第36話 絶望の始まり
ルナを処刑し終えた二体のファイティング・グローは、次なる標的――遥のもとへと向かっていた。
それは、鈴木祐介という“普通の人間”よりも先に、シャインブレイブを潰すことを優先せよというマルバスの命令だった。
その頃――。
私と凜華はようやく一日の授業を終え、夕焼けに染まる通学路を並んで歩いていた。
「今日も疲れたね。早く帰ってお風呂入りたいな」
「うん……でも、なんだか空気が変じゃない?」
その瞬間、前方の電柱の影がぐにゃりと歪み、無機質な機械音が辺りに響いた。
現れたのは――四体のロボット。鋼鉄の身体に淡い光を放つ眼を持つそれらが、音もなく私たちを包囲する。
「ひかり!」
「うん!」
「――光よ、私に新たな力を! マジカルミナスブレイブ!」
「光よ、私に新たな力を! プリズルミナスブレイブ!」
光の粒子が宙を舞い、私たちは一瞬で戦闘服をまとった。
しかし、眼前のロボットたちは想像を超える強さを秘めており、攻撃をかわすのが精一杯だった。
一方その頃、遥は別の場所で四体のファイティング・グローに押されていた。
息を荒げながら弓を構える彼女の前に、突如、黒い外套を纏った男が姿を現す。
「マルバスさん……どうしてここに?」
「決まってるさ。君を倒すためだよ。」
遥は震える手で弓を引き、一本の矢を放つ。
光を帯びた矢がロボットの装甲をかすめ、その身体をわずかに押しのけた。
「君は、なぜそこまで頑張るんだい? 体力も限界に近いだろう?」
マルバスの声には、純粋な興味が混じっていた。
「そんなことは……ありません。これくらい……!」
「強情な子は好きだよ。でもね、世の中には努力だけじゃどうにもならないこともあるのさ。」
彼はゆっくりと口角を上げる。
「――月影ルナ、だったか。あの子ならもう死んだよ。こいつらを使って葬った。」
その一言が、遥の心に火を点けた。
「今……なんて言いました?」
彼女の瞳が、怒りで燃えるように光を宿す。
「マルバスさん。あなたは……人の命をなんだと思ってるんですか!
それに、自分で作った命の名前すらうろ覚えなんて――最低です!」
「おや、怒ったかい? いいねぇ……冷静沈着な君が怒ってる姿、ぞくぞくする。
でも忘れるな。俺が言った通り、月影ルナは“人間”じゃない。人工生命体だ。
壊したところで、せいぜい器物損壊罪にしかならない。」
「――ふざけないでくださいッ!」
怒りが爆発した瞬間、彼女の弓がまばゆい光を放つ。
「ミラクルミナスブレイク!」
光の矢が一直線に放たれ、ファイティング・グローの胸部を貫いた。
ロボットは激しく火花を散らし、崩れ落ちる――が、数秒後。
ジジッと音を立てて立ち上がる。
「なっ……!」
「ふふふ、無駄さ。俺の新作、“ファイティング・グロー”は攻撃を受けるたびに進化する。
戦えば戦うほど、強くなるんだ。」
次の瞬間、四体のロボットが一斉に目を光らせ、レーザービームを放った。
「うぁぁぁぁぁッ!」
遥の身体が光に包まれ、地面に叩きつけられる。
マルバスは一歩前へ進み、黒い剣――“健”を振り上げた。
「終わりだ、遥。」
だが、その刃は届かなかった。
彼女は血まみれの手で、剣を素手で受け止めていたのだ。
指先からは赤い雫がぽたぽたと落ちる。
「……君はなぜそうまでして諦めない? 理解できない。
状況は圧倒的に不利、勝ち目はないはずだ。」
「私は……負けません。
誰かが不幸になるのを、もう見たくないんです!」
彼女の胸元で、光の宝石が強く輝いた。
マルバスの眉がわずかに動く。
「――小賢しい。悪いが、君はここで終わりだ。」
蹴りが彼女の腹部に直撃し、続けて四体のロボットが同時に攻撃を浴びせる。
遥の身体は宙を舞い、背後の橋の欄干を突き破って、川へと落下した。
「ふぅ……なかなか手強かったが、ようやく決着がついたな。」
マルバスは息を吐き、ファイティング・グローたちを従えて振り返る。
「――次は、あの二人の番だ。」
彼の足音が静かに遠ざかる。
濁った川の水面には、わずかに光がきらめいていた。
【次話予告】
ファイティング・グローに苦戦を強いられる私と凜華の前に、
新たなファイティング・グローを引き連れたマルバスが姿を現す。
彼はついに本気で、私たちを倒そうとしていた――。
第37話 不穏な影
必ず、読んでね!
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