第40話 希望の光と深い絶望
ファイティング・グローとの激闘から、いつの間にか三日が過ぎようとしていた。けれど、遥もルナも――あれ以来、一度も私たちの前に姿を見せていない。朝起きて、学校へ行って、家に帰ってきても、胸の奥にずっと沈んでいるのは不安と焦りばかりだった。
そして追い討ちをかけるように、テレビのニュースが、淡々と「中学生・高野遥 行方不明」というテロップを流し続けていた。あの子が、あの遥がいなくなったと告げられる言葉は、信じがたくて、胸の奥がひりつくように痛かった。
――2人は、本当にマルバスとの戦いで犠牲になってしまったのだろうか。
そんなわけがない。少なくとも、信じたくなかった。
放課後、私と凜華は毎日のように街を歩き回って捜索を続けていた。人間は弱い。だけど、それだけじゃない。折れそうになっても、何度だって立ち上がる強さも持っている。私たちは、どこかで遥とルナがまだ生きている――そのわずかな希望を胸に、足を止めることをしなかった。
そして、その“答え”を見つけたのは、きらら川のほとりだった。
川沿いの草むらに、泥にまみれて落ちていた小さなきらめき。1つは遥のコンパクト。もう1つは、ルナが使っていた弓矢。けれど、その弓にはべっとりと血が付着していて、手に取った瞬間、背筋を冷たいものが走った。
私は迷わず、鈴木祐介へ電話をかけた。警視庁の中でもシャインブレイブの存在を知る、数少ない人物。彼が動けば、きっと状況が大きく動く――そう信じていた。
予想通り、鈴木の采配で、きらら川付近では大規模な捜索が行われることになった。そしてその日の夕方、川の奥深くで、ぐったりと倒れている遥が発見されたのだ。
彼女は警察によって保護されると、驚くほどの回復力を見せ、あっという間に意識を取り戻した。コンパクトが無事である限り、変身前であってもシャインブレイブの能力は働き、肉体の回復が極端に早くなる――その事実に改めて救われた気がした。
生活に戻れるほどに元気になった遥に、私たちは見つけたコンパクトを返した。彼女は胸に抱きしめるように受け取り、深々と頭を下げる。
「本当に……ありがとうございます。それに、ごめんなさい。私があのロボットたちを倒せなかったせいで……余計な迷惑をかけてしまって……」
「いいの! そんなこと気にしないで。遥のおかげで助かったこと、何度もあるし。ね、凜華」
「そうね。まあ……あんたよりは役に立つかもしれないけど」
「ちょっと! ひどいよっ!」
言い合う声が、久しぶりに心を軽くした。遥が生きている。それだけで世界が少しだけ明るくなったように感じられた。
遥は、誰よりも強い心を持つ子だ。だからこそ、まさか本当に死んでしまうなんて想像できなかった。それでも、無事な姿を目の前にすると、胸に張りついていた不安が剥がれ落ちるように消えていった。
……暗い影が再び訪れたのは、その数日後だった。
登校途中、私たちの目の前に、鈴木祐介が姿を見せた。鋭い視線の奥に、どこか沈んだ色が見える。
「よう」
「鈴木さん……?」
「君たちに伝えておきたいことがある。月影ルナのことだ」
その名前が出ただけで、胸の奥がざわついた。鈴木は言葉を選ぼうとして、一瞬、視線を落とした。けれど、すぐにいつもの調子に戻り、静かに言い切る。
「遠回しに言っても仕方ない。俺は嘘をつける性格じゃないんでな。……単刀直入に言うぞ」
心の準備ができる前に、彼の声が空気を切り裂いた。
「月影ルナは――命を落とした」
「……え?」
「きらら川の中から、彼女の遺体が見つかった。あの子は“敵によって作られた生命体”だ。人間よりずっと脆く、限界も近かったんだろう」
「そんな……」
自分の声とは思えないほど震えていた。凜華も遥も、驚きのあまり言葉を失っている。
遥は唇を噛みしめ、拳を強く握り、かすかに震えながら呟いた。
「私が……私がもっと早くファイティング・グローを倒せていたら……ルナちゃんは……」
胸が締め付けられるように痛かった。
あの日の戦いは、思っていた以上の傷を、私たち全員の心に残していたのだ。
【次話予告】
月影ルナを失ってから、私たちが見ている景色は大きく変わった。
それぞれが心の空白を埋めようと必死にもがきながら、それでも“事実”と向き合う日は必ず来る。
そんな中、私と遥の前に姿を現したマルバスが――世界の根幹を揺るがす衝撃の真実を語り始める。
第41話 心の空白と明かされる事実。
――必ず、読んでね。
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