12 実地
実地演習は実際に周辺の森の中を進み魔獣を倒し目的地に到着するということを目的とした訓練だ。
魔法使いの仕事は多岐にわたり、自分の属性から選ぶことが出来るとしても招集されれば戦闘に参加する義務があり、いざという時には市民を守って戦う。
なので出現率の高い小さな魔獣ぐらいならば倒せるようになって一人前、魔法を持っていない人は、今までの経験や、自作の魔法具を使って対応するのが一つの手だ。
最終的に森を抜けられればいい、それが出来れば魔法学園を卒業し魔法使いとしての資格を得ることが出来る。
実地演習はこちらのクラスでは、二年生の後半から始められていて、その中でもパトリスが素晴らしいという話は教師から聞いていたというわけだった。
「それでは、実地演習を始めます。再度、お伝えしておきますがこの森は学園所有の管理されている土地です。ここ以外の森には学生のあなた達は気軽に足を踏み入ることはないように」
教師が森の近くにある開けた土地にいるクラスメイト達に声をかける。
管理というのは、そこに住まう動物を調整し、強力な魔獣が出ないように駆除を行って訓練用に整備しているという意味だ。
管理されていたとしてもまったく危険がないわけではない。
いつもの実技の練習に比べてクラスメイト達もピリついた空気をしていて、自分の持っている杖や魔法具を握り直している。
「今日の課題は一匹で構いません、魔獣を倒し魔石を持ち帰ること、質によって加点もあり得ます。以前から話をしているように、決して森の中で気を抜いてはなりません。大きな怪我をすると必ず完璧に治せるという保証はないのですから、油断をしないこと、いいですね」
「はいっ」
気合いの入ったそろった返事が上がり、教師は笑みを浮かべて頷いた。
それから少し鼓舞するような言葉を言って、生徒たちはある程度距離を置いて森の中へと入っていく、厳密な試験ではないので友人と固まっている人もいた。
レナーテはクリストフとパトリスと意思疎通が取れる距離感にいて、パトリスはワクワクとした様子で森の奥を見据えて、クリストフはレナーテに気軽に少し手を振っている。
「では、はじめ!」
レナーテはクリストフに笑みを返した後、冬用の重たいローブを少しよけて、それから短い芝生を踏みしめて森の中へと入っていく。
木の根がごつごつとしていて、白い息を吐いて、本格的に雪でも振り出したらさらに厳しい訓練になるだろうと想像する。
……でも、大丈夫。訓練もしてきた、力もちゃんとある。
そう思うと下手な緊張は消えて、奥の方へとずんずんと進む。
すると視界の端で動く物を見つける。
しばらく進んでのことだったのでやっと魔獣をみつけたと振り向き、茂みに手をかざして振り向けば、まだ魔法を使っていないのに血しぶきが上がり、がさっと中から現れたのは……パトリスだった。
そして彼女は、すでに血濡れでレナーテは面食らって硬直した。
「あははー、レナーテ、お先ー」
「お先って……」
そう言って彼女は自分の足元へと視線をやる。
すでに横たわっている兎は目が真っ赤で魔力の光りを纏っている。
これが魔獣の特徴だ。その特徴のある眼で魔力を感知し人間を襲う凶悪な化け物、パトリスは風の魔法で引き裂いて腹から魔石を抜き取る。
「早い者勝ちっしょー? 先行ってるからー」
「そうね、わたくしも頑張るわ、気を付けて」
「うん。あーそうそう、あっち側。クリストフが行ったよ、じゃあねーん」
そう言って彼女はレナーテから見て右手側を指した。
似たような位置から参加したのでそれは知っているがわざわざ位置を教えたというのは協力しろという意味だろうか。
……魔法を開花させたばかりだから心配しているのかしら。それとも何か別の理由?
彼女は気さくで、そして強い人らしいが、少々なにを考えているのかわからないところがあった。
けれどもなんとなくそちらへと足を向けて、歩みを進めた。




