プロローグのようなもの3
王城──
王城内の食堂前の扉の前に二人の兵士が立っていた。
これから王を含めた城内の重要人物と城外からの客人が食事会をするからだ。
食堂は通路の一番先にあり、そこまでは厨房に入るための扉しかない。
料理は特定のメイドや執事が運ぶためそれ以外の人物は立ち入り禁止である。
そこへ、豪華な服やドレスを着た者たちが向かってくる。
一人の男性と三人の女性、そして一人の少年と一人の少女。
男性はこの国の王、リュシオン・ヘルゼルクであり、女性はそれぞれ第一王妃、第二王妃、第三王妃で、少年は第一王子、少女は第二王女である。
兵士たちはリュシオン達が食堂の扉の前につく少し前に扉を開き壁際による。
「ご苦労」
リュシオン達は兵士たちにそう告げながら食堂に入っていく。
全員が入って行ったのを確認したのち扉を閉める。
しばらくすると一般のメイドが着ているメイド服とは違うメイド服を着た女性が歩いてくる。
一人は和風のメイド服を着た(おそらく)犬の獣人の女性、もう一人は一般のメイド服よりもスカート丈が短く、その代わり黒いタイツを穿いているエルフの女性。
料理を運ぶメイドや執事とはすでに顔を合わせているから歩いてきているメイドたちがそうではないことに気付き若い方の兵士がメイド達を止めようと動くがもう一人の兵士に止められる。
「お前たt「待て、扉を開けろ」え?」
「いいから開けろ、早く!」
「わ、わかりました」
二人の兵士が急いで扉を開けると、メイド達は中に入っていき、それを確認して再び扉を閉める。
扉を閉めた後、若い兵士はもう一人の兵士、先輩兵士に疑問を口にする。
「あのメイド達はいったい……」
聞かれた兵士は一瞬驚いたように目を見開いたが、何かを思い出したかの様な表情を見せた。
「そういえばお前は最近入ってきたんだったか。
それなら知らなくても無理はない。
あのお二方はこの国を陰ながら守ってくださっている方達だ」
若い兵士は驚きながらもどこか納得していた。
過去、この国にドラゴンが襲来した際に、クルス・ヘルカディオが一人で倒したとされているが、それが本当のことだとは思っていなかった。
そしてそれは今の話を聞き確信へと変わった。
きっと、彼女たちが倒したのだと。
そう勝手に納得した若い兵士は、礼を言い、仕事に集中するのだった。
クルス達と飲んでいる中、テトラは用事があると先に店を出て、目的地に向かって歩いていた。
しばらく歩いていると目的地の看板が見えてきた。
BAR.PEROと書かれた看板には、”本日貸し切り”と書かれた吊り看板が掛けられており、その前に黒い狼が座っていた。
「今日も本体じゃないのか」
テトラが黒い狼に話しかけると返事が返ってくる。
「こちらにも色々事情があるからな。
替わりに影狼を連れていけ。
集会で話す」
「わかった、なら早速行くか」
そう言い終えると目の前に一冊の本が現れ光始める。
しばらくして光が収まり、本があったところに扉が現れる。
テトラはその扉を開け、中に入っていき、影狼も続いて入っていった。
???──
ここは【魔女の集会】の会場として【知識の魔女】が創り出した部屋。
中心に大きな円状のテーブル、そして天井に、ゆっくりと回転している豪華なシャンデリアがある部屋の中、四人の女性が席に座っていた。
女性はそれぞれ、【加護の魔女】、【癒しの魔女】、【構築の魔女】、【剣の魔女】である。
「聞いてた話と違うけど?」
少しイラつきながらアリスはキュリーに聞く。
それに対してキュリーは微笑みながらも何も答えない。
その代わり【剣の魔女】が答える。
「【料理の魔女】は食事の準備、【拳の魔女】は客人の案内、【知識の魔女】は全員揃ったら来る」
「あっそ。
で、いつ頃来るの?」
「知らん」
「いい匂いがするからクックはもう来るぜい~」
「【構築の魔女】が言うならそうなのだろう」
「ならいっか」
「ソーシャはまじめだな~。
別に魔女名で呼ばなくてもいいんだぜい~?」
「そういうわけにはいかない」
そう話していると部屋の扉が開き一人の女性が料理を乗せたワゴンを押しながら入ってきた。
そして扉は光に包まれ本になり、壁をすり抜けながらどこかに飛んで行った。
「お待たせ、待った?」
「お~クック~待ってたぜい~。
