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— 物質化 —

不安でいっぱいだが私はM.Aさんについて行く形でバスを降りた。


そして予想外な景色に私は驚いた。


バスを降りた先はそれはそれはただの自然豊かな田舎町だったのだ。


建物や道路などは無く、地平線に続くあぜ道のみが広がっていた。


「さてと、久しぶりに来たなぁ地獄町2丁目。みんな元気にしてるかなぁ。」


M.Aさんは私のことなど見向きもせずに、どこかへ行こうとした。


「ちょ、ちょ!待ってください!私もついていってもいいでしょうか?」


「いいですけど、まずは落ち着いてください…」


「あ〜、やっぱり。」


やっぱり?

M.Aさんは少し残念そうな顔をして俺の方を見ていた。



「堺さん。漏れかけてますよ?」



「はい?」


「貴方のお腹です。」


M.Aさんに言われて自分のお腹を見た。


そこにはヘドロのような液体?が沸騰をしているかのようにブクブクとしていた。


「え!?は!?」


「早く落ち着かないと、取り返しがつきませんよ?深呼吸して?」


落ち着けと言われれば逆に落ち着けなくなるのが人間というものだろう。

焦れば焦るだけ、私のお腹にまとわりつくヘドロのような液体は激しく沸騰して、グロテスクに濁って行く。


「仕方ないですね。」


あたふたしている俺にM.Aさんはゆっくりと近づき、ハグをしてきた。


「え?」


少し戸惑っていると、M.Aさんはまるで子守りをするかのように背中をトントンと叩き落ち着かせようとしてくれた。


「よし!もう大丈夫ですよ。」


「今のは一体…」


「ここの地獄は生前生きていた地球とは違い感情が強く作用する傾向にあります。そして強すぎるネガティブな感情は具現化する。ここはそういう場所なんです。」


「さっきのヘドロは…じゃあ…」


「あれは私に対しての怒りでしょうね。」


怒り…?確かに感情が具現化するのであればM.Aさんがいなくなる『不安』が強かったので、ヘドロのようなものが出てくるだろう。

しかしそこに不安や恐怖はあったけど『怒り』はなかった。


「怒り…?ですか?私は確かに不安には思いましたが怒りなどの気持ちは湧きませんでした。」


「そうですか。」


「やはりその様子ですとこの地獄は貴方では乗り越えれないかもしれないですね…」


「それはどういうことですか?」


「この地獄はその人の感情が本当であればどんなネガティブなエネルギーであっても、その人を飲み込むことは無いんです。沸いてきた本当の感情に蓋押した時、ネガティブな感情が反発をおこし、膨大なエネルギーとなって心を飲み込んでしまうのです。」


「あなたは今初対面である私に気を使い、こんなよくわからない地獄でほったらかしにされそうになる怒りを抑え、不安という後付けの感情に支配されかけたので、感情が具現化してしまったんですよ。」


