第一章 監視という名の愛情
新連載です。
チャイムが鳴る0.3秒前には教室のドアが開いた。遅れてくる教師が多い中、高橋は違った。
時間を破る者は、信頼も破る。それが彼の信条だった。
「おはよう。…スカート、折りすぎだよね」
教室に入るや否や、高橋の目は『市川』の制服を捉えていた。
視線は無表情だったが、計算された熱がそこにはあった。
市川は戸惑いながらスカートの裾を引き下ろす。「三段。規定は二段まで、昨日も注意したよね?」
市川はうなずくだけだった。その背後で他の生徒たちの背筋がわずかに伸びる。
高橋の観察は平等であり、逃れられない。眉の角度、リップの艶、爪の白さ――
彼の目には全てが「違反」か「順守」かの二択でしかなかった。
「君たちはまだ、自由と放任を混同している。教師が見てない時に乱れるような人間に、将来は無いよね」
「…はい」
沈黙の中で数人が答えた。“だよね”。その一言が彼の支配を決定づける。
生徒たちは息を潜めて座った。しかし、その中に一人だけ違う空気を持つ存在がいた。
『如月静香』。
彼女の瞳だけは、高橋の監視に怯えていなかった。静かで、しかし確かな意志を宿していた。
その夜、高橋の自宅の書斎では一冊の黒いノートが開かれていた。
ページには『如月静香』の名が追記される。
観察対象、生徒番号17。異常なし――ただし、要警戒。
生徒の全ては彼の把握内だった。少なくとも、彼はそう信じていた。