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【連載版】返すだけで、済むとでも?  作者: ぽんぽこ狸


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20/59

20 ドレス




 冬が深くなる頃には、冬期休暇がやってきて、実家に帰りゆっくりと過ごす……というわけにも行かないし、実はクラスメイトや友人たちとも会うことが出来る。


 同じ貴族という立場上、冬の間はあちらこちらと社交をして、結婚相手を探したり交流を深める必要がある。


 なのでクラスメイトとは会う場所が王城や、貴族の館となっているだけでどこかしらかで顔を合わせるのが常だ。

 

 王城の舞踏会ではステファニーと顔を合わせることになり、彼女は制服ではなく美しいドレスに身を包んでいて、レナーテはいつもとは違った雰囲気に思わず口にした。


「可愛らしいドレスね、ステファニー」

「そ、そう? 両親が今年こそはって張り切ってしまって」

「ああ、そういうこと。あなたの趣味というわけではないのね」

「……は、半分ぐらいは私の趣味よ」

「そうなの、いいことだわ」


 今年こそはとは、結婚相手のことだろう。


 バルトルトに目をつけられた時、ことわり切れなかった理由の一つに彼女自身にそういう相手がいなかったという理由もあったのだと思えば頷ける。


 それに学園に通っている人間は、その間格段に出会いが減る。


 もちろん学園内で縁を探すこともできるけれど、それがきちんと実って婚約して結婚まで結びついたという話は多くない。

 

 自分だけで選んでしまうからこそ、いろいろと問題がある場合が多いのだ。


 それに比べてこういう場では、両親や親戚からの紹介を受けて、あらかじめ条件的に問題ない相手と距離を縮めることが出来る。


 その利点を十分に生かすために着飾られたステファニーは少し幼く見えた。


 しかし、今はレナーテの隣にいる。どうやら今日は良い相手とはめぐり会わなかったのだろう。


 キラキラとしたシャンデリアの明かり、貴族たちが談笑する声、美しいワルツの音色。


 それらはそこにいるだけで自分は特別なものになったかのように錯覚させて、自然と気分が高揚するものだが、なにも必ず男性と楽しまなければいけないというわけではない。


 ヴィクトアはこういう場にはあまり出てこないのだ。なのでレナーテは相手を探す必要もないけれど踊る相手もまたいない状態で壁の花に徹する。

 

 案外その方が、ゆったり楽しめているような気さえする。


「……レナーテさんはその……想像通り、美しいドレスね。シックなのが似合っている」

「ありがとう」

「でもレナーテさんなら、もっと豪奢なドレスも着こなせそうなのに」

「そうかもしれないわね……それをほめて、気づかってくれるような人と来られたらいいのだけれど」

「あ……ごめんなさい」


 レナーテの言葉に、ステファニーはすぐに察して謝罪をした。そんなつもりではなかったのだとばかりの謝罪に、レナーテは、首を傾げた。


 それをほめて気遣ってくれない人たちなので、レナーテは高級な生地であっさりとしたドレスを仕立てることが多い。格を保ちつつも動きやすさを担保するためだった。


 それはなぜか、同行者であり、絶賛婚活中の兄三人が、細やかなエスコートなどできないからである。


 フワフワしたものを着ていても、いくら重かろうと「かわいいな!」と言うだけ言ってスタスタ歩き置いていくし、気が向けばあっちへこっちへと連れまわし、レナーテは疲れてしまうのだ。


 なのでこうなっているのである。


 そして当の彼らはというと婚活に来ているのにも関わらず軽食に釘付けだ。女性に声をかけるでもなく、両親が仕事で来られないのをいいことに、めっぽう楽しんでいる。


 あの人たちは困った人たちだ。


 と、そういうことを言いたかっただけで、なにもステファニーが謝るようなことはない。


 ヴィクトアがこないことなど特に気にしていないし、庭園のささいな段差で躓くような人がレナーテを華麗にエスコートしワルツを踊れるとはとても思えない。


 踊れば足をねんざするだろう。


「え、違うのよ。ステファニー、わたくしはお兄さまたちと来ていて、エスコートのできない仕方ない人たちだとは思うけれど悲観してはいないわ」

「そうなの?」

「ええ、だってほら、こうしている方が、音楽もよく聞こえるし、美しいホールだってずっと眺めていられる、せっかくあるのに注目しないなんて勿体ないもの」

「なるほど……当たり前に思っていたけれど、初めて入った時にはたしかに感動して絵画にも彫刻にも釘付けだった。いつからか気に留めなくなったのだっけ」


 レナーテはレナーテで、この場にいることを楽しんでいるのだから問題はないだろう。


 誰かに褒められなくたって、これはこれで好きなドレス、好きな髪型にお化粧をしている。


 それで十分。後は社交の場で兄たちのかぶっている貴族の皮がはがれないように見張るだけである。


 考えつつもホールを眺めながら呆けている……かのように見えるレナーテとステファニーに、いつの間にかぞろぞろと従者を連れた人々が集まってきた。


 声をかけられてからやっとレナーテは彼らが傍まで来ていたことに気が付いたのだった。





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