「あ!ちょうどあそこにも感情が具現化しそうな女性がいますね」


あまり何を言っているのかが理解できずにいた俺に気づいたか、女性2人の方を指さした。


「お隣いいですか?」


女性が、もう1人の若い女性に声をかけた。


「初めまして、私、水菜鈴といいます。」


「始めまして、私は奈々といいます。よろしくお願いします。」


若い女性の方も隣に座った女性の方に体を向けて自己紹介を済ませた。


「地獄2丁目にきてからどれくらい経ちましたか?」


会話の始まりは隣に座った女性の方から切り込んだ。


「どうでしょう。かれこれ半年くらいですかね。」


「そうなんですね。私はまだ一カ月くらいなんですけど全然慣れなくて笑」


「そうなんですか?でも慣れてるように感じますね笑」


若い女性は女性にニコッと笑った。


「なんか、それって私が地獄に適応するのが早い女みたいに感じちゃう笑」


女性は若い女性にニコッと笑い返す。

だが、女性の方はさっき俺が出てきたヘドロのようなものがお腹から漏れ出していた。


「いえいえ!そういうつもりではないんですよ!いつも勘違いされる言い方をしちゃうんですよ!笑」


「まぁ!それはそれであなたの良さかもしれないですね!」


女性はニコッとまた笑った。

だが女性の方はお腹のヘドロがさっきよりの何倍もヘドロがドロドロと漏れ出している。


「大変ですけどね…!生前から友達も中々出来なかったし!」


「大丈夫だよ!ここは地獄だけど友達なんていくらでも出来ると思うよ!本当に地獄?って思うくらい自然豊かだし、色んな人ともお話しできるし…」


女性のヘドロがますますお腹から流れて行く。

俺は怖くなり後退りしようとするもM.Aさんが手を握った。


「堺さん、今逃げたらこの地獄で生き残れませんよ。」


ただの普通の会話をしている、普通の女性のお腹から大量のヘドロが出ていること。

そんな普通では起こり得ない事実が目の前で起きていることに怖くなり逃げたくて仕方なかった。


「実は私この地獄に来るまで、逆に辛かったの…。でもね。生前の時に言われた『辛くても、もっと辛い人はこの世界にいっぱいいる。貴方は居場所があるんだから悲しまないで?貴方は一人じゃないんだから』って言葉のお陰で今も楽しく過ごせてるの。」



女性の笑いながら若い女性に続けて話をした。



女性は普通な顔をして話しているように見えたが

突然大粒の涙を流しながら話をしていた。


「そうなんですね。それでは。」


若い女性はそういうとぶっきらぼうに立ち去った。


「え…?」


「熱い…」


女性の方から何か焦げたような匂いがした


「熱い…!熱いぃぃいー!!!!!」


先ほどまでお腹からヘドロが出ていた女性が今度は炎が立ち込め女性を包み込んだ。


「ちょ!M.Aさん、これってどういうことですか?」


「彼女は自分のネガティブなエネルギーに飲み込まれてしまったんですよ。」


「え?ネガティブなエネルギー?さっきの会話のどこにネガティブな事があったんですか?」


「彼女は一件、ネガティブなエネルギーをポジティブなエネルギーに変えたように見えるが、あれは辛かった「トラウマ」から生まれたネガティブな感情を隠すためだけの薄っぺらいポジティブ。そのポジションを人に話せば話す程、心の深層心理では、本当の感情が薄っぺらいポジションに隠されて自分がわからなくなる。その結果、隠して積み重ねてきたネガティブが今回彼女から炎が出た結果だと思いますよ。」


俺はM.Aさんに対して『間違いない』憤りを感じた。あの女性が炎に身を包まれるのが分かったいる上で傍観者でい続けた事を。俺にこんな光景を見せた事。


「何故ですか…?」


「?」


「何故!あの女性が炎に身を包まれるのをわかっていて、私にこんな光景を見せたのですか!?何故わかっていたのに貴方は助けなかったのですか!?」


俺は怒りで震える体を抑えながらM.Aさんに問いただした。


「助けれないんですよ…」


「何故ですか!?私にしたことのようにあの女性にもしてあげたらよかったじゃないですか?彼女がああなる前に止めてあげればよかったじゃないですか!」


M.Aさんは困り果てたような顔で俯いてしまった。


「この地獄ではネガティブなエネルギーが不思議にどこかに消えるという事は無いんです。どこかに消えたように見えても、木や、水、別の生命に行くようになっているんです。あなたから漏れ出したエネルギーも比較的に私が処理出来るレベルでのエネルギーだったので処理をしただけで、彼女のように大き過ぎるエネルギーを処理をしようとするとコチラも怪我をしてしまう。」


「現にあの若い女性は出来る限り、彼女のエネルギーに共鳴しないようにしていました。大きすぎるエネルギーの前ではあの対応をするしかないんです。それがこの地獄での生き方なんです。」


俺はここでようやくここの地獄の怖さを思い知った。


辛くても、悲しくても、怖くても。

強く生きたいと思った者から身を燃やす。


弱い自分を抑えてでも変わりたいと思っている人達が報われず、身を燃やす。


地獄というくらいはある。


俺はよく出来ていると感心すら覚える程の地獄だ。


人が焦げた嫌な臭いが鼻に着いた時に俺はようやく地獄にきたことを実感した。

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