22 間違い
いつも通り振る舞っただけだった。
しかしバルトルトは、お見合い中の令嬢にくすくすと笑われて、呆れた態度でもういいと言われ、その女のくせに図太い態度に思わず怒鳴った。
しかし、魔法学園に通っていないくせに魔法を持っている令嬢だったようで、顔面に水の塊をぶつけられ、気がついたら自室のベットだった。
思い出すだけで腹が立って「クソッ、クソォ!」と絞り出すような声をあげて布団を拳でたたき続ける。
その様子に侍女の一人も寄ってくることはなく、そそくさと部屋から出ていくだけだ。
なんて情の無いやつだと思う。
まるでレナーテの様だと思って腹が立った。そうだ、あの女の鼻を明かさないことにはバルトルトはプライドがズタズタで生きていけないのだ。
こんな程度のことでへこたれているわけには行かないだろう。
……今に見てろ、力がなくたって俺には魅力があるんだ。俺から奪ったことを後悔させてやる!
そう意気込んでバッと布団を跳ね飛ばしベッドから起き上がる。
それからお見合いをする。男らしさを見せつけようと今度は強引に迫ると騎士から重い一撃をもらい、またバルトルトはベッドで目を覚ますことになった。
目を開くと母がおり、めそめそと泣いている。
「……もう、もうああ、もう。恥ずかしい……もう、はぁ……堪らないわ、もう。あなたのせいで、公爵夫人にも見捨てられて、問題を起して、このままじゃあ、どうしようもない……ううっ」
頭を抱えて母が泣き、バルトルトは、なにを言っている自分は間違ってないはずだと怒鳴り散らそうかと考えた。
そもそもの問題、公爵夫人がバルトルトに言ったのだ。契約を破ったとしてもペナルティーはない、好きなように魔法をきわめて役に立てばそれでいいと。
シュターデン伯爵家は派閥外の貴族だ。どうしたってバルトルトの勝手だと言っていたのに、アダルベルト公爵夫人は婚約破棄には同意したくせに、力を失ったことに激怒した。
予定と違ってフロレンツィアが婚約者から外されたことがよっぽど痛かったのだろうが、そんなことはバルトルトには関係がない。
「…………やめてくれ母上、そんなふうに言われたって、俺は間違ってないだろ!」
「ううっ、う、ああっ、もういや」
「なんだもういやって! 俺は、そうしていいと言われたから、こうやって生きてきたんだ。今更俺が間違ってるってるってのかよ!」
「っ、はぁ、っうう」
「こうして今だって、家の為に新しい相手を探してやってるだろ! なにが不満なんだよ! なにもしていない女のくせに!」
母が泣いていることになんともいえない感情になり、任せて怒鳴りつけた。
すると彼女はぴたりと止まって、それから静かに顔をあげる。まるで能面のように感情の抜け落ちた顔をしていてぞくりとした。
「…………たしかにそういうふうに、言ったわね、好きにしていいってあなたの力だわって。たしかに奪ったわよ。でもこうすることでしか、あの方の懐に入ることが出来なかったのだもの、シュターデン伯爵家みたいになれっていうの? 苦労なんてしたくない」
「は?」
「私は賢い女だから…………でも、ああ間違っていた。あなたがそうなるのなら間違っていた。私が悪かったわ。そうね、そうよ、いいのよ、もういいわ」
「は??」
「まだ、みすぼらしい方がましだった。こんなことになるのなら……はぁ、過ぎた力なんて持つべきではなかったのよ。ごめんなさいね、あなたがそうして怒鳴るしかできなくなったのは全部私のせいよ、ごめんなさいね」
言うだけ言って、母は立ち上がって部屋から去っていく、バルトルトの言葉に対する答えはまったく返ってこないままなのに、彼女は一人で納得した。
まるでバルトルトの言葉なんて真に受けてない、彼女の目には移っていない。
無視されているも同然で、さらに叫び散らして、捕まえようとした。母の従者に捕らえられ、やっぱりベッドの上で目が覚めて、窓に鉄格子がはめられ、扉が施錠されている。
隔離されていることに気が付いた。でももう怒鳴り散らす相手すらいなかったのだった。




