突然のメール その2
もちろん、亜実は花谷千寿の存在は知っている。
同じ会社で所属する課は違うけれど同じ部の男性営業スタッフなので。
もう20年ほど前に中途入社しており現在アラフィフの亜実より年上なので希望退職の対象でもあった。
もう5~6年ほど前だと思うけれど、出勤時にたまたま同じエレベーターで一緒になることがちょくちょくあり、たまに一緒に並んで話しながら従業員入口に行くことがあったし、一緒にご飯に行く約束をしたこともあったし、今までに10回ぐらいお弁当を作ってもらって、その都度プライベート携帯で「作ったよ」「ありがとう」みたいなメッセージのやり取りもしていたから。
でも、そう言えばここ数年はそんなこともぱったり無くなっていたし、コロナを契機に勤務体系が大幅に変わり事務スタッフである亜実は在宅と出社が半々だが営業スタッフは完全に自由で終日在宅・直行直帰・終日出社勤務・一日のうち数時間のみ出社等好きな勤務で良かった。
しかも、コロナ禍以降は会社に決まった席はなく好きな席を使う「フリーアドレス」制となり、同じ課のスタッフでないと会社に来ているのかどうかすらなかなか分からない。
だから、気が付ければ花谷の顔を会社で全然見ていなかったかもしれない。
それぐらい縁が薄くなっていた。
でも、9月のWebでの部会で希望退職者が発表され、その中に花谷がいた記憶はある。
だから、昨日で退職したはずだった。
すぐに課のWeb朝礼だったので見ること出来なかったが、チラッと本文が見えた。
それは挨拶もなしでいきなり本文から始まっていた。
『もう、15年ぐらい前になるけどホワイトデー(当時まだあった義理チョコの返礼)の時に河内さんが第三営業部全員に「とても美味しかったです、ありがとうございました」みたいなメールしたの覚えている?
なんでこっちが覚えているかと言うと・・・
どんびかれる内容で長いけど、最後の方で話しが繋がるのでなるので勝手で一方的だけど送ります。』
そんな出だしから花谷千寿の昔のエピソードが書いてあった。