13 理由
「っ、わ、わ゛ー!!」
すると数分もしないうちに叫び声が聞こえてきて、レナーテは足を速めた。
到着するとどう考えても魔獣に襲われているクリストフの姿があり、魔法を駆使して襲い掛かってくる魔獣に齧られて流血していた。
しかし何故かその後ろに、ステファニーの姿がある。
彼女は魔法の位置を定めるためにもっている杖を必死に向けていて、すばしっこく動く魔獣をどうにかとらえようとしている。
「うっ、痛っ、くそっ」
クリストフは何とか魔獣を退けようと、持ち込んだナイフで切り付けて距離を開けようとした。
ただ、魔獣の方も必至だ。
彼が魔法ではなく武力で応戦しようとすると、クリストフの陰に隠れて怯えた様子で狙いを定めていたステファニーの方へと射線を切りながら向かっていく。
「っ、ひ、ひゃああっ!!! あっ、あっ、こ、こないでぇ!!!」
「ス、ステファニー!」
「いやぁっ!!」
すると彼女は、咄嗟のことに踵を返す。そしてすぐ後ろにあった木に激突した。
そのまま、とても冷静とは思えない様子で体勢を崩しながら情けない姿でかけていく。
その後ろ姿を追おうとした魔獣にレナーテは手のひらを向けて、強く炎で包んだ。残るのは真っ赤な魔石と灰だけだ。
「……クリストフ、大丈夫かしら」
「! レナーテ、助けてくれたんだ、ありがとう……えっと、それで」
「あなたは、ステファニーと何か関係があるのかしら」
「…………まぁ、関係というほどでもないけれど……あの人………」
手を差し伸べると彼は、自分で持っていた水の魔法具を使いながら傷を治しレナーテに気まずそうに言った。
「実力はあるし、人の為になる魔法を持っている、優しい人なんだけど……酷く怖がりになってしまったみたいで」
「あの様子を見る限りその様ね」
「うん。だけど、こんなことをレナーテに言うのはどうかと思うけど、僕は今のクラスの状況、納得できなくて、けど当事者じゃないから」
「だから、わたくしに声をかけたのかしら」
「いや、それはそういうつもりもなくて……ただ、率先して備品の交換とか、怪我をしたときの治癒とかやってくれていた子だったから……何というか」
「……」
「見ていられなくて」
「そうね」
「ごめん、助けてくれてありがとう、僕も人のことにかまけている暇はないよね、パトリスに負けないぐらい強くならないと」
「ええ、それじゃあ、お先に」
「うん!」
レナーテが短く返すと彼は勝手に切り替えて勝手にやる気を出し、笑みを浮かべた。
先ほどの様子を見ると、パトリスに敵うようになるのはまだまだ先だと思ったが、それは指摘しない。
そしてパトリスと同じようにレナーテもお先にと言って、ステファニーを追いかけた。
日差しの明るく開けた草原に出ると、教師は呆れかえり放置されて、一人で蹲って泣いているステファニーの姿があった。
才能がなければ折れて、逃げ出して諦めればいいというのは簡単で、レナーテも長い間勉強していると母にそう言われたことがあった。
ただバルトルトの力を見てあれは自分の物であるという意識から自信を失うことはなかった。
しかしそうではなくても自分の魔法を持たない学園の生徒たちもいて、彼女たちは必死になって自分にできることを模索している。
勉強を頑張って体を鍛えて、時にはお金に物を言わせて切り抜ける人もいるだろう。
それでも、体が弱く、勉強が得意ではなくて、お金も自由に使うことが出来ない場合もある。
そういう子もいた。さらに彼女は今、いじめという精神的苦痛で追い詰められて対策を考えるだけの余裕も持ち合わせていないのかもしれない。
彼女がそれほどどうしようもなくて、バルトルトを頼るようにして関係を持ったのかどうかなど本当のところはレナーテにはわからない。
でももし、今こうじゃなかったら。心を落ち着けて戦えるだけの余裕があったら、彼女は変わることが出来るのではないだろうか、そんなふうに想ったのだ。




