最後の目的地
95歳の時に寿命でこの世を去った
主人公の堺 義弘
主人公の魂が肉体から離れ向かう先は地獄。
地獄行きのバスに乗り、絶望感に苛まれている時に横に座っていた老人に声をかけられる。
胡散臭さはあるものの、地獄について詳しい老人に今後の過ごし方、この先どうなるのかを尋ねる。
尋ねれれば尋ねるほど理解が追いつかずパニックになっていく主人公と、異常なまでに落ち着いている老人。
この先一体どうなるのか…
「はぁ〜」
どうしてだろうか…
慎ましく生きてきたはずなのに…
逆に私はどうしたらよかったのだろうか。
今更どう考えたって変わる事はないとはわかっているのだが、それでも考えてしまう。
うだうだ考えている間にバスが到着した。
重い足を引きずり、到着したバスに乗車する。
入り口の扉は閉まりバスが動き出した。
絶え間なく続く思考の中、気持ちを紛らわす為に窓の外を眺め、心を落ち着かせる事に集中した。
そしてバスの目的地が表示された。
見たくないという気持ちが強くなれば強くなるほど、人は見てしまうものだ。
表示された目的地は…
[地獄町2丁目行き]
「それでは〜地獄町2丁目〜地獄町2丁目行き〜ただいま発車致します〜」
理由を考えても意味がないのはわかっている。
だが、それでもどうしても理由を考えてしまう。
あの時、妻を強く怒ってしまったからか?
会議での遅刻か?
子供の時にしたイタズラが原因なのか?
もし、それだけで地獄行きになるなら逆に誰が天国に行けるというのだ。
「お兄さん…」
今更どうしようもないことにグルグル思考をしている時に隣に座っているお爺さんが私に声をかけてきた。
「お兄さん?私ですか?」
私は95歳の時に寿命でこの世を去った。
人生において老人だった頃を長く過ごしていたせいか、お兄さんと呼ばれるのは久方ぶりだったので自分に声を掛けられてると思わず聞き返してしまった。
「珍しいですね。若いのに地獄町2丁目に行けるなんて」
若い?そういえば、このお爺さんは私のことをお兄さんと呼んでいたな。
実際に死んではいるが
私の容姿はほとんど死にかけのジジィみたいなものだった。
お兄さんでもなければ若いわけが無い。
お爺さんの発言との答え合わせするかのように私は窓に映る自分の姿を見て驚いた。
「えぇーー!!!わし!!若返ってる!?」
何度も何度も自分の顔を触りながら目を擦り本当に自分の顔かを確認するが何をどう見たって20代の時の私の顔に違いない。
「さてはもしかして、今の姿では無い状態で亡くなられたのですか?」
爺さんはニコッと笑いながら顔を覗き込んできた。
「えぇ。私にもわかりませんが私が亡くなったのは95歳の時でした。てっきり私は亡くなった姿のままあの世に行く物だと思っていましたので、つい動揺してしまいました…」
「そうですか。でも珍しいですね。本来は魂と体は瓜二つ。魂も体も姿形はお互い依存し合っているはずなのに魂だけが若いままなんて。」
自身ありげに話すお爺さんが私には胡散臭く見えてしまい、リアクションに困ってしまった。
沈黙が続き気まずくなった私は、耐えられずたわいの無い質問をする事にした。
「あのぉ…お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?私は堺、堺義弘と申します。」
「あぁ…そうでしたね。申し遅れました。私はM.A
と申します。」
「それは本名ですか?」
「いいえ、私の本名は別にあります。ですがここではM.Aと名乗っておりますので、M.Aでよろしくお願いします。」
ここで薄々疑問に思っていたことをお爺さんに投げかけてみる。
「一つ気になっていた事があるのですが、M.Aさんはここについてやたら詳しいように感じるのですが、それは何故なのですか?」
「ん〜、ここについて詳しい理由ですか。」
