第4話「群狼の襲来」
咆哮が洞を揺らした。
赤い瞳が幾つも火のように瞬き、群狼の影が口を塞ぐ。獣の息は鉄を焼く匂いを放ち、牙が石を削る音を立てる。
「多すぎる……!」
アリアが矢をつがえ、ミラは薬草袋を裂いて粉を撒いた。セレナは冷静に杖を掲げ、紫の環を描く。
俺は掌を地に押し当てた。土の中に眠る根が呼応し、足場を支えるように盛り上がる。
女神の声が蘇る。――“仲間を得よ”。
ここで一人では戦えない。だからこそ、皆と並び立つ。
「アリア、射程を絞れ!」
「了解!」
「ミラ、煙を濃くして誘導だ!」
「任せて!」
俺の指示に二人が応える。セレナが一瞥して、薄く笑った。
「村人のくせに……采配か。面白いわ」
◇
群狼が一斉に跳んだ。
アリアの矢が先頭の一匹の眼を射抜き、悲鳴が洞に響く。
その間に、ミラの煙が渦を巻き、狼たちは視界を奪われ混乱する。
俺は地を叩き、根を伸ばした。狼の足を絡め取る。何匹も転倒し、後続とぶつかり合う。
「今だ、セレナ!」
叫ぶと、彼女の杖が紫電を放った。稲妻が奔り、群狼の半数が痙攣して崩れ落ちる。
息を呑んだ。これが王都の魔導師の力。だが同時に、俺の掌も熱く燃え、根はさらに広がった。
洞の地盤が裂け、水脈の残滓が噴き上がる。狼たちの足場は泥と化し、もがく間に次々と沈んでいく。
咆哮はやがて悲鳴へ、悲鳴は静寂へと変わった。
◇
息を整える俺たちの前で、狼の死骸が積み重なっていた。
アリアが矢を下ろし、尾を震わせながら俺に駆け寄る。
「レオンさん……やっぱり、あなたはただの村人なんかじゃない!」
ミラも肩で息をしつつ、苦笑する。
「まさか根で狼を絡め取るなんて……薬師でも見たことないよ」
セレナは杖を収め、俺を見つめた。その瞳は冷たいが、どこか認める色を帯びていた。
「……協力する価値は、ありそうね。あなたがいるなら、計画を修正できる」
「計画、だと?」
俺は問いかける。セレナは視線をそらさず、静かに言った。
「王国の干ばつ地帯を救うため、灌漑網を築く。それは正義。けれど――ここを枯らすのもまた、別の正義。あなたはどちらを選ぶの?」
問いは鋭い刃だった。
アリアが震える声で言う。
「レオンさん……私は、里を守りたい」
ミラも頷く。
「でも、干ばつの人々を見捨てることも……」
俺は拳を握った。
村人の力は耕し、巡らせる力。犠牲を選ぶためじゃなく、すべてを繋ぐためにある。
「選ぶんじゃない。――両方を救う方法を探す」
静寂の後、セレナが小さく笑った。
「……無謀。でも嫌いじゃないわ」
◇
洞の奥で、水音が響いた。
まだ水脈は完全に閉ざされていない。繋ぐ道は残っている。
俺は掌を石に置き、深く息を吸った。
(俺は――世界を変える村人だ)
女神の言葉が胸に響く。
仲間たちと共に歩む未来。その始まりを、俺は今、確かに掴んでいた。
――つづく。




