第38話 私と凜華の大ピンチ!?
「そろそろ潮時かな。先に君たちの方を処刑するとするか。」
その言葉は、夜気を震わせるほど冷たかった。
マルバスがゆっくりと剣を持ち上げると、銀色の刀身が半月の光を反射し、泉の水面へゆらめく光を落とす。
そして次の瞬間、彼は音すら置き去りにする速度で踏み込んできた。
背後では、ファイティング・グローの4体が無表情のままカタカタと首を回し、私たちを捉えた途端、同時にこちらへ襲い掛かってくる。
私と凜華――たったふたり。
対するは、マルバスとファイティング・グロー合計8体。
敵の数だけならまだしも、1体1体が規格外。勝算なんて、最初からほとんど無かった。
それでも、私たちは下がらなかった。
負けるわけにはいかない理由が、たくさんある。
守りたい人がいて、譲れない想いがあって――何より、凜華が隣で戦っている。
「ひかり、こっち任せて!」
凜華が鋭く叫ぶ。その声に背中を押されるように、私も魔力を溜め、迫りくる1体へ杖を振り下ろす。
けれどファイティング・グローは、まるでこちらの動きを読み切っているかのようにバリアを展開し、余裕の態度で受け流す。
身体は異常なほど硬く、レーザーの射程も広い。
そして攻撃を当てれば当てるほど強化されるという、悪質すぎる性能。
痛みを感じず、疲れも知らない、ただの処刑機械。
人間らしい“揺らぎ”が欠片も無い彼らが、じりじりと包囲を狭めてくる。息の詰まるような圧迫感に、胸の鼓動が早まっていく。
涼しい夜風が流れ、泉には半月が揺れて映る。
時刻はもうすぐ19時――家族もきっと心配している。
その現実的な不安がふと胸をかすめた瞬間、マルバスの声が響いた。
「そろそろ終わりにしよう。」
彼の放つ圧が、一段と強まる。
「ひかり、一気に決めるわよ!」
「うん!」
凜華の声に、迷いが吹き飛んだ。
お互いの魔力が共鳴し、私たちは一斉に杖を掲げた。
「プリズルミナスブレイク!」
「マジカルミナスブレイク!」
夜空が震えるほどの輝き。
空気が波打ち、草木がざわめき、泉の水面が大きく跳ねる。
自分たちの渾身の力――それが光の奔流となって敵へと迫る。
だが――。
ファイティング・グロー1体が、まるで軽い物でも払うように片手で防いだ。
「そんな……!?」
私と凜華は同時に息を呑んだ。
この瞬間生まれた“隙”。
その一瞬の揺らぎを、マルバスが逃すはずがなかった。
轟音とともにマルバスが跳躍し、背後から6体のファイティング・グローが凜華へ殺到する。
同時に、2体が私の身体へ重い衝撃を叩き込んだ。
「がっ……!」
肺の奥までひびくような痛み。
そのまま別の1体が、鋼鉄の腕を私の首へ巻きつけ、ゆっくりと締め上げた。
「っ……あ……!」
呼吸ができない。
視界の端で、世界が小さく、暗く、狭くなっていく。
鼓動が遠くで跳ねるだけの音に変わり、身体がふらふらと揺れる。
凜華の方へ目をやると、彼女は6体のロボットたちの集中攻撃に追い込まれ――
ついに変身解除の光が弾けた。
「……やだ……凜華……!」
力が入りきらない声がこぼれた。
その時、耳を貫くように凜華の声が響いた。
「あんた、やめなさいよ! ひかりから手を放しなさいッ!!」
その叫びには怒りだけじゃない。
恐怖と焦り、そして――私を守ろうとする必死さがあった。
「君はいつも上から目線だね。しかし、自分の状況を弁えた方がいいんじゃないかな?」
マルバスの冷たい声が返る。
次の瞬間、鋭い蹴りが凜華の身体を吹き飛ばした。
「や、やめて……やめてください……!」
絞り出すような凜華の声。
その震えが、胸を締め付ける。
マルバスは彼女を見下ろし、心の中で嘲るように呟く。
「オルフェウス様の血を継いでいるとはいえ、所詮は小娘か。」
凜華の目には涙が浮かんでいた。
月明かりに照らされ、その涙が宝石みたいに光る。
それを見たマルバスの口角が不気味にゆがむ。
「ふふ……早乙女凜華。君は泣き顔までも美しいね。まるで天使のようだ。この手で壊してしまうには、惜しすぎる。」
そして、迷いも躊躇もない動きで、剣を高く振り上げ――
凜華へと振り下ろした。
金属が空気を裂く、冷たく鋭い音。
苦しさ、恐怖、絶望。
全てが波のように押し寄せ、私はもう抗えず、ゆっくりと目を閉じた。
【次話予告】
マルバスの剣が凜華を切り裂こうとした、その瞬間。
世界の理すら揺らぐ――信じられない“覚醒”が起こる。
第39話 美少女の覚醒
必ず、読んでね!
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