第23話 ルシフェリアの目的
凜華は渋々ながらも、警視庁捜査一課課長・鈴木に電話をかけることにした。
あの男は好きではないが、朽ノ木林のことは伝えておくべきだと考えたのだ。
「課長、中学生からお電話です。いかがいたしますか?」と部下の佐野が言う。
「ったく、この忙しい時期に。どこのどいつだ?」
「虹ヶ丘中学校の早乙女凜華と名乗っています。」
佐野は受話器を強引に差し出した。
凜華の声は、先日会ったときとは打って変わってずっと明るかった。
鈴木は内心で驚きつつも、冷静に用件を尋ねる。
「で、用件はなんだ?」
「鈴木さんにお伝えしたいことがありまして。朽ノ木林ってご存じですか?」
「ああ、君の中学から少し離れた林だろ?」
「はい。そこにモンスターがいます。」
「モンスター?」
「はい。通常のモンスターとは違い、倒すのは相当難しいです。弱点らしい弱点は、その林から出られないことくらいしか見当たりません。多分、死んだ人の恨みが形になっているので、実体がないんです。」
「何が言いたい?」
「あの林には、人を近づけない方がいいということです。」
「なるほど、分かった。連絡ありがとう。」
凜華はため息をついて電話を切った。
――しばらくして、朽ノ木林には立ち入り禁止の看板が立てられた。
週末。私が家事を手伝っていると、コンパクトが光った。モンスター出現の合図だ。
場所は虹ヶ丘小学校。
私と凜華は現地へ向かい、そこで待ち構えていた二体のモンスターと戦闘を開始する。
今回のモンスターに、私は怒りを覚えていた。
狙われたのは子どもたちだけだったからだ。
大人には手を出さず、小学生だけを狙ったその犯行が、どうしても許せなかった。
ほどなく、冷たい金属の装甲を身にまとった鈴木が現れた。
MHシステムで再び出動したのだ。
私と凜華は弓矢を、鈴木さんは銃を構える。
「マジカルミナスブレイク!」
「プリズルミナスブレイク!」
私たちが同時に攻撃を放とうとしたその瞬間、どこからともなくルシフェリアが姿を現した。
「ちょうど面白いところね。星川ひかり、あんたとまた遊んであげる。ひとりじゃ何もできない能無しさん。」
そう言って、私を見据える。
その言葉を聞いた瞬間、どうしようもないネガティブな感情が胸を満たした。
だって、私は勉強も運動もダメダメだもの――そんな気持ちがぐっと押し寄せる。
つい本心が漏れそうになるのを、私は凜華と鈴木さんに向けて作り笑いでごまかした。
「凜華、鈴木さん、モンスターをお願い。」
自分に言い聞かせるようにそう言って、私は真正面からルシフェリアに挑んだ。
「プリズルミナスブレイク!」
凜華の必殺技と鈴木の銃撃が同時に放たれた――そのとき、ルシフェリアの拳が私の腹を捉える。
鋭い痛みが走り、過去の嫌な記憶がフラッシュする。
「かっ…はっ…待って… う、あぁぁっ――!」
激しい苦痛に顔が歪む。
意識が薄れそうになる中、倒れかけたモンスターたちの姿が視界の片隅を横切る。
――助けて…
心の中でそう叫んだ。
しかし次の瞬間、私は自分を奮い立たせた。
こんなんじゃ駄目だ。何も取り柄がないくせに、ずっとネガティブでいるわけにはいかない。
私が気を強く持たなきゃ、また凜華に迷惑をかけてしまう。
凜華はいつも私を助けてくれた。言葉はきつめだけど、いつも優しかった。
――そう思い出すと、胸の奥に小さな芯ができた。
その思いが強まったとき、首元の茶色く濁りかけていた宝石が、ふっと緑に輝きを取り戻した。
ルシフェリアの拳が私から離れる。
「あーぁ。心の弱いあんたなら、またもっと苦しそうなとこ見せてくれると思ったのに。残念。」
ルシフェリアは冷たく笑った。
「私は、ずっと同じ私じゃないの。いつまでも弱いままではいられない。」
私の声は震えていたが、確かな決意が宿っていた。
「ルシフェリア、あなたの目的は何?」
「あたしの目的? あたしの目的は世界の秩序を乱し、悲しみのない世を作り上げることよ。
そのために、人間の精神に干渉して実験を繰り返してるわけ。」
私が弓矢を構えた瞬間、彼女の姿はもうそこにはなかった。
少し離れた場所で、ルシフェリアは鈴木に向かって呟いているのが見えた。
「人間が、モンスターを倒す装置を作ったなんて、厄介ね。」
間もなく、鈴木さんと凜華が駆け寄ってきた。
「君、大丈夫か?」
鈴木さんが優しく声をかける。
「大丈夫です。ありがとうございます、刑事さん。」
「ふん。あんた、やるじゃない。」
凜華はわずかに表情を崩してそう言った。
その顔には、いつものツンとした厳しさと、確かな優しさが混ざっていた。
【次話予告】
覚悟はできてた――つもりだった。
けれど、弟の死を目の当たりにすると、胸が締め付けられるほど苦しかった。
それでも、私は戦う。多くの人を救うために。
第24話 弟との死別
――必ず、読んでね。
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