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【連載版】返すだけで、済むとでも?  作者: ぽんぽこ狸


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19/59

19 お人よし



 クリストフとステファニーは緊張した面持ちで森の中を進んでいく。先頭は彼らで、レナーテとパトリスはその後ろを若干距離を開けて散歩のように道を進んでいた。


「うわ! でたっ、っ、やろう、ステファニー!!」

「ひぃっ! は、はぁ、はっ、はいぃ!」


 行く先を魔獣が塞ぎ、クリストフは手をかざしてステファニーは新しい杖の先を向ける。


 彼女の腰には、レナーテの作った魔法具が揺れていて、一定範囲内は冬とは思えないほど温かい。


 魔法具というのは基本的に魔法を刻んだ魔法石を組み込んで使いやすい道具の形に加工するのだが、今まではその石をむき出しにした状態で使っていた。


 しかしそれでは繊細な作りをしている魔法石がいつ破損するともわからない。


 なので外装を取り付ける必要があり、そこは工夫の凝らしどころである。


 持ちやすく使いやすく魔力を込めやすい機能美を追求した結果、小さめのオイルランタンの形になって彼女の腰で空気を温めている。


「いけるよ! いけるよ、全然小さい魔物だし!」

「はいっ」

「余裕余裕! 頑張って!」

「は、はいっ」


 クリストフは手出しすることはできないので、やんややんやと励ましているが集中の妨げになっているような、いないような。


 ……まぁ、彼なりの助力ですものね。口を出す必要はありませんわ。


 そう気持ちを切り替えつつ、隣で「がんばってー」と適当に言っているパトリスにレナーテはふと思い立って言った。


「そういえば、パトリス」

「んー?」

「先日は何も言わないでいてくださってありがとうございますわ。察していると思いますけれど、わたくしの魔法は炎と風の二属性よ……」

「んー……」

「一応、隠してはいるけれど、今のクラスメイト達ならば事情を話せば理解してもらえるかもしれない、だから無理に黙っていてほしいとは━━━━」

「別に。なんとなく、思ってたしー」


 レナーテは、あんなことをしたからには、隠しておけないと覚悟をしていた。


 それに将来の相手はすでに決まっている状態で、ヴィクトアという王族がきちんと契約の内容についてや元の持ち主であったことを補足して貰うということも可能だ。


 彼とは婚約者という関係なのだから、レナーテを見初めた理由として説明することもできるだろう。


 つまり名誉の回復をできる材料はそろっている。


 だから、パトリスがあの場で協力してくれたとしても今後もずっと秘密にしておいてほしいとは言うつもりがなかった。


 それに、ヴィクトアと結婚したのは彼が何かしらの事柄にレナーテを利用したいと考えているからだ。


 最初は、自らの身分向上の為に必要とされたのかもしれないと思っていたけれど、彼のことを知っていくと自分自身の為にそういうことをする人物ではないだろうという思いが強くなる。


 ということは、何か具体的に望まれることがあるかもしれない。そしてそれはレナーテの魔法を隠してやれることではない可能性もある。


 だからこそそう口にしたのだが、パトリスはちらりと隣にいるレナーテに目線を向けてそれから笑みを向けた。


「なんか弱いなって」

「どういう意味ですの」

「バルトルトってすっごくつまんないなーって感じだったから、だって炎と風の二属性だよー? もーっと、すごくて、もーっと、強いはずよね?」

「あっ、あっ、きゃぁぁああ!!」

「わぁあ! ステファニー!!」


 彼女は恍惚とした表情を浮かべて、頬を染めた。


「だから、過ぎる力を持ってるだけかもなーって。でもレナーテはしっくり。やっぱそうだよねーん。そーだよねー、ふふっ」

「な、なんですの」

「ううん。私、強い人好きだから。皆に勝手に教えたりなんかしないよー。だから安心して」

「…………」


 言っていること自体は、聡明で誠実な言葉であるのだが、彼女の様子に含みがあるのを感じがしてレナーテは黙った。


 そのうち戦いを挑まれたりしそうだが、あいにくレナーテは戦闘が好きというわけではない。


 どちらかというと、新しいものを作り出したり、どんなことが出来るか想像する方が好きなのである。


 視線を前に向けるとなんとか攻撃をして、決死の攻防を繰り返していたステファニーだったがついに恐れから目をつむって攻撃を放つ。


 するとその隙をついて魔獣がとびかかった。


 パトリスが手をかざすと、風の刃がシュンと飛んでいき、魔獣を真っ二つに切り裂いて腰を抜かしたステファニーとクリストフを守る。


 彼らは震えた声でありがとうと口にして、手を取り合って悪かった点を洗い出し、また新しい魔獣を探しに森の中へ足を進める。


 レナーテは彼らの様子を見て、パトリスの言葉には答えずに、一度ぐらいだったら戦闘に付き合おうと思いつつも聞いてみた。


「ところで、あなたはどう思っているの?」

「ステファニーのことー?」

「いいえ、クリストフ……婚約者なのでしょう?」


 問いかけると、パトリスはその意味を理解して「あー」と考えるような声をあげた。


 てっきり彼らは友人関係なのかと思っていたがそうではなく、きちんとした婚約者で割と仲がいいらしい。


 恋愛結婚が流行っている流れもあるし、ステファニーのことを気にかける彼について、一緒に行動を共にして、トラウマ解消に手を貸すのは不満ではないかと心配になったのだ。


 しかし、レナーテのそんな配慮など気にも留めず、パトリスはのんきに言った。


「お人よしだなーって。でも、そういうまっすぐなところ嫌いじゃないから……それに、一番は私だってちゃんと知ってる」

「信頼してるのね」

「うん!」


 信頼、そんな言葉がぴったりだと彼女のまなざしを見て思った。


 幼いころからの婚約関係では、距離があったりうまくいかなかったりということが多いと聞くし、レナーテも例外ではなかった。


 けれどこんなふうになれる可能性もあったのだろうかと、少しパトリスとクリストフのことをうらやましく思ったのだった。




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