第29話 実験の失敗!?
培養カプセルの中の液体が、ゆっくりと形を変えていく。
泡立つように揺らめきながら、やがてそれは――小学生ほどの少女の姿となった。
マルバスは満足げに頷くと、無機質な機械音と共にカプセルを開いた。白い蒸気が漏れ出し、静かに目を開けた少女に向かって声をかける。
「お目覚めかい? 自分の名前を言ってみるといい。」
「……私の名前は……月影ルナ。」
マルバスの顔が綻ぶ。
自らの手で人工生命体を完成させた喜びが、胸の奥から込み上げてくる。
彼女は自らの意志を持ち、言葉を話すこともできる。しかも――シャインブレイブと同じような“力”を宿しているのだ。
「ルナ、君に頼みたいことがあるんだ。」
「頼みたいこと?」
「シャインブレイブのことは知っているね?」
「うん。人間を守るために戦っている神の使い……」
「そう。そのシャインブレイブを――倒してもらいたい。」
ルナは短く頷くと、静かにその場を後にした。
彼女の頭の中には、マルバスから聞いた3人の少女の姿が焼き付いている。星川ひかり、早乙女凜華、高野遥――ごく普通の中学生たち。しかし、彼女たちはこの地域を守る光の戦士、シャインブレイブでもあった。
マルバスに見せられた写真を思い出す。
ひかりは明るくて少しバカっぽい印象。凜華は冷静で凛とした優等生。遥はおとなしそうで、どこか影のある後輩タイプ。
外の世界へ出ると、ルナは思わず立ち止まった。
見たことのないほど綺麗な景色が広がっている。
風に揺れる木々、青く透き通る空、すれ違う人々――すべてが新鮮だった。
人間の世界は、思っていたよりもずっと複雑で、そして美しい。
まずは放課後、彼女たちが虹ヶ丘中学校を出てくるのを待つことにした。
そして夕方。
校門からひかりと凜華の姿が現れる。ルナはその前に立ちはだかった。
「星川ひかり、早乙女凜華。あんたたち、私と戦いなさい。」
「あなたは?」
ひかりが澄んだ瞳でルナを見つめる。
「オルフェウスの手先……? だったら、たとえ幼い子でも容赦はしない。」
凜華がコンパクトを構え、鋭い視線で睨みつける。その眼差しに、ルナの背筋が震えた。
――早乙女凜華。この女、ただものじゃない。
その瞬間、ルナの胸の奥に奇妙な感情が芽生える。
彼女が欲しい。
その瞳も、心も、すべてを自分のものにしたい――そんな歪んだ想い。
「やめなよ。」
ひかりが凜華に呼びかける。
「どうして? 私たちと戦いたいって言ってるんだから、望みどおり倒してやればいいじゃない。」
「そんなに悪い子じゃないかもよ。」
「ったく……」
凜華は呆れたようにため息をつきつつも、コンパクトをしまった。
戦うよりも、まず話をしようとする――そんな優しさが、彼女には確かにあった。
「ねぇ、あなた、名前は?」
ひかりがあどけない笑みを浮かべて尋ねる。
「名前……? 私の……名前は……月影ルナ?」
「ルナちゃんか。いい名前だね。ねぇルナちゃん、どうして私たちと戦おうと思ったの?」
ひかりのマイペースな口調に、ルナは戸惑う。
「え? それは……オルフェウスさんに命令されたから。」
「そっか。じゃあ、ルナちゃん自身は戦いたいの?」
「……分からない。」
「分からないかぁ。じゃあさ、私たちの生活に付き合ってみない?」
「は?」
凜華が思わず声を上げる。
「空気読めよ、このバカ……」と、心の中で毒づきながらも、ひかりの勢いに押されてしまう。
「私たちの生活……?」
ルナの動きが止まる。
人間の生活――それは、彼女が知らない世界。
人間は何を考えて、どう生きているのか。興味が湧かないはずがなかった。
「ね、凜華!」
ひかりが謎の圧で迫る。
「私は嫌よ。あんなのとは関わらない。」
「またまた~、そんなこと言って。本当は優しいんだから。」
「優しくない!」
「あの……」
ルナが小さな声で口を開いた。
「ん?」
「凜華って、本当に綺麗な目をしてるね。水晶みたい。」
「そりゃどうも。」
少し照れたように視線を逸らす凜華。
「でしょでしょ。ルナちゃんも凜華の魅力に気づいたー? でもね、凜華って外見だけじゃないんだよ。もちろん見た目も可愛いけど、人間性も――」
「うっさい。」
凜華がひかりの頭を軽く小突く。
「いったぁ~! もう、凜華ったら!」
ひかりが頬を膨らませる。その光景を、ルナは不思議そうに見つめていた。
――人間って、こんなにも温かいものなの?
一方その頃、マルバスは遠くのモニター越しにその様子を見つめていた。
「……人工生命体を作ったはいいが、あいつ、シャインブレイブと普通に話してやがる。実験は失敗か。次は……もっと悪い心を入れないとな。」
【次話予告】
私、月影ルナ。オルフェウスによって作られた人工生命体。
ひかりと凜華は、私に“人間の暮らし”を教えてくれるらしい。
二人はとっても仲が良くて――その理由を聞いたら、「友達だから」って笑ってた。
“友達”って、何だろう。
胸の奥がドキドキする。私も、二人の友達になりたい。
第30話 友達って何だろう。
――必ず、読んでね!
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