52 変化
フロレンツィアとの協力についてベルンハルトと話を詰める前にレナーテはヴィクトアの私室へと赴き、考えている作戦を彼に話をした。
あれ以来初めてこうしてレナーテはヴィクトアの部屋を訪れたが、以前とは違って飾りのように置いてあっただけの本棚の蔵書が増えており、それらの中には魔法学園の教育に関する本も見受けられた。
……。
しかしそういったことには触れずにレナーテは話し終えて、彼の様子を窺う。すると彼は頷いて言った。
「そうだね。フロレンツィア様のことを考えるとその話の真実味も高いし、何よりこれなら確実に証拠を得られるからすごくいい案だと思う。それにしても咄嗟に思いつくなんてレナーテは頭の回転が速いね」
「そうでもありませんわ。作りながら色々と転用できると思っていたし、試運転する機会も欲しいと思っていましたもの」
「試運転か……え、っとでもそれってレナーテも乗るんだよね」
「ええ、生憎、まだあれを動かすだけの魔力石は用意できていないもの、わたくしの魔力とフロレンツィア様の魔力を使って何とか稼働する程度でしょうしね」
「…………安全性とかいろいろ気になるけれど、レナーテがそうするって決めたなら気を付けてっていうだけにしておくよ」
「ええ」
ヴィクトアは困ったように笑って、しかし手放しに喜ぶわけではなくそう言い、レナーテも相変わらず心配性だなと少し苦笑した。
けれどもそれ以上に何かまだ悩んでいる様子で、何か都合の悪いことでもあるのかとレナーテは首を傾げた。
「…………えっと、あのさ、レナーテ」
「なにかしら」
「うーん……あー、嫌だったらスルーしてくれていいんだけれど……これも交渉の材料に使わせてほしいんだ。きちんと言っていなかったけれど、俺は……これでも君から伝えられたことちゃんと理解できてると思う」
声は真剣みを帯びていて、ヴィクトアはつづける。
「それで色々考えて、思ったんだ。アダルベルト公爵夫人みたいに他人を使って自分だけがいい思いをしようとするのはいけない。でも自分も時には、自分と自分を大切にしてくれる人の為に交渉して望みを叶えないといけないときもある……んじゃないかな」
「……」
「って、感じなんだけど、えっと、つまりは俺はその、うぬぼれていると思われるかもしれないけれど、でもこれからの為にも俺がやるべきこともあると思うっていうか」
「……」
「俺の為にやることを君の為にもなるだなんて言えないけれどでも、俺だって君が嫌な目に合っていたら怒りたくなるし嫌な気持ちになるし、だからこのままでいて君も嫌な気持ちでいてほしくないっていうか、だから!」
ヴィクトアは、焦っているのか息継ぎなしでペラペラと喋って、声が少し大きくなった。
いきが苦しかったのか少し顔が赤くて、でもレナーテから目を話すことはなく結論を言う。
「やってみようと思う。使えるものは使って、こ、これからの為に。いいかな」
その言葉にレナーテは胸の奥からじわっとあったかくなるような心地がした。
たくさん考えて、理解しようとしてそして前に進もうとしてくれている。
そのことが何よりうれしくて、気持ちが熱くなる。
意味もなく手で手を握って、それから立ち上がって座ったままのヴィクトアに縋りつくみたいにきつく抱きしめた。いつかわかってくれたらいいと思っていたけれど、早い方がいいに決まっている。
もし間違えていたとしてもレナーテは彼の一歩を否定したりしない、なんせ二人、一緒にいるのだから間違っても大丈夫だ。
「いいと思うわ。わたくしの為にたくさん考えてくれて、ありがとう。その時は隣にいさせて」
「うん、もちろん。よろしくね」
「ええ」
そうして決行まであと二日、翌日にはベルンハルトとの話し合いをすることになったのだった。




