第四章 折れたスカート、歪んだ心
週が明けた月曜日。高橋はいつも以上に早く教室に入った。
彼の頭には、先週の如月静香との面談が残っていた。
冷静な言葉、計算された表情、そしてあの唇の艶。
(完全に自覚的。あれは計算された逸脱だったよね)
そして、今朝。高橋の眼は開口一番で山崎を捉えた。
彼女のスカートが、明らかに“昨日まで”と違っていた。
「山崎。…それ、四段折ってるよね?」
「え、あの…そんな、気のせいじゃ…」
「嘘はすぐ分かるよね。君の脚のライン、昨日までより明らかに出てる。
あと、座った時に膝が完全に出るようになってる。三段ならそうはならない」
山崎はうつむき、小さく唇を噛んだ。だが、高橋の視線は既に次の問いを放っていた。
「君、この前まできちんと守ってたよね。誰かの影響、あるよね」
沈黙。高橋はノートを取り出すこともなく、背筋を伸ばして言い放った。
「誰かが“乱れ”を見せ始めると、必ずこうなる。集団とはそういうもの。
ひとりの逸脱は、やがてクラス全体を歪ませる。だから、初期に潰すしかないんだよね」
ホームルームが終わったあと、高橋は廊下に立ち、無言で教室を見渡した。
中でも如月は、窓際でノートに何かを走らせていた。彼女の視線は教壇を一度も見なかった。
見ないままで、全てを理解しているようだった。
(やはり、あの子を放置すれば崩れる)
昼休み、高橋は職員室で教員用のカメラ映像を巻き戻していた。
廊下、階段、昇降口。今朝、山崎が教室に入る前に、誰と会っていたか――
そして、映った。
如月静香と山崎が、二人並んで昇降口から上がってくる姿。静香は手にしていた小さな鏡を見せながら、
何かを話している。その後ろで山崎が笑っていた。
「やっぱり…君が、誘導してるよね」
高橋のノートには、新たな見出しが書き加えられた。
如月静香──扇動の兆候あり。
注意:思想の感染力、強し。
対応:近日中に再面談。可能であれば保護者とも接触。
高橋の中で、何かがゆっくりと動き出していた。
それは“教育”ではなく、“制裁”に近いものだった。