第21話 救いの手
その時だった。
闇の中を裂くように、水色の光が一直線に走った。
矢のような水色の閃光が空気を切り裂き、偽物の私の胸を貫いた。
眩しい残光の中で、偽物の身体が一瞬よろめく。
痛む腹部を押さえながら、私は顔を上げた。
視界の端に、夕日を背に立つ一人の少女の姿が映る。
「……凜華?」
息が漏れるように、その名前がこぼれた。
夕日を背にした彼女は、風に髪を揺らしながら静かに弓を構えている。
冷たい夕暮れの空気の中で、彼女の瞳だけが燃えるように輝いて見えた。
「あんた、何やってるのよ。ださすぎよ。」
ぶっきらぼうに言い放ちながらも、その声には確かな温度があった。
懐かしい響きに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
私は喉の奥が詰まり、何も言い返せなかった。
ただ、“救われた”という実感だけが、ゆっくりと胸の中に広がっていった。
その時、偽物の私が不気味な笑みを浮かべて呟く。
「……ついに来たのね。あの子を傷つけるようなことを言った“お友達”…いいわ、まずはあなたを消してあげる!」
楽しそうな笑い声とともに、偽物の私が凜華へ飛びかかった。
空気が鋭く震える。
光と闇の矢が交錯し、地面を蹴る音、魔力のぶつかり合う金属音が響いた。
偽物の私の動きは、本物よりも素早く、正確だった。
その表情には余裕があり、凜華の隙を狙って距離を詰めていく。
「ふふ……知ってるのよ。あなた、近距離が苦手なんでしょ?」
偽物の私が挑発するように笑う。
だが、凜華の瞳はまるで全てを見通しているように落ち着いていた。
彼女は心の中で冷静に考える。
(私の攻撃は威力が高いけど、接近戦には向かない……。
でも、それを知っているなら、きっと飛び込んでくる。
だったら——敢えて罠にかかったふりをして。)
凜華は、まるで風の流れのように身を傾けた。
次の瞬間、偽物の私が一気に間合いを詰め、矢を構える。
「今がチャンスよ。」
凜華の身体が一閃する。
彼女は偽物の攻撃を紙一重でかわし、背後へ回り込む。
同時に、凜華の手元の弓矢がまばゆい光を放った。
「——プリズルミナスブレイク!!」
空気が弾け、宝石のような輝きを放つ水色の光の矢が、偽物の身体を貫いた。
その衝撃に、偽物の私は息を呑み、地面に叩きつけられるように倒れる。
沈黙。
粉塵がゆっくりと舞い落ちる中で、凜華が弓を下ろした。
そしてすぐに、私の方へ駆け寄ってくる。
「ひかり!」
その声が、胸に真っ直ぐ届いた。
伸ばされた手のひらは温かく、震える指先で私はその手を掴んだ。
涙が頬を伝う。止めようとしても止まらなかった。
「凜華……その……ありがとう。あと、ごめん……」
喉が震え、言葉にならない想いが胸の奥で溶けていく。
「ほんとよ、あんたって、世話ばっか焼けるんだから……。大丈夫?」
その言葉に、私は堪えきれず凜華の腕の中で泣いた。
肩に顔を埋めると、張りつめていた糸がぷつりと切れる。
凜華の服の匂いが、懐かしい安心感を連れてきた。
「ったく……あんたってほんと子どもなんだから。」
そう呟く声は、どこか優しげだった。
そして、小さく続ける。
「けど……私も、その、この前のこと……言いすぎたと思ってる。」
その言葉が、静かに胸に染みた。
視線を上げると、優しい凜華の目があった。
お互い、もう口論をする必要もなかった。
心で、すべてが伝わった。
ふと横を見ると、偽物の私の姿が淡い光を帯びていた。
その輪郭が、少しずつ透明になっていく。
まるで夜明けの光に溶ける霧のように——。
私の心の中に巣くっていたネガティブな感情が、静かに消えていく。
恐れも、嫉妬も、後悔も。
すべてが風に溶けていった。
「……消えた、のね。」
「うん。ありがと、凜華。」
その時、夕陽が沈もうとしていた。
夜の静寂が、私たちを優しく包み込む。
私たちは顔を見合わせ、自然と笑った。
「あんた、いい加減泣き過ぎよ。」
「……うん。でも、もうちょっとだけ。」
そう言って、また笑う。
私たちの影が重なって、長く地面に伸びていった。
【次話予告】
「ねぇ、早乙女さん、ちょっといい?」
「何よ?」
「私たち、早乙女さんにお願いがあるの。」
「お願い? 一体何なのよ。」
「実はね――」
「はぁ? なんで私がそんなことを…!」
「隣のクラスで噂になってるんだ。早乙女さんには“特別な力”があるって。
それに、早乙女さんくらい可愛い子、今まで見たことないんだよね…」
「……分かったわよ。行ってみるわ。」
第22話 心霊林に突入せよ!
――必ず、読んでね!
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