第27話 凜華、暴走――!
土曜日の朝。薄曇りの空の下、私たちは重たい空気をまとって歩いていた。
凜華、遥、鈴木さん、そして私。目的地は――朽ノ木林。
そこには、かつて凜華が戦ったという「悲しきモンスター」が眠っている。
死んでもなお消えない、人々の憎しみと悲しみ。
その怨念が形を成し、今もなおこの森に彷徨っているという。
「そういえばさ、凜華。前にここで戦った時、どうやって脱出したの?」
何気ない質問のつもりだった。けれど、彼女の返事は意外なものだった。
「……それが、あんまり覚えてないんだ。」
「覚えてない?」
私は思わず聞き返す。凜華は視線を下げ、小さく首を振った。
その横顔には、どこか影のようなものが差していた。
「とうとう林の前に来たな。準備はいいか?」
鈴木さんの低い声が、張り詰めた空気を切り裂く。
私たちは頷き合い、同時に変身の呪文を唱えた。
「光よ、私に新たな力を! マジカルミナスブレイブ!」
「光よ、私に新たな力を! プリズルミナスブレイク!」
「光よ、私に新たな力を! ミラクルミナスブレイク!」
輝きが辺りに広がる。次の瞬間、鈴木さんの「行くぞ!」という掛け声と共に、私たちは林の中へと踏み入れた。
中は、まるで時間が止まったような静けさだった。
木々の間を霧が漂い、どこからともなく呻き声のような風が吹く。
突如、暗闇の中から影が浮かび上がった。
実体を持たないモンスター――けれど確かにそこに「憎しみ」の気配があった。
「来るっ!」
私たちは構える間もなく、強烈な衝撃波を受けて吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられる。視界が揺れる。
モンスターがゆっくりと私たちに近づき、冷たい手を伸ばしたその瞬間――
「……やめろ。」
凜華の瞳が、真紅に染まった。
いつもの彼女ではない。
声も低く、まるで別人のようだった。
「私は――人間の中でも、限りなく神に近い存在。
幽霊風情が、神に逆らうなよ。」
不気味な笑みを浮かべながら、彼女は弓を構える。
放たれた矢が、空気を震わせるほどの力を宿していた。
「凜華、待って!」
私が叫ぶのと同時に、遥が前に飛び出した。両手を広げて、モンスターを庇うように立つ。
「やめてください……とっても苦しそうじゃないですか!」
“苦しそう”――それは、モンスターのことを指していた。
私は一瞬、遥の言葉の意味が分からなかった。
けれど彼女は、モンスターの“心”を感じ取っていたのだ。
「黙れ。人間風情が。」
凜華の矢が、遥の頬をかすめる。
「強引に倒そうっていうなら……いくら早乙女先輩でも、止めます!」
遥が構え、二人は空中で激しくぶつかり合った。
光と闇が交錯し、林が震える。
鈴木さんが歯を食いしばりながら叫ぶ。
「一体どうなってやがる!」
「やめてよっ! 味方同士で戦わないで!」
私が叫んだその声をかき消すように、モンスターが再び襲い掛かってきた。
私は必死にその鼓動に耳を傾けた――すると、不思議な感覚が胸を満たした。
怒りも憎しみも、すべて“悲しみ”の一部だった。
死んでもなお、消えない未練が形になった存在。
私は震える手で、そっとその影を撫でた。
「辛かったよね。もう大丈夫。もう、苦しまなくていいから。」
その瞬間、モンスターの体が淡く光り、静かに空へと昇っていった。
まるで“ありがとう”と呟くように――。
しかし、戦いは終わっていなかった。
凜華の攻撃が遥の胸に直撃し、遥の体が大きく弾き飛ばされる。
「遥っ!」
私と鈴木さんは慌てて駆け寄り、凜華の前に立ちはだかった。
「凜華、お願い、やめて!」
「……どけ。」
冷たい声。次の瞬間、私たちは三人まとめて吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられ、息が詰まる。
それでも私は、必死に叫んだ。
「凜華、お願い……戻って!」
彼女は矢を構えたまま、ピタリと動きを止めた。
そして頭を押さえ、苦しそうにうめいた。
「うっ……あ、あああ……っ!」
そのまま踵を返し、森の奥へ――
凜華は、どこかへ消え去った。
静寂が戻る。木々のざわめきだけが、私たちの耳に残った。
【次話予告】
あの事件から数日後。
虹ヶ丘中学校では、待ちに待った文化祭が開催された。
凜華のことが心配で仕方なかったけれど――
当の本人は、まるで何事もなかったかのように笑っていた。
屋台を回り、クラスの出し物で楽しそうに笑う姿に、
私は少しだけ安心する。
しかし、その裏では――
新たな脅威が静かに動き出していた。
第28話 楽しい文化祭と新たなる脅威!
――必ず、読んでね!
最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。
この作品が面白いと感じられました方は、評価やブクマなどくださると大変励みになります。




