第24話 弟との死別
私――高野遥に、人生の大きな転機が訪れた。
それは、弟の智也が病院に長期入院することになった日から始まった。
私たちの家は、もともと裕福ではなかった。
母は昼も夜も働きづめで、私は家事を引き受けながら学校に通っていた。
それでも、弟が病気と闘っている姿を見ると、不思議と疲れなんて吹き飛んだ。
あの子の笑顔は、どんな薬よりも強い力をくれるから。
だけど――入院が決まった瞬間、家計は火の車になった。
母はますます働きに出るようになり、私も学校と家事の両立で精一杯。
モンスター出現の知らせがあっても、すぐには駆けつけられない日も増えた。
そんな時は、星川先輩や早乙女先輩、鈴木さんたちが現場に向かってくれていた。
私は祈るような気持ちで、彼らの無事を願うしかなかった。
――そして、その日は、突然やってきた。
「長くは生きられない」と言われていた智也。
覚悟はしていたはずだった。何度も心の中で“その時”を想像してきた。
けれど、実際にその瞬間を迎えたとき、心の奥底がきつく締めつけられた。
あの日、智也はベッドの上でか細い声を出しながら、私の手を握って言った。
「お姉ちゃん、僕、迷惑ばかりかけてごめんな。
家事もほとんどやらせちゃって、弱い弟でごめんな。
けどさ……お姉ちゃんがお姉ちゃんで、本当に良かった。
お姉ちゃんはきっと、みんなを悲しみから救えるような優しい人になるよ。
僕は、世界一の幸せ者だ。」
その言葉を聞いた瞬間、視界が涙で滲んだ。
「迷惑だなんて思ってないから!」
「それに、智也は弱くない!」
「だから、そんなこと言わないでよ……! 先に行かないで!」
泣き叫ぶ声は、もう弟には届かなかった。
それが、私と智也が交わした最後の会話だった。
――私なんて、智也が言うような立派な人間じゃない。
悩んで、落ち込んで、時には逃げ出したくもなる普通の人間だ。
けれど、あの時、私は決めた。
智也の理想とする“お姉ちゃん”に、いつか必ず近づいてみせる――と。
天国の智也を、もう悲しませたくないから。
それから数日。私は家でも学校でも、ひたむきに頑張った。
勉強にも、家事にも、少しずつ身が入るようになった。
差別にも、いじめにも、絶対に屈しない。
だって、もし泣き言なんて言ったら――
「やっぱお姉ちゃん、僕がいなきゃダメだな」って、智也に笑われちゃうから。
そんな矢先のことだった。
放課後の帰り道、夕暮れの影が伸び始めた頃――
前方に、不気味な気配をまとう女が立っていた。
長い黒髪、血のように赤い瞳。まるで人の悲しみを餌にしているような、底知れぬ存在感。
「……誰?」思わず声が震える。
女はゆっくりと唇を歪めた。
「あなた、弟が死んで……さぞ悲しいでしょうね。」
「なんで彼だったんでしょう。他の誰かが死ねば、彼は助かったかもしれないのに。」
その瞬間、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
――この女は、ルシフェリア。
早乙女先輩から“危険すぎる存在”と聞かされていた、あの女だ。
星川先輩でさえ、彼女にネガティブな感情を抜き取られたと。
(駄目だ……ネガティブな感情を抱いたら、智也が悲しむ。)
(あたしは、弟の分まで強く生きるって決めたんだ!)
私は胸の前で手を合わせ、祈るように叫んだ。
「光よ、私に新たな力を!――ミラクルミナスブレイク!」
光が身体を包み、私はシャインブレイブへと変身する。
その瞬間、ルシフェリアが指を鳴らした。
闇の中から、巨大なモンスターが現れる。
腐敗した瘴気を放ち、どこか人の形を残している――。
「ねぇ、このモンスター、もしかしたらあなたの弟かもよ?」
ルシフェリアの声が冷たく響いた。
「……違う! 私の弟は、そんなに弱くなんかない!」
怒りと悲しみが混ざり合う。
ルシフェリアとモンスターが同時に襲い掛かってきた。
拳が腹部を狙うが、透明なバリアがそれを弾き返す。
弟の想いが、私を守ってくれている気がした。
「智也……見てて。私は負けない。
天国にいるあなたに、恥ずかしくない姉でいたいから。」
その瞬間、胸の宝石が眩い緑色の光を放った。
私は弓を構え、静かに息を整える。
「ルシフェリア、人の弱さに漬け込むなんて――最低です!」
「ミラクルミナスブレイクッ!!」
放たれた黄金の矢が、モンスターの胸を正確に射抜く。
爆光が夜空を染め、闇の塊は一瞬で消え去った。
「次は……あなたの番です、ルシフェリアさん。」
私はゆっくりと歩み寄る。
彼女は少しだけ目を細め、意味深に微笑んだ。
「ふぅん……あんた、本当に強い子なんだね。
まあいいわ。あたしの計画は、もうすぐ“完全なもの”になるから。」
そう言い残し、ルシフェリアは指を鳴らして姿を消した。
静まり返る夜。風が頬を撫でる。
――彼女を逃がした悔しさはある。
でも、智也に胸を張れる自分に、少しだけ近づけた気がした。
【次話予告】
「このモンスターを倒してごらんなさい、シャインブレイブ。
これであたしの計画は完璧よ。」
いよいよ始動するルシフェリアの壮大な計画。
私たちは“理想の世界”と呼ばれる、不思議な空間に案内された。
そこには――悲しみも、苦しみもない、永遠の安らぎ。
けれど、それは本当の幸せなのだろうか?
第25話 「安らぎの世界」
――必ず、読んでね。
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