「私はここに何度か訪れたよう記憶があります。それが本当の記憶なのか、嘘の記憶なのか。それは定かではありませんが、何か心で覚えているような…そんな感覚なのです。」
「何度も何度もここにきては輪廻転生を繰り返す。姿形は変わり家族も変わり妻も変わり全て変わり様々な経験をしました。」
「生前の際は、前世の記憶などは全く無いのですが、体から魂が抜け、ここにたどり着いた時にはいつも全てを思い出しています。」
「今は朧げではありますが、あの世での経験などを思い出しつつあるので、多少は詳しいかなと思います。」
「そうなんですね。では、私たちが今から行く、地獄町2丁目はどのような場所なのですか?」
「地獄町2丁目ですか。」
爺さんは下を向き、考えるように俯いた。
地獄町というぐらいだから天国であるわけが無いのは事実。
自分でも聞いてしまったことを後悔するほど、爺さんの反応の変わりように恐怖を感じていた。
「結論から言いましょう。」
「地獄の中では一番良い場所です。」
「皆さん亡くなられたら生前徳を積んだとか神に祈りを捧げたなどで自分は天国にいけるなどと確信していますが、地球の生命体は何かの命を頂くことにより生命を維持しています。その為、どう頑張ろうが天国にいけるという事は不可能です。ですが、その中でも感謝を忘れず、何事にも愛に溢れている生命体が到達できる地獄が地獄町2丁目だと私は考えています。」
私はM.Aさんの反応に恐怖を感じていたが地球の生命の中で一番いい場所にいける事を知って少し気持ちが楽になった
「そうなのですね。それを聞いて少し安心しました。」
「安心ですか?確かに地球生命体でたどり着ける一番頂点の地獄ではありますが、所詮は地獄。貴方の過ごし方によってはどの地獄よりも辛い日々をお過ごしになられますよ?」
「それはどういうことでしょうか?」
「すみません。これ以上は話せません。ですが気をつけてくださいね。」
気になっているところで話をやめてしまったお爺さんに私は少し腹が立った。
私の今後の地獄の過ごし方が決まるんだ。
不安を煽るだけ煽って、途中で話をやめてしまうなんて、無責任にも程がある。
だが今後のことを考えると今は聞けないことに腹を立てるよりも聞けることを増やすことに専念するべきだと思った私は怒りを抑えつつ、話を進めて行くことにした。
「わかりました。ちなみにM.Aさんはおいくつの時に亡くなられたのでしょうか?」
「えぇ、今回は16歳の時にイジメが原因で自殺しましたね」
私は目の前にいるお爺さんが生前16歳だった事に驚きを隠せなかった。
生前の体が魂に依存すると言っていたはずだが、M.Aさんのこの見た目で16歳というのは流石にありえない。
「えぇー!!!16歳の時に…って!で、でも!どう見たって16歳の少年には見えませんが…」
「亡くなった時の姿では無いのはお互い様では無いですか笑」
それもそうか。自分のことを棚に置いて派手に驚いた自分が恥ずかしくなり、俯いてしまった。
「でも私も不思議なのです。」
「何度もあの世に来た経験がありますが、亡くなった時の姿ではなかったのは今回が初めてなのです。」
「え?」
「まもなく〜地獄町2丁目〜地獄町2丁目〜お降りのお客様は足元にお気をつけてお降りください。」
「さて。もうすぐ到着ですね。地獄町2丁目は堺さんと私だけでしたか。」
M.Aさんのいうとおり先程までバスにパンパンに敷き詰められて人が居なくなっており、俺とM.Aさんだけになった。
「え!?M.Aさんも地獄町2丁目ですか?ってかさっきまでパンパンに詰められていた人達が一斉にいなくなってる!」
「えぇ…今回は16歳という若さで自ら命を経ってしまいましたが、何故か運良く地獄町2丁目のようです。それと自分の下車駅の時になるといつも人がいなくなっているのですが、これに関しては、理由は未だに私にもわかりません。」
「はぁ…」
「地獄町2丁目〜地獄町2丁目〜到着いたしました。」
バスが止まり前の扉が開いた。