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【連載版】返すだけで、済むとでも?  作者: ぽんぽこ狸


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45/60

45 自覚




 対処すると言いつつも、アダルベルト公爵夫人はかなり自由に動き回っており、彼女の動向を確認するために、舞踏会に出る。


 すると案の定、公爵夫人とフロレンツィアはレナーテに接触してきた。


 彼女たちはこれまた似たようなドレスに身を包んでいて、レナーテは今度は気後れせずに彼女たちと移動し、ホールの端に設置されているソファー席で向かい合って、視線を交わす。


 多くの貴族はレナーテとアダルベルト公爵夫人の会話が気になるのか人の視線が多い。


 しかしそんなことは気にせずにアダルベルト公爵夫人は、ピンク色の唇を吊り上げてレナーテに切り出した。


「こうしてまたお話できて嬉しいわ、伯爵令嬢。それでこの間の話の答えは出たかしら?」

「私たち随分と待ったわよ」


 フロレンツィアもそうして笑みを浮かべる。


 できれば彼女からも二人きりで話を聞きたかったけれど、こうしてぴったりとくっついている以上は無理に引き離すことも難しいだろう。


 それに、ヘレーネにあそこまで言われているアダルベルト公爵夫人に平然とそばにいるのだから親子二人は似たような性質を持ってヘレーネから魔法を奪ったのだろう。


 その答えはわからないし、現に証拠もない。けれどもベルンハルトたちはそのあたりの確信はある様子だったので疑っていない。


 それを我が物顔で使い、さらにはその力と権力をちらつかせてレナーテに協力を仰ぐとは図太いことだ。


 レナーテだってその力に苦しめられた一人だというのに。


「……そうね、お時間をいただいてしまって申し訳ございません。……けれどよく考えてみましたの、アダルベルト公爵夫人」

「あら、どんなことを?」

「あなたの発言を聞いて、どうしてそのことをあなたが知っているのか、そしてどうしてあなたの娘であるフロレンツィア様が白魔法を持っているのかそれを調べて考えてみましたの」

「…………」


 レナーテは暗に、王族との出来事も、自分の出来事も彼女が絡んでいて、そして現状を正しく理解したことを示した。


 黙って、フロレンツィアと視線を交わす二人を見れば、レナーテの言葉が正しくそして、ベルンハルトの言葉が嘘ではないこともわかる。


「あらそう、それで? それをあなたが知ることなど私だって予想していたわ。そのうえで、フロレンツィアと仲良くしてほしいと言っているのよ」


 彼女は少し唇を尖らせて上目遣いでレナーテのことを見つめる。


「オホホ、その通りですわ」

「それを知ってなお、あなたは私の手を取るべき、私はそう思うのよ? シュターデン伯爵令嬢。そこまで知っているならば大方、あの男に取り入ったところでなんのうまみもないことは理解したはずよ?」

「いくら能力があったって、あれじゃあだめですわよね、お母さま」

「オホホッ、その通り。力は持つべきものが正しく使ってこそ、あんなくだらないことばかりを毎日しているような男になど何の価値もない」


 彼女たちは、口元に手を当てて笑って、まるで同年代の友人のように視線を交わして笑みを浮かべる。


 彼女たちの言った言葉にレナーテは、嫌な気持ちになりつつも、たしかに手に入るものという点で考えるとヴィクトアと結婚するというのは素晴らしいこととは言いづらいかもしれない。


 ……力は持つべきものが正しく、使ってこそ。


 その言葉を頭の中で復唱して、レナーテは問いかける。


「でもわたくしは、彼を手放す気はないわそれがどんなに損すると言われたとしてもそういう理由で一緒になることを決めたわけじゃないもの」

「……あらっ、酔狂。そう、でも賢いあなたならばわかるはずよ。あのままではあの子はどうにもならないわ。どんなにあなたが手を焼いてあげたって意味なんかない」

「そうね、彼ってばお人形さんのようだわ。力のない代替品」

「それならあなたが、手を引いて今を変えてあげればいいじゃないの。あなたにはそれだけの資格がある、私はもちろんあなたの力を買っている、けれどもそれだけじゃないわ。あなたの賢さとその行動力をなにより評価しているわ」


 アダルベルト公爵夫人はローテーブルに手をついて前ののめりになってレナーテを見つめる。


 きつい香水の香りがして、彼女の毒々しい笑みがまるで悪魔のように見えた。


「賢く実力のあるものだけが得をする社会、それがわたくしの目指すものですわ。力は効果的に使える人間が持つべきよ。それで好きなように振る舞えばいいのですわ。お好きな男性がいるならばそばに置いて、愛でておけばいいのよ。あなたは自分の力を使って、好きに生きられる」

「ああ、素敵ですわ。それなら、今の彼の状況だって打開できるもの」

「そうでしょう? あなたにとって悪い話じゃないはずよ。それに、どうせお姉さまたちは動かないわ。だって本当は知らないふりをしていたのですもの」

「オホホ、ええ、あの男さえいなければ、お母さまもやっと報われて私は王太子妃になれたというのに、残念過ぎるわ」


 彼女たちはまるで、小鳥のさえずりのように絶え間なくちゅんちゅんと話をする。


 ……本当は知らないふりをしていた? ヴィクトアの状況を今のままでは改善することはできない?


 彼女たちの言葉にレナーテは次第に惑わされていく。彼女たちの言っていることが真実かどうかもわからないし、それにあまりにもなことしか言っていない。


 しかし本当にそうだとしたら……いや、それ以前に、とある感情を言い当てられて、レナーテは唖然としていた。


 当たり前のように、ヴィクトアの交換条件に乗って、彼に手を貸すのだと意気込んだ。


 そのうちに色々とあって彼のことを深く知った。


 素直だとか優しいだとか、思いやってくれているだとか、ヴィクトアはとても純粋にレナーテのことを好きになってくれているのだとか。


 そういうことを知っていざ、蓋を開けた彼の願い。


 それを聞いて、彼を見て、レナーテが願っているもの。そしてレナーテが手に入れたいと願っているのは彼の為にやりたいと思っているのは……。


 …………。


 言われてやっと自覚した。反射的に、ヴィクトアに返した言葉。それらがすべてを物語っていたのだけれどレナーテはまだはっきりと自覚していなかった。


 そして、その気持ちがあるからこそレナーテは望んでいるのだ。はたと気が付いて、そのまま彼女たちの言葉を聞いて気のない返事をして舞踏会を後にしたのだった。





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