26 仕事
屋敷の中を抜けて裏手側、井戸や厩舎がある方向に向かう。
そこには新しい工房らしき小さな建造物が建っており、使用人が使うものというよりも貴族も出入りできるように小ぎれいにされている。
仕事をしている人が行き来していて、レナーテは思わずお付きの侍女のエリーゼに問いかけた。
「こんな場所があったこと、あなたは知っていたかしら?」
「いいえ、お嬢様。わたくしはお嬢様にお仕えしている時間が長いですから、しばらく屋敷の事情は存じていませんわ」
「そうですわよね」
「ここはほんの半年前に建てられた場所でもうすぐ、お話をいただいているハイデンベルグ侯爵との契約続行に関する話し合いもあるとうかがっています」
アンネマリーが補足するように言う。
そうして中に入ると、そこはしっかりとした作りで周りをたくさんの棚があって工房と呼ぶのにふさわしい。大きな作業台の上には箱の中に入っている雑多な魔石があった。
新しく建てられた場所だけあって中もやはり綺麗で棚には秤や小瓶とざったな物が並んでいて、兄たちが適当な場所に座って作業をしている。
それを見てレナーテはピンときた。
「なるほど、魔石の選別や加工をしているのですね。たしかに継続的にうけるにはいい仕事だわ」
「お、レナーテなんだ、見学か?」
「まってろよ、終わったら遊んでやるから」
「あと一時間ってところか?」
彼らは視線をあげてレナーテに口々にそんなことを言う。
魔石は採集方法や大きさによって含有魔力が変わったり魔石の質も違うことが多い。
大きくて価値のあるものならば一点ずつ購入することもあるだろうが、こういうサイズのものはある程度の選別と加工をへてからまとめて販売されるだろう。
平民では魔力を図ることや感知が難しいために魔力を持っている人間がやる必要がある。
そこで兄たちのような魔力を持て余し気味な人間を使うというのは良い手だし、女性では重たい魔石を運ぶのは一苦労だ。丁度いい仕事と言えるだろう。
「わたくしはもう子供ではありませんもの。遊んでもらわなくて結構よ。それにしても、お兄さまたちは冬以外は領地の方にいるでしょう? そちらでも同じような仕事を?」
「ああ、フランツ以外は時間があるからな、あとは父上と協力しつつだな。実際にそれほど作業量が多いわけじゃないし」
「目利きをしてくれる子もいるしな」
そう言ってアンネマリーに視線を向ける。
話しながらもテキパキと手を動かしている兄たちを見て、彼らも案外、適当で貴族らしくない部分もあるけれど、細かい作業が出来ないわけでもないのだと思い直す。
ただ単に、少年の心を残しているだけで、家の為に貢献しようとしてくれている。立派な兄たちだ。
……それにしても、目利きね。
アンネマリーに視線をやってレナーテはその瞳を見つめた。
きらりと光りを孕んだその目だが、母は変わった色と言っていたし、兄たちは目利きと言っている。
彼女が隠そうとしているのならばレナーテが取り立ててその秘密を暴露する必要はないだろう。
「そうなの。有能な子が来てくれてお母さまも喜んでいたし、お兄さまたちの有り余るバイタリティーを少しでも割のいい仕事に費やせるならとても合理的ですわね」
「なんだと、レナーテ。俺たちだって大人だ、時間なんか足りないぐらいなんだ」
「な、この間だって領地に狩りに行って日帰りするのが大変だったんだぞ」
「そうだ、碌にクッキーもやけやしない」
「それはただ休日に娯楽を楽しんでいるだけしょう? 分かっていますのよ」
「なんだバレたか」
「はははっそりゃそうか」
「今度レナーテも連れて行ってやろう」
「おう」
「そうだな」
彼らは勝手に会話しつつ、魔石を削ったり、整えたり計ったり、いろいろだ。
やることがなく、暇を持て余すよりはずっといい……ただ……。
「そんなことを言っていないで、いい人の一人ぐらい見つけてくださいませ。この間の舞踏会のこと、お父さまたちに報告しますわよ。特にフランツお兄さま」
「なんだ手厳しい」
「家が安定したらそのうち、来てくれるって」
「そうだそうだ」
やる気のない言葉だが、レナーテは家が安定したらという言葉にそれもそうかと納得してしまう。フランツ以外は別に、平民の女の子でもいいのだし、まだまだ男性の結婚適齢期は長い。
将来の為に今は仕事をするべき、彼らがそう思っているのならばレナーテは口出し無用だ。
……それにしても女っ気のないお兄さまたちを心配しているというのもなくはないけれど……それは今度言えばいいわね。
「まぁ、分かったわ。頑張ってくださいませ、お兄さま。お仕事に熱心な姿が見られてとても嬉しいわ」
そういうと彼らは顔をあげて「じゃあな」と手を振る。夜は皆でゲームをしようと言って別れた。




