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ホワイトデー

2010年3月


2000年にオープンしたジェイアール名古屋タカシマヤは、2001年になり早々に全国に先駆けて催会場を使った大々的なバレンタイン催事を開催していた。この流れは全国に広がり、百貨店のバレンタイン催事は業界の定番企画となり「ご褒美チョコ」などバレンタインが女性を中心に“自分が楽しむためのイベント”になっていったのだけど、その一方で会社での人間関係の潤滑油としての「義理チョコ」もまだまだ健在だった。

そして、そのお返しのホワイトデーも。


そんな義理チョコの風習がまだ残っていた2010年のホワイトデーの日か翌日か忘れたけれど、所属する部は同じだけど違う課の河内亜実さんが部全員にメールを送っていた。


「ホワイトデーのお菓子、大変美味しく頂きました。ありがとうございます」

みたいな感じで。


それまでの河内さんは「同じ部にいる多分30代半ば過ぎの独身女性で小柄でちょっと小動物っぽくて、実年齢より若く見えるなんとなく可愛らしい人だな」の印象だったんだけど、課が違うと仕事で接点がないのでほぼ話したこともなかったのと、ややおとなしい感じだったのであまり目立った存在ではなかったのが正直なところ。


そんな河内さんから来た部員宛のメールをボーと見てしまった。


「あんな義理チョコ返しの安っぽいだろうと思われるホワイトデーのお菓子でわざわざこんな丁寧なメールを送るなんて、良い子だな・・・

もし、里江が河内さんみたいなキャラだったらどうなったんだろう?」


ふとそんなことを思ってしまった。


里江の家にキースマンハッタンのケーキを買っていった時のこと。

何もない里江の部屋ではケーキを食べるお皿もフォークもない、当然コーヒーカップなどあるわけがないので「はい、どうぞ」なんてコーヒーも出るわけでもない。

ちょっと、ぎこちない時間が流れてしまった、それにダイエットしてるって言っていたからそもそもケーキを喜ぶこともなかった。


因みに「キースマンハッタン」は今はないけれど、実は「グラマシー・ニューヨーク」を展開している会社の別ブランドだったので中身は結構良かったんだけど。


『河内さんってこんな程度のお菓子で喜ぶなら、キースマンハッタンのケーキでもグラマシー・ニューヨークのケーキでも俺が仲良かったらいくらでも買ってあげるのに・・・』

里江に出来なかったことを思い出して、河内さんが里江だったならいくらでもケーキ買うんだけどなぁ、河内さんみたいな人を彼女に出来る男がなんか羨ましいなぁと思った。


でも、改めて里江のことを思い出すと出不精の里江とはいつも「お家デート」だった。

2008年の夏に別れてからもう一度友達レベルに戻れないかなと思って秋にパリに行った後にお土産を買って持って行こうとしたらお店を辞めて引っ越したあとだった。


『でも、もしあの時会えたとしても食事やスイーツにあまり興味がなく家でゲームでもしてる方が好きな里江とは【恋人】ならともかく、純粋に外で会うプラトニックな友達関係になるのは難しかったかもしれないな・・・』


河内さんのメールを見ていたらやっぱり里江と純粋な仲良しになるのは無理だったかなと改めて気が付かされた気がした。


そして、

『改めて里江とのことを気付かせてくれた河内さんはこういう可愛いキャラだし幸せな結婚をするんだろうな・・・そして、里江も幸せになっててほしいなぁ』


そう思いながらメールを読み終えそしてパソコンを閉じた。



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