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第八章 反転する監視網

その日の夜、職員会議室は異様な空気に包まれていた。

プロジェクターには、例の映像の一部が映し出されていた。

高橋が生徒のスカートの折り数を指摘し、鏡を取り上げ、言葉を詰め寄る場面。

それは教育的指導と見るには、あまりにも異質だった。


「この映像、本物ですか?」


教頭の問いに、高橋は短く頷いた。


「映像は事実だよね。ただし、意図的に切り取られている。文脈を無視して再構成されている」


教頭は腕を組み、眉をひそめた。


「それでも、教育委員会からの調査が入る可能性がある。我々としても“把握”せねばならん。

誰がこれを撮影し、流したのか。…高橋先生、心当たりは?」


「“ある”というべきか、“ない”というべきか。だが、ひとつ確かなのは、

校内に“俺を把握しようとする者”が現れたということだよね」


一方、その頃。


生徒たちの間でも“噂”が拡散し始めていた。

高橋が秘密裏に全生徒を観察していたこと、指導室での“尋問”に近い面談、

“標的”になった生徒の沈黙。中には、高橋が「生徒の全てを把握している」と豪語していたことまで、

ネット掲示板に投稿されていた。


誰かが、意図的に内部の“観測記録”を流していた。


そして翌日。登校した高橋を待っていたのは、生徒会長の訪問だった。


「先生。少しだけ、お時間をいただけますか」


「…なんの話だろうね」


生徒会長は丁寧に頭を下げた。


「今、校内に混乱が広がっています。その“源”が、高橋先生にあると考えている生徒もいます。

ですが、私はそうは思いません。これは“対立構造”の演出です」


「……」


「先生を“監視する者”が、別に存在する。

つまり、“監視されていた側”が、“監視者”に変わろうとしている」


高橋はゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「…反転、だよね。主導権を握るつもりなら、手段は選ばない。今、俺は“把握される側”に回った」


生徒会長は目を伏せて言った。


「先生。私は事実を知りたいんです。真実がどこにあるのかを。

…如月静香を、信じすぎるのは危険かもしれません」


高橋の瞳が一瞬だけ鋭く光った。


「君は、“誰が敵か”を決めかねている。だが、それでいい。

“疑う”という知性は、“正しさ”を選ぶ礎になるんだよね」


その日の夜、高橋は自室でUSBメモリを机に置き、ふと笑った。


「さて。“全ての生徒は把握内”でなければならない。“敵”でさえも、例外ではないよね」

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