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呼吸音

6|呼吸音


「ねぇ、なんかあったの? 大丈夫?」


電話の向こうで、ユリが心配そうに声をかけるが、

なんて説明したらいいのか、わからなかった。


あのことはだれにも話していない。

あれは、わたしの人生の中の悪夢。

そう、あれは現実じゃないんだ。


「うん、大丈夫だよ、ありがとね」


という言葉とは真逆に身体は反応。

なぜか、わたしは電話を切っていた。


一瞬、しんとした部屋の向こうで、


……ぽた、ぽた……


……ぽた、ぽた……ぽた、ぽた、ぽた


風呂場の方から水音が聞こえてくる。

蛇口はしっかりと閉じていた。


廊下に出ると、小さな濡れた足跡が見えた。

玄関から一歩ずつ、風呂場の方へ続いている。


間違いない、あそこにいる。


わたしが、そっと風呂場に近づいていくと、


水の中で誰かが歩くような、ぐじゅり……という音がして、


風呂場のドアが、すうーーっと開いた。


曇った鏡の奥に、何かが映っていた。


わたしは、それを直視できず、すぐに顔をそらす。


「ゆるして」


声を上げながら、部屋に逃げ込もうとした、


次の瞬間、


私の耳元で、「呼吸音」がした。


泡の中で、息を吸うような音。

どこかくぐもっていて、生ぬるいものが、

わたしの背中に張りついている……


私は、覚悟を決めてゆっくり振り向いた。


そこには、


手足の区別のない小さな肉の塊のような、でも身体にも見える何か。

皮膚も、目も、輪郭も、どこか曖昧な顔のような、でも顔ではない何か。


「形になりかけただけ」のモノが立っていた。




(モノローグ)


もういちど もどりたい

きみのなかで まもられたい

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