もうお腹ペコペコなんだ~」
「それはすまない。
お詫びに、今度うちの店に来た時にはご馳走しよう。
もちろん皆もね」
「それってエクスも入る?」
「もちろん。
あ、でも王族とかを連れて来るときは教えてくれよ?」
「分かっている」「分かってるぜい~」
クックが料理をテーブルに並べながら話していると本が出現し光に包まれ扉が現れる。
そして、扉が開かれテトラと影狼が入ってくる。
「シキ以外いるようだな」
「ペット同伴かい?」
「俺はペットじゃない」
クックがテトラに聞くと影狼が答える。
すでにいた五人は狼が喋ったことに一瞬驚き固まったが、それ以上の驚きがキュリーを除いたその場にいた全員に降りかかった。
「歓迎するわ、ミストシャドウ」
テトラが入ってくるまで確実にいなかった、テトラからしたら瞬きをする前にはいなかったから。
自分たちの後ろ側、テトラ達が入って来た扉の向かいに位置する席に一冊の本を大事に抱えた少女、【知識の魔女】が座っていた。
「あ、ああ、歓迎感謝する」
驚き困惑しながらも影狼、ミストシャドウが返事をする。
しばらくの静寂の後、キュリーが手をたたき話し始める。
「皆さん、話をする前に自己紹介から始めましょうか。
ご存じかと思いますが、私は冒険者ギルドサブマスターであり、【魔女の集会】の司会進行を務めさせていただいています、【癒しの魔女】キュリー・ルキスンと申します」
と言いながら一礼する。
「確かに、初めての客がいるから必要か。
私は【剣の魔女】ソーシャ・シュバリエだ」
「僕はアリス・シントン、【加護の魔女】って呼ばれてる」
「オイラはエルメ・マルバン、【構築の魔女】って呼ばれてるぜい~」
「僕は【料理の魔女】クック・アトラス、ここにある料理は僕が作ったんだ」
「私は【拳の魔女】テトラ・アルテビネ。
まあ、魔女名よりも【拳王】の方がわかりやすいだろ」
「私は【知識の魔女】シキ・ファンネル。
絶対にファンネルだけは間違えないでね」
それぞれが自己紹介をしながら席に座っていき、キュリーの方を見る。
「私から紹介した方がいいでしょうか?」
とキュリーはミストシャドウに聞く。
「いや、いい。
俺は【霧の中に潜む影】、情報屋だ」
「皆さんの自己紹介が終わったので【魔女の集会】を始めます。
今回の議題は、【解剖の魔女】に関してです」
そう言いながらキュリーはミストシャドウの方をちらりと見る。
「ここからは俺が話そう。
先日、【解剖の魔女】が教会に入っていくのを見かけたんだが、その教会がきな臭い」
教会──
夜の教会には懺悔に来た虚ろな目をした男に顔上半分が隠れる仮面をつけたシスターが話しかけていた。
「今夜も来たのですか?」
「はい、いつものをおねがいします」
「えぇ、いいですよ」
そうしてシスターは男の手を持ち上げ両手で握り、祈る。
「今宵もあなたに■の神の御加護があらんことを」
すると小さな黒い球が現れ男の中に入っていく。
「オォ、あリがとウごザイます。
こレであしたカらもガんばレまス」
そうして男はシスターに礼を言い教会を出ていった。
「お疲れ様です、サティ。
進捗はどうですか?」
「神父様、お疲れ様です。
ここのほとんどの人たちには仕込んであります。
ノこりはここを怪しんでこない方達ですね。
サドの方はいかがでしたか?」
目の代わりに手を合わせたようなものと、少し微笑んでいる口しかない仮面を付けた神父に声をかけられたサティは挨拶を返しそう質問する。
すると奥から白衣を着た少女が出てきて答えた。
「こっちはほとんど完成している。
後は実践で経験を積ませて吸収させるダけ」
「なるほど、であれば明日にでも始められそうですね。
正午あたりに始めましょうか」
「かしこまりました、そのように準備いたします」
「こっちもやっとくよ」
「えぇ、任せましたよ。
特にサド、ゼロはこの計画の要になる予定ですから、いつでも動かせるようにしておいてください」
「分かってる」
そう言いながらサドは奥に入っていき、それに続いてサティも入っていく。
そして、一人残った仮面の神父は小さい声で独り言を言っていた。
「この計画が成功してもあれにぶつけるにはまだまだ足りない。
フフフ、終わりのない作業は好きですよ」
次の日、ヘルゼルク王国は恐怖と絶望に包まれた。