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【連載版】返すだけで、済むとでも?  作者: ぽんぽこ狸


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58 セレモニー




 城下町は人がごった返すほどにぎわっていて、式典の行われる王城から直結している広場には野外に席と舞台が設置されていて華やかに飾られている。

 

 貴族は参加を申請すると席を用意してもらえるし、何よりレナーテは身内であり制作者であるため、本来なら壇上にいてもおかしくない。


 しかし、きちんとアダルベルト公爵夫人が罰されて、機能を取り戻した王族は彼らだけの力でやっていくべきで、レナーテの風と炎の二属性を持った素晴らしい魔法使いという属性に頼るべきではないのだ。


 レナーテが彼らに渡すのは、この馬車が最初で最後である。


 それ以外の物はレナーテの本当に大切な人に使うのだ。


 だからこそ式典に参加するとも告げず、学友たちとひっそりやってきた。


 会場からつながるメインストリートでは、陽気な楽師が演奏していたり、人々は露店で買い物を楽しんでいる。


 そんな中をゆっくりと歩いて景色を楽しむ。


「あー、これこれー、露天と言えばだよねー」


 そういってパトリスは一人で駆けていき、串焼きを適当に注文してペロリと唇をなめた。


「ちょっと、服を汚さないようにね! 君はそうずぼらなんだから」

「はーい。んー、おいしー」


 彼女は頬に手を当てて喜び、レナーテとステファニーはあっけに取られてやっぱり彼女はどこか普通の令嬢とは違うなと思う。


 そしてハンカチを渡すクリストフに心の中で同意した。


 彼らの関係はなんだか兄弟のように仲睦まじいが、二人きりの時は違う雰囲気だったりするのだろうか。


「あっちはフルーツだってー、私お祭りって好きだなー」

「パトリスは大体いつもなんでも楽しそうだけどね」

「レナーテとステファニーはなに買うのー? どうせこれだけ人がいるんだから気にせず食べたらいいよー」

「……そ、そうね! あまりこういう場には来ないけれど、経験は大事だもの」

「ええ、そのとおりね」


 そうしてレナーテとステファニーも加わってセレモニーが始まるまでの間の時間をつぶす。あれこれと興味を惹かれる場所を散策しているとあっという間に時がたってしまう。


 早めに平民たちと同じように集まって、簡易的に設置されている柵の外側から、人ごみに紛れて、セレモニーを見つめる。


 すでに舞台上に設置されている馬車に、会場では色々な声であふれていた。


 貴族たちもやってくると、その場は静まり返り、華やかな演奏とともにセレモニーは開始する。


 遠くにいるのでスピーチは聞こえないが、多くの騎士たちが配備されている中、国王陛下は真剣に国のこれからを話している様子で、きっとヘレーネとフロレンツィアの魔法のことにも触れているのだと思う。


 そして彼に手で示されて、ベルンハルトとともに、ヘレーネとフロレンツィアが舞台の中央に立った。それと同時に複数の宮廷魔法使いもそばにやってくる。


 国王陛下から渡された類を見ないほど大きく高価な魔力石がベルンハルトによって馬車の内部の操縦するための魔法石と隣り合って設置され、フロレンツィアも気球馬車の中に入る。


 それからヘレーネは一度野外会場の全体へと目線を配ってから、魔法使いそれぞれと握手をする。

 

 その行為は白魔法によって行われる魔力の受け渡しに必要な行為であり、フロレンツィアが持っていた時は治療の為に他人に魔力を渡すときの行動だった。


 キラキラとした光が舞い散り、魔力のやり取りが行われる。


 しかしそれは魔力を与えている光ではないのだ。


 ……もともと、魔法というのは他人に使われるためになんて出来ていないわ。


 わたくしの魔法がわたくしの手に戻ってバルトルトの手にある時に比べて格段に幅が広がったように、魔力が少なくとも本来の持ち主になったことによって白魔法もまた真価を発揮することが出来るのよ。


 それに、白魔法というのはきちんと魔法を学んでいる人ならば知っていることだが、他人を癒すだけでのものではない、だからこそレナーテはこれほど魔力消費の激しい魔法具を作ったのだ。


「あれが人の魔力を受け入れることが出来る、白魔法の本当の使いかたか……すごい本でしか見たことがなかったよ」

「うん。本当に魔力が移動してる」


 隣でクリストフとパトリシアは食い入るようにその光景を見ていて、平民たちも注目している。


 そして彼らが言った通りである。


 白魔法は人の魔力と反発しない無垢の魔力だ。他人に与えることもできるしそして、他人の魔力を術者の体で受け取って魔力の質を変換することが出来る。


 だから本来、持ち前の魔力量など関係のない素晴らしい力なのだ。


 彼女はそうして多くの魔法使いから、魔力を受け取り、満を持して馬車へと乗り込む。


 そして魔力石に魔力を込めた。彼女は手に入れた魔力をそのまま自分の魔力として利用して魔力石をくすませることはない。


 ヘレーネがいればこの気球馬車はずっと利用することが出来るのだ。


 気球の部分に火がつき、馬車の扉は閉じられて、いよいよかと期待感が高まる。


 次第に火力が強まり、馬車がほんの少し浮く、それだけで魔法を見慣れない平民たちは完成をあげた。


「おー! 浮いた! 浮いたぞ!」

「すげぇ! さすが王家の方々だ!!」


 あまりに遠慮なく声をあげるのでレナーテたちは驚いてしまったが皆が手を振って、彼らも振り返しその声に押されて貴族も拍手をする。


 馬車はふわりふわりと晴天の空へと舞い上がっていく。このまま主要な都市を回ってそこにいる貴族から魔力を受け取り、ヘレーネの力の有用性を示していく。

 

 これがこのセレモニーの概要だ。


 実際に素晴らしい魔法を使っているところを見て、今までなかった空飛ぶ馬車で王太子と王太子妃がやって来れば、貴族も平民も彼らの統治に対して疑問を持つことはないだろう。


 気球馬車に飾られた花が風に揺られて花びらが舞い散る、その光景はレナーテが構想していた通りとても神秘的で今回の事件の影を晴らす素晴らしいものになったと思えたのだった。





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