↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/101

もうひとつの土曜日

当時は大手損保会社である千代田火災海上保険に在籍していたのだが、部内異動が決まりもうすぐ大阪第三営業部和歌山支社から大阪・天王寺にある南支社に変わることになっていた。

送別会のあとで同僚で元婚約者の知恵と和歌山駅から帰りの電車が一緒になった。


もう半年程前に別れてまともに話などしたことがなかった。

それがあの時はまるで仲直りしたかのように二人で昔話をしていた。

そして、借り上げ社宅のある紀三井寺駅で先に降りるのだが、今回の沙良とは逆に知恵の手を引っ張って一緒に降りようと思った。

あの時なら黙って知恵は一緒に降りてくれる気がして。同期で元恋人でかつての婚約者なので、やっぱり通じ合う時は雰囲気で分かる。


でも、既に知恵のお父さんは知恵を迎えに自宅の最寄り駅まで向かっている。

携帯がなかったあの頃、知恵を電車から降ろしたら娘に大甘のお父さんはいつまでも帰って来ない娘を案じて大騒ぎするのは目に見えている。


そう思ってあの時は諦めたが、やはりあの時の仲直りのチャンスを逃したのが致命傷だった気がしてならない。

電車の中から沙良に手を振りながらそんな回想シーンが頭の中を流れていた。


あれから16年経ったけれど鮮明にあの光景が蘇って来る。


そして10分位して自宅近くの駅に着いた。

駅から自宅まで歩いて更に15分位掛かる。

沙良は駅から5分ほどと聞いていたが、まだメールは来ない。

あれはやはり営業トークかなと思っていた時にメールが届いた。


≪反対側の改札口から出ちゃったみたいで道に迷ってようやく着いた。

今日はありがとう ♡≫


駅から至近距離で道に迷うのもすごいなぁと思いながら今日の余韻に浸りつつ自宅に戻った。

これほど充実した一日は久し振りだった。


翌5月31日の土曜日。


この日は朝から天気が悪く、雨が降っていたがこの日からニョーボは次男を連れて早朝から地元の野球チームに参加することになった。

既に中学生の長男と長女も学校のクラブで朝からいない。

10時頃に起きたのだが家の中は無人であった。


“あ~あ、これなら昨日泊ってきてもバレなかったんじゃないかなぁ・・・いや、やっぱりそれは出来んな・・・”

そう思っていた時に一通のメールが届いた。


メールの発信人は沙良からだった。


≪こんにちわ。今 何をしてますか? ≫

とってもシンプルだったけど、丁度彼女のことを考えていた時だったのでドキッとした。


【今日から次男は地元の野球チームで朝からいないんだ。

長男と長女は朝から部活だよ。

上の二人はもう中学生だし、次男も今日からは休みの日は野球になる。

もう親離れ・子離れの時期なのかな~って思っていた。少し寂しいけれど。

そして丁度昨日のことを思い出していて、会いたいなと思ってたんだ。

会いたいな・・・】


そんなメールを送信して間もなく、ニョーボと次男が帰ってきた。

雨が激しくなったので今日の練習はこれで中止になったとのことだった。

するとバイブに切り替えてズボンの中に入れていた携帯がバイブで震えた。

きっと沙良からの返信だろう。


≪そっか~、親離れ・子離れなんだ・・・(;_;)

寂しいよね。

実は・・・昨晩あまりよく眠れなくて・・・

私も花谷さんのことを思い出していて会いたいなって思っていました。

散らかっていますけど・・・

良かったら今からうちへ遊びに来ます?≫


いつもと違う、もうひとつの土曜日が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。