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【連載版】返すだけで、済むとでも?  作者: ぽんぽこ狸


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10 謝罪



 彼女はステファニー。


 静かに下を向いたままの彼女のことをクラスメイト達は責める様な目線で見ていたり、あざけるように笑っていたり、不憫そうな表情をしている者たちもいる。


 しかしカリーナはさも、全員の総意であるかのように、自信満々でリボンを揺らして彼女の方へとゆっくりと視線を向けた。


「……人の物を取って置いて、のうのうと今年もこのクラスにいるのだから驚いたわよっ! それにこのクラスにはレナーテもやってきた。どの面下げてここにいるのかしら~??」

「そうよそうよ、まったく油断ならない」

「たしかに恋愛は素敵だけど、婚約者がいるのに公然と関係を持つなんてどうかしていたのよ」


 彼女たちは棘のある言葉を吐いてくすくすと笑い合う。


 その言葉にクラス全体も、まあそうかという雰囲気に包まれていく。


 たしかに流行ではあるし、素敵という声も多いけれど今になり、それによる問題の影響を受けて王太子の元婚約者であるフロレンティアに対する同情の声が上がっているのも事実だ。


 世間の流れによってこの小さな学校という社会も流されて、公爵令嬢という強い立場をもったカリーナが位置関係を決めたのだろう。


 被害者で受け入れられるべき、成績のいいレナーテ、そして婚約者にも去られて相手のいる人を奪い取ったという汚名の残ったステファニー。


 そういうふうにたった今決まったのだ。


 ……それに、意欲的にバルトルトにアプローチをかけてそう画策していたというなら仲良くする理由もないのよね。


 現実的に考えればそれが結論だ。


「ね、レナーテもそう思うでしょう? ステファニーには大きな借りがあるもの、返してもいいんじゃないかしら?」


 カリーナはにっこりと笑って、レナーテに手を差し伸べる。


 借りを返す。つまり復習をしたっていいんじゃないか。とレナーテに提案していてそれは正当性があると彼女は主張している。


 横目で見るとステファニーはびくっとして、今度は震えているように見える。


 それはなんだか憐れなきもするし、なによりレナーテはあれ以来、大きな力を持っている。それは、きっと今以上に自分のやることには意味が付きまとうということだ。


 借りは返す人でいたい。でもそれはこんな意味での言葉ではない。


「……申し訳ありませんわ。公爵令嬢、わたくし、あまり心当たりがありませんの。わたくしが怒りを向けていたのはバルトルト。彼だけですもの」


 言うと、カリーナは目を見開いて信じられないとばかりに自分の手とレナーテのことを見つめた。


「それで、クリストフ。初めての実地演習はいつになるという話でしたっけ?」

「あっ、ああ! それがね、割と直近ですでに肌寒いから、もう少ししたら本格的に防寒具が必須だね」

「えー、動けばあったかくなるからへいき、へいきー」


 無視するとカリーナの手はゆっくりと引っ込んでいったが、彼女がどんな顔をして去っていったか分からない。レナーテは彼女たちが向かった方向を見た。


 そこから一歩も動かずにいるステファニーをみんなで囲んで、あざけたりちょっかいを出している。


 どちらにせよそう言うつもりで、そういうふうに自分の権力を誇示する人なのだろう。


 それよりもレナーテはこれからのことを楽しんでいきたいそういう意味でクリストフたちを選んだのだった。




 一日の授業が終わり、レナーテはほくほくとした気持ちだった。


 自分の元に戻った魔法のことを考えると、できることが沢山あるのではないか、あんなこともこんなことも、そう考えるだけで楽しい気持ちになって友人もできたしと考える。


 放課後には学園街の方へと向かって馴染みの店を教え合おうと提案されていたのですぐに教材を纏めて立ち上がった。


 しかしバタバタという足音が近づいてきて、それはレナーテの目の前で止まる。


 そして、髪を思い切り振り下ろすようにしてやってきたステファニーは頭を深く下げた。


 それは、額が机に触れそうなほど。


「も、申し訳ありませんでしたっ!!」


 それからとても大きな声が響いて、クラスメイト達から注目が集まる。


「申し訳、ありませんでした。申し訳ありません。っ本当に、ごめんなさい」

「……」

「ごめんなさい、レナーテさん。バルトルトさんのこと、申し訳ありません」


 肩を震わせて頭を下げたまま、ステファニーは何度も謝罪を繰り返す。


 ……そんなふうにされては……。


 困るというのが正直なところだ。けれども、よく見てみればぱたぱたと床に涙が落ちていき、嗚咽のような声まで聞こえる。


 そろりと伺うようにこちらを見る目は、焦点が合っていないように眼球がぶるぶると震えていて、彼女はまるで温かい教室の中でも凍えているかのようだった。


 ……他意はないのですわね。


 しかし、まさか人からこんなふうに怯えられる日がこようとは、と様々な思考が頭の中をよぎる。


 数秒の沈黙をはさむと、返答をしたのはレナーテではなく、カリーナだった。


「なんて酷いのかしら、傷ついている人にこんな大勢の前で憐れみを買うように謝罪をするなんてっ! いやらしいですわ!」

「そうよそうよ、許さなくていいのよ! レナーテ様、その子性格が酷く悪いのだから!」

「ちっ、ちが、そんなつもりじゃあ、ないの。私は━━━━」

「じゃあ、どういうつもりなのよ。わたくしたちに教えてくださる? ごめんなさいねレナーテ。この子のことは、一年生の時から知っているわたくしたちがきちんとしますから」


 かつかつと歩いてきたカリーナに手を取られると、ステファニーは彼女に対しても怯えたような眼をして、それでも振りほどかずにつれられてとぼとぼと歩いていく。


 ほかのクラスメイト達はひそひそと話をしながらその様子を窺うように見ているだけなのだった。





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