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【連載版】返すだけで、済むとでも?  作者: ぽんぽこ狸


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57/60

57 理由


 

 レナーテは学園の寮で、兄からの手紙を確認していた。


 今回のことで、アダルベルト公爵夫人が派閥の貴族としていた契約が無効になって派閥が解体されたことによって、シュターデン伯爵家には仕事が舞い込むようになった。


 嬉しいことではあるし、彼女やその派閥に属していた多くが処刑されていなくなった今、働き手も魔力も不足していて、売り込み時であるのは確かだ。


 しかしこういう時こそ、用心が必要だ。まだ実家に帰ってゆっくりと話ができるのは先になるだろうと思うけれど、それでもこうして状況を確認して心配事がないかと気を配っている。


 ただ、フランツからの連絡は正直あまり業務連絡らしからぬことばかりが書いてある。


 屋敷でこれからに備えて特別手当が支払われ、新しい剣を買ったこと、魔獣の素材の買取価格が上がって驚いていること、アンネマリーの実家がこの状況に働き手を確保しようとやってきたこと、それをみんなで成敗したこと。


 いろいろなことがとめどなく書かれていて、実家での生活が目に浮かぶようだった。


 しかしそれにしてももう少し詳細に仕事のことを書いてくれてもいいのだが、父や母ともやり取りをしているのでそちらで情報は補填するとしようとレナーテはあきらめる。


 それからまだ返事を書く暇はあるかとちらりとエリーゼを見上げた。


「帰宅後にゆっくりと書いた方がいいかもしれません。お嬢様、もうすぐご学友の方々との待ち合わせ時間ですから」

「そうね、そうしようかしら。それにしても楽しみですわ。ついにあの魔法具が本来の用途で使われるんだもの」

「あれから改良を重ねて、時間をかけて作成されていましたものね、きっと観客も大いに盛り上がるはずですよ」


 エリーゼはそう言って、レナーテもそのはずだと深く頷いた。今日この日にはこれから王城でセレモニーがあるのだ。


 それにレナーテの作った気球馬車が使われる。その様子を観覧するために友人たちと馬車に乗って学園から向かう。


 少し緊張しているのかドキドキとしていて、レナーテは少し早く準備を進めて友人とともに馬車に乗ったのだった。




 相乗りとはいえ馬車に貴族が四人も乗るとなると狭く感じるので、婚約者であるパトリスとクリストフの二人と、レナーテとステファニーの二組に分かれて王都に向かう。


 そうすると意図せず彼女と珍しく二人きりになって、改めてあの時のことを思いだした。


 公爵夫人の裁判の時バルトルトが登場し、彼は王族側に有利な証言と証拠を提出した。


 その際にステファニーが付き添っていただろう。二人きりなることがなかったので聞けなかったが今ならば自然な形で切り出せるだろうと、目の前にいる彼女に視線を送る。

 

「そういえば……アダルベルト公爵夫人の件に決着がついてこうしてベルンハルト王太子殿下と本当の白魔法の持ち主であったヘレーネ王太子妃殿下のセレモニーを迎えることが出来たけれど……あの時、裁判の場でバルトルトが登場したことには驚いたわ」

「……そう、ね」

「それに彼は、わたくしとの確執があって王族に協力するなんてありえないと思っていたから余計に意外だったのよ……それに、その後の彼にあなたがつき沿っていたことも」


 ステファニーは、ぎこちなく笑みを浮かべて不自然に窓の外に目をやって返答していたが、レナーテの言葉にぎくりとして考えるように間をおく。


 それからゆっくりとレナーテの方を見た。


「……わざわざ言うことでもないと思っていたし、私の自己満足だから気にしないでほしいのだけれど、このまま知られているのに何も言わないのももやもやするから言うことにするわ」

「ええ」

「私はただ、その……なんていうか、恩返しをしたかったっていうか、それだけでもなくて普通に一度は恋人みたいな時期もあったのだしって思いもあって」


 ステファニーはまるで言い訳でもしているみたいだったけれどレナーテは真剣に聞く。


「それにあの人も、少しは変わったから、それほど交流をするのは苦じゃなくて、ほんの些細でもレナーテさんの役に立てたらって思ってバルトルトの元へと言ったの。それから色々と話をして、今回のことは私から彼に後ろめたい気持ちがあるのならそうするべきだって伝えたのよ」

「……」

「最初は渋っていたけれど、回数を重ねるごとに納得してくれるようになって自分の行いも反省してくれたみたい」

「そういうことだったのね」

「……うん。でも、気にしないで、私なりのけじめのつもりだったから」


 ステファニーはそう言って視線を落とす。


 彼女にとってバルトルトはトラウマを背負わされるようなことになった恐ろしい相手であって、今回のようなことをレナーテは想定して手を貸したというわけじゃない。


 けれどもステファニーもあれから変わって彼女なりに考えて、自分にできることでレナーテに報いてくれた。


 それは、感謝こそすれ、批判することも過度に心配するようなことでもない。


 ただ言うべきことは、決まっている。


「ありがとうございますわ。ステファニー……とても助かったし、何よりそうして動いてくれたあなたの気持ちが嬉しかった。……今日はセレモニーを楽しみましょうね」

「うん、どんな露店が出てるかしら」


 そうしてレナーテたちは馬車に揺られて静かに王都に向かった。今日中に学園に戻らなければならず忙しいスケジュールだが、学生の本分は勉強と修練だ。


 それにそうして日々を過ごすことはきっとその後の人生でも大切な糧になるだろう。





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