第42話 決着! 凜華vsマルバス!
凜華と浩平の関係は、相変わらず甘くて、でもどこかで危うい均衡を保っていた。
普段の彼女は学校でも家でも強気で、何でも自分ひとりでやり切れるような顔をしている。自信家で、負けず嫌いで、プライドも高い。けれど――浩平の前では、そんな外側の鎧がまるで嘘みたいに外れてしまう。肩に触れられるだけで、心の奥がほどけていくような安心感が溢れてくる。
恋人として、浩平がどれほど大切な存在なのか。
それは、彼女自身が誰よりもよく理解していた。
自分でも気づかないほど、彼に寄りかかってしまっていることさえ。
けれど、その裏側には、凜華自身の影――依存の気配がひっそりと潜んでいた。
誰だって、たまには甘えたくなる。誰かに「大丈夫だよ。」と言ってもらえるだけで救われる夜だってある。
でも、その支えがもし突然消えてしまったら……?
その時、自分の心はどうなってしまうのか。
想像もしたくないほどの、深いダメージがそこにある。
凜華はそんな危ういバランスの中で、浩平と並んで歩いていた。
放課後の校門を出て、夕陽に照らされた道を二人で歩きながら、くだらないことで笑って、時々さりげなく手が触れ合って。
誰が見ても、「リア充」の象徴みたいな光景だった。
凜華もその時間が愛しくて、ずっと続けばいいと――少しだけ、夢みたいに願っていた。
――その穏やかな空気を、突然の影が切り裂いた。
最初に感じたのは、足元から伝わる淡い振動。
次に、肺の奥がぎゅっと圧迫されるような、重たい空気。
周囲の喧騒がゆっくり遠ざかり、逆にひとつの強烈な“存在感”だけが近づいてくる。
その場の空気が変わった瞬間、凜華は本能で悟った。
――来た。避けて通れない相手が。
現れたのは、マルバス。
何度も戦ってきた因縁の相手であり、彼女にとって宿命のように立ち塞がる存在。
「早乙女凜華。今日こそ決着を着けさせてもらう。」
低く響く声は、まるで世界を裂く宣告のようだった。
凜華は反射的に息を呑み、隣にいる浩平へと振り向く。
浩平は心から心配そうな眼差しで、ただ彼女を見つめていた。
その瞳に宿る想いは、凜華の胸の奥を甘く、そして痛いほど締め付ける。
守りたくて、離れたくなくて――それでも行かなくちゃいけない。
凜華はそっと微笑み、震える心を押し隠しながら静かに頷いた。
「浩平君、ごめん……。でも、行くね。」
彼の手が伸びかけた瞬間、凜華は一歩踏み出し、光をまとって姿勢を正す。
「望むところよ。光よ、私に新たな力を!
――プリズルミナスブレイク!」
輝きが彼女の身体を包み、空気ごと世界を揺らす。
一瞬にして、凜華とマルバスの姿は浩平のいる場所から遠く離れた空き地へと転移した。
廃ビルの影が伸びる荒れ地で、二人は対峙し、互いの呼吸が静かにぶつかり合う。
戦いはすぐに始まった。
凜華の操る光の弓矢は放つたびに空気を震わせ、夜明けのような閃光が地面を焼いていく。
対するマルバスの冥界の剣は、闇を裂くように重々しく、触れたもの全てを飲み込む死の色をしていた。
最初のうちは、互角。
光と闇の刃が交錯し、衝撃波が繰り返し空き地を揺らす。
しかし、その均衡は徐々に凜華の有利へと傾いていく。
押し込まれたマルバスの呼吸が乱れ始める。
「さすがだな、凜華。……けれど、君に面白いことを教えてあげよう。」
「あんたの話なんて、聞く価値もないわよ。」
「君のお父さんのことだ。」
凜華の動きが、ほんの一瞬だけ止まった。
その隙を狙うように、マルバスが続ける。
「君のお父さんの正体――それは、オルフェウスだ。」
「…………は?」
一拍遅れて、怒りが爆発する。
「ふざけるのもいい加減にしなさいっ!!
プリズルミナスブレイク!!」
凜華の感情そのままの光が放たれ、暴風のように空間を引き裂く。
大地が震え、空が歪むほどの閃光がマルバスを飲み込み――そして消した。
轟音が止む頃には、そこに彼の姿はない。完全な消滅だった。
戦闘が終わるや否や、遠くから荒い息で浩平が駆け寄ってくる。
「おい、凜華! 本当に大丈夫か!?」
「うん。平気だよ。あんなの、相手にもならない。」
笑顔を作る。
けれど、その笑顔の裏で胸の奥はざわざわと騒ぎ続けていた。
「……お父様が、オルフェウス……?」
家に帰ると、凜華はどうしようもない衝動に突き動かされた。
気付けば、お父様の部屋の前で立ち尽くしていた。
本当は勝手に入るなんてしたくない。
罪悪感で指先が震えるほどだった。
でも――確かめずには、もういられなかった。
そっとドアを開ける。
部屋の中は整然としていて、上品で、一般家庭より少し豪華な家具が並ぶだけ。
机、書類、本棚、スーツ……どれも見慣れたお父様の日常のものばかり。
秘密の契約書も、怪しげな魔導具も、隠し扉もない。
本当に、ただの優しい父の生活空間。
自然と、凜華の胸に確信が芽生え始める。
――お父様は、オルフェウスなんかじゃない。
だけど。
それでも、マルバスの言葉は喉に刺さった魚の骨みたいに、違和感だけを残し続けた。
抜けないまま、心の底でひっそり疼く。
【次話予告】
「私は完全なる力を手に入れ、ついに覚醒した。
この世界は――私だけのもの。」
その声とともに、世界の光がゆっくりと塗りつぶされていく。
オルフェウスの覚醒によって、闇が街を覆い、人々の瞳から意思が消えていく。
シャインブレイブ以外の人々は、魂の糸を切られた操り人形のように、
ただオルフェウスの命令に従うだけの存在へと変わってしまう。
第43話 オルフェウスの覚醒!
――物語はいよいよ最終章へ。
絶対、見逃さないでね!
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