくりと飲み込んでいく。
これまで自分を縛っていたもの――他者の存在、社会の常識、常に人に気を使わなければならない閉塞感。そんなものは、神の目から見れば取るに足りない瑣末事だった。
ついに世界は、自分の望む形に作り変えられる。
誰もが自分の願う通りに動き、裏切ることも、反抗することもない。
想い続けた衝動が、現実になった。
ゆっくりと瞼を持ち上げた瞬間――人間としての早乙女律は霧散した。
そこに立っていたのは、“神”を名乗るに値する存在だった。
「私は完全なる力を手に入れ、覚醒した。この世界は――私だけのものだ。」
低く響くその声だけで、空が揺れたように感じた。
オルフェウスが両腕を広げると、世界が呼応するように色を失い始めた。街の灯はぽつり、ぽつりと落ち、辺りを満たす空気までもが黒く染まっていく。
人々の目が一斉に虚ろな光を帯びたとき、私は思わず息を呑んだ。
「な、なんで……!?」
「みんな、動きが……!」
周囲の人間が一斉に同じ方向へ歩き出した。
左右に視線を振ることもなく、こちらの声を聞くこともなく、ただ誰かに糸を引かれているかのように整然と歩き続ける。
「待って!! どこ行くの!?」
「止まれってば……!」
叫んでも、声は虚しく空へ消えるだけ。
“意志”という概念が抜け落ちたその瞳は、ただ命令を受け取るための器のようだった。
私たちは仕方なく、彼らの後を追った。
そして――その先で、ついに“神”を目にする。
威厳を宿した冠。
身にまとった気配は人ではなく、世界そのもの。
ただ立っているだけで、空気が沈み、光までもが吸い込まれていく。
「我の名はオルフェウス。この世のすべてを統治するもの。すべての民よ――我のために働きたまえ。」
その一言で、世界は跪いた。
農地に向かう者。
巨大建造物を造り始める者。
老いも若きも、男も女も、例外なくただ従い、休むことなく働き続ける。
――こうして“オルフェウスの世界”が始まった。
私、凜華、遥の三人は再び合流し、重い空気の中で顔を見合わせる。
「ついに……奴の統治する世界が始まっちゃいましたね。どうしましょう?」
遥の声は震えていなかったが、瞳の奥に焦りが滲んでいた。
「どうするもなにも……倒すしかないわ。」
私は迷わず言ったが、その声にも力が入りきっていなかった。
「でも……今回は本当に桁違いよ。一瞬で全人類を従わせたのよ? 私たちが全員でかかったって、正面からぶつかれば――」
凜華は拳を握り締めた。
「……そうだ。全人類……ってことは、鈴木さんも……?」
私が呟いた瞬間、2人の顔が青くなる。
シャインブレイブ以外の全員が洗脳されているなら――
あの人だって例外じゃない。
息を飲んだ、その時だった。
「おい、お前ら。俺は無事だ。」
背中から聞こえた低い声に、全員が振り返る。
「鈴木さん!? 洗脳されてないんですか……? なんで……?」
「さぁな。理由なんて分かるわけねぇだろ。」
豪快に肩をすくめながらも、その瞳には確かな意志があった。
「ま、細けぇこと考えるより先にやることがあるだろ。オルフェウスを好き勝手させる気はねぇんだろ?」
「もちろん……止めたいです。でも……」
胸の奥が、重く痛んだ。
(本当に……お父さんなの……?)
凜華も不安を隠しきれない声で言った。
「と、とにかく……作戦会議をしましょう。何か……勝ち目になるものを探さなきゃ。」
「……嬢ちゃん、らしくねぇな。まぁいい。」
鈴木さんは腕を組み、にやりと笑う。
「作戦会議といくか。」
――そして私たちは、オルフェウスに立ち向かうための戦いを始める。
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【次話予告】
オルフェウスの圧倒的な力に対抗するため、私たちは作戦会議を開く。
正攻法、奇襲、交渉――ありとあらゆる手段を検討しながら、わずかな可能性に賭けるしかなかった。
果たして、オルフェウスを倒す決定打となる戦術は生まれるのか……?
第44話 作戦会議!
――必ず、読んでね!
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