闇に飲まれた者
「生徒の安全を第一に、担当のクラスを持っている者──「があぁぁぁ」っ!」
声が聞こえなくなった後、オリバは体が動かせるようになっていることに気付き、教職員たちに指示を出す。
しかし、その途中で教職員の三人が苦しみだし、口から、目から、鼻から、体中の穴という穴から闇を吹き出し、その体を包んでいった。
「今すぐこの部屋から出ろ!!」
完全に包まれるまでにはそう時間はかからない、そう直感で覚ったオリバは指示を出し、教職員達はそれに従い外へ出た。
その直後、完全に包まれた三人は起き上がり、オリバに襲い掛かった。
一人は髪が黒色に染まり今もなお闇を吹き出し、吹き出した闇で大きな爪の形を作り出し、残りの二人は、闇に包まれたままの状態で襲ってきていた。
それに対しオリバは、持っていた薙刀を構え横に薙ぎ払う。
「”空斬飛衝”!」
薙ぎ払って生まれた衝撃波が三人に向かっていきそのまま吹き飛ばされ、壁にめり込み、そのまま動かなくなる。
しかし、オリバは再び薙刀を構える。
「この程度では、気絶すらしないだろう?」
「ヨクシッテルナ」
オリバが言った言葉に対して答えるように、爪を巨大化させながら壁から出てきた。
「闇に飲まれし者ならまだしも、闇より深き者はかなりしぶとい。
それに、闇の一部を盾ににしていただろう?」
そう話しながら”魔法収納”を開き、薙刀を仕舞い、替わりにハルバードを取り出した。
「バレテイタカ。
ダガ、ソレガワカッタトコロドデカテルトオモウナ!」
そう言いながら巨大な爪で斬りつけてくるが、それがオリバに届くことはなかった。
「堕ちろ”重力増加”!、”盤上砕き”!」
重力に押さえつけられたところに振り下ろされるハルバードによる一撃、それは、闇より深き者を左右に切り裂き、その勢いのまま職員室の床を砕く。
その一撃を受けた闇より深き者は生きているはずもなく、巨大な爪の形に固めていた闇は霧散し体もチリとなり崩れ去る。
それと同時に、壁にめり込んでいた闇に飲まれし者も包まれていた闇が霧散しものを言わぬ死体だけが残った。
オリバはそれを見届けた後、再び”魔法収納”を開きハルバードを仕舞い、再び薙刀を取り出し外に出た。
外に出ると教職員はおらず、キュリーだけが残っていた。
「お疲れ様です、オリバさん。
大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫ですよ。
そちらは大丈夫でしたか?」
「はい。
こちらはそれぞれの担当している生徒さんの様子を見に行きました。
その際、深い闇を抱えている生徒に関しての情報を話しました。
先ほど闇に飲まれし者になってしまった職員の方は深い闇を抱えていた方達でした。
なので、生徒達もそうなってしまう可能性もあります。
ですが、最も警戒すべきなのは闇より深き者です。
あれの闇に触れてしまえばそのまま飲まれてしまう。
だからこそ触れずに倒さなければならないということも話させていただきました」
「わざわざありがとうございます。
それと、私からも情報が。
おそらく今回の闇に飲まれし者と闇より深き者の発生は人為的なものです。
通常ならば、精神崩壊した者に闇がたまり続けて発生する存在、なので会話をすることが出来ません。
しかし、今回は会話ができた、その上、あの神と名乗る声が聞こえなくなった直後にああなってしまった。
しかし、神自身がそんなことをしていては、ほかの神に気付かれてしまう。
だからこそ、信者を使っていたと考えられる」
「そうなると、一番妖しいのは教会関係者ですか……個人的な想像ですがおそらく【解剖の魔女】が関わっていると思います。昨夜の集会でよく教会に出入りしているという情報を【霧の中に潜む影】という方から得ました」
「その【解剖の魔女】というのは?」
「【解剖の魔女】、本名イーレ・サドフェリア。
彼女は度が過ぎた人体実験及び、合成魔獣の製作により、【魔女の集会】から、魔力を封じられた状態で追放された存在です」
「合成魔獣を!?
それは、大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、当時の資料はすでに破棄しておりますし、たとえ資料があったとしても彼女の魔女の魔法なければ意味のないものでしたので」
「というと?」
「彼女の魔女の魔法は手術魔法、その力は主に、解剖、摘出、改造、縫合、移植の五つで、合成魔獣の製作にはこの五つ全てを使っていました。
しかし、今の魔力量では使うことは出来ないでしょう」
「なるほど、過去のことから見ても疑わしいですね」
「オリバ先生!」
二人が話している時、息を切らしながらも走ってくる生徒がオリバを呼んだ。
オリバとキュリーがその声の方を向くと、数人の生徒が一人の教師を背負いながら、数十体の闇に飲まれし者と闇より深き者から逃げながらこちらに来ていた。
「っ!生徒達をお願いします!」
それだけを言い残し、薙刀を構え、生徒たちを通り過ぎ、闇に飲まれし者達に飛び込んでいった。
「オリバ先生!?」
「貴方達はこちらに、”修復し続ける結界”、”回復の魔法陣”」
オリバが飛び込んでいったことに驚いていた生徒達に、キュリーは呼びかけ結界と魔法陣をを設置し、中に入れる。
それを確認したオリバは、キュリーが貼った結界の前に移動し薙刀を構え、刃に魔力を込めて突く。
「”粉鎧”!」
その突きの威力は、触れてもいないのに結界や壁に大きな罅を入れ、窓ガラスを粉砕し、全ての闇に飲まれし者と闇より深き者を倒した。
「す、すごい……」
「そうですね、流石は元Aランク冒険者ですね」
「え!?」
その光景を結界の内側から見ていた生徒達は思わずそう口にしてしまうが、その後に続いたキュリーの言葉にさらに驚く。
「さて、まずはほかの生徒たちの安全確保ですかね?」
そうしてキュリーは結界と魔法陣の範囲を広げていき、それに伴って、オリバは他の生徒達を探しに行った。
「ふ~ん、いいこと聞いちゃった!」
学園の屋根の上、そこからふわふわと飛び降りて町の隅に降り立ちながら【罪人狩り】は呟いた。
直後、周りにいた闇に飲まれし者達が襲ってくる。
「うーん……でも教会か~、ちょっとここから遠いな~。
まあでもいっか、早くいこ。
”罪食いの大鎌”」
手を前に伸ばし、現れた大鎌を手に取り、体ごと一回転し鎌を振るう。
「”胴体との泣き別れ”」
生まれた輪型の斬撃は、襲ってきていた闇に飲まれし者達の下半身と上半身を泣き別れさせ、それに気にするそぶりも見せず、【罪人狩り】は教会に向かって歩いて行った。