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「舜君、新学期早々、()()()()()してるんだ」

「悪癖だな」


 向かい側の二人は新人司書の話をサラリと流し、憮然としている皐樹に向き直った。


「僕はね、皐樹と同じ一年でAクラスの水無瀬刀志朗(みなせとうしろう)。よろしくね」

「俺は刀志朗の兄で三年の水無瀬廻(みなせめぐる)だ。図書館で舜が不快な思いをさせたようで悪かった、皐樹」


 桐矢どころか水無瀬兄弟にまで下の名前で呼ばれ、皐樹は観念した。とにかく食事を早く済ませて教室に戻ろうと、日替わりランチを食べ始めた。


「隣の子は凛ちゃん。舜君の妹で二年生だよ」


 刀志朗が紹介してくれた桐矢の妹・(りん)は皐樹をまだ威嚇していた。余程の兄思いなのか。皐樹は彼女に「すみません」と一言詫びた。


「舜君のその髪の色、ほんと目立つよね」

()()()に勝手にされたんだ、この色が合うってな」

「金髪と銀髪の中間みたいだ。始業式で初めて見たときは驚いたが、やっと見慣れてきた」

「お兄ちゃんによく似合ってる」


 恐らく全員アルファ性だろう。存在感のある彼等に囲まれてオメガの皐樹はそう思った。


「先週、注射されたところが青痣みたいになりやがった」

「痛くしたら訴えるなんて舜が脅したせいで、相手の手が震えたのかもしれないな」


 四人のルックスは他を抜きん出ていたが、桐矢と水無瀬は殊の外目立っていた。二人が会話しているだけでドラマや映画のワンシーンのような華やかさが生まれる。「第二の性」を問わず、カフェテリアにいる生徒達の関心を攫っていた。


 桐矢兄妹と水無瀬兄弟。


 昔からの仲で気心が知れた友達同士であるのは、皐樹にも何となく伝わってきた。三年生の兄同士に関しては恋人関係にも似た深い親密さを感じた。


(でも、付き合っているのなら、司書の人に手を出したりしないはず……)


「一緒にいる子、誰?」

「あれってアルファ?」

「見た目悪くないけど、ちょっと暗そう」


 嫌でも聞こえてくる周囲の会話に急かされ、半ば自棄になって皐樹はランチをかっ込んだ。


「そんなに頬いっぱいに詰め込んでリスみたいだ。どこか埋めにいくのか?」


 桐矢に揶揄されても無反応を突き通し、ろくに味わいもせずに完食すると、立ち上がった。


「教室に戻るので退いてもらえますか、桐矢さん」

「偉いな、ちゃんと敬語を使えるのか。でも敬称はいらない、桐矢でいい。ほら、溜め込んだ餌をお気に入りの木の下に埋めにいけ。間違って幼稚園に迷い込むなよ」

「舜。からかい過ぎだ」


 桐矢が腰を上げ、トレイを持って立ち去ろうとした皐樹に水無瀬は声をかける。


「アルファばかりで外部生のオメガには居心地が悪かっただろう。次は友達を連れてくるといい」


 皐樹は曖昧に返事を濁した。テーブルから離れ、他の生徒達の視線を振り払うように足早にカフェテリアを出た。


「待って、皐樹!」


 特別教室棟から高等部棟に移動し、階段に足をかけていた皐樹は立ち止まる。オフホワイトのセーターと爽やかな笑顔の組み合わせが眩しい、同級生の刀志朗が背後へ駆け寄ってくるところだった。


「僕も教室に戻るから一緒に行こう?」




 自分の教室までついてきて、中学はどこだったとか、他愛ないことを尋ねてきた刀志朗に皐樹は退室を促した。


「もう五限が始まる、そろそろ教室に戻った方がいい」


 床にしゃがみ込み、窮屈そうに背中を丸めて皐樹の机にしがみついていた、身長が百八十二センチあるという刀志朗はよいしょと立ち上がる。


「さっき、凛ちゃんがプンプンしててごめんね? 家族思いで舜君のことが大好きなんだ。昔、ちょっと色々あって、それで」

「先生が来たぞ、水無瀬」


 桐矢兄妹の過去に関心がない皐樹は、五限担当の教師が来ても話を続けようとする刀志朗に呆れた。


「ごめん、じゃあね」と、彼が笑顔で去っていくと、カフェテリアのときと同様、周囲でヒソヒソ話が交わされた。


 幼稚園からのストレート組。羨望の的。格上で完全無欠なアルファのグループ。学園のトップ。桐矢兄妹・水無瀬兄弟に対する賛辞と共に、外部生のくせにどうして一緒に、ただのオメガの分際で、そんな否定的な言葉も聞こえてきた。


「もしかしてクイーン・オメガなのかも」


 聞き飽きたはずの悪態の中で皐樹はその言葉にだけ過剰に反応した。発言したクラスメートにすぐさま視線を向ければ、ベータ性の女子生徒は気まずそうに顔を逸らした。


「私語はやめましょうね」


 落ち着きのない教室に教師が注意を入れる。教科書を開きはしたが、皐樹はしばらく授業に集中できなかった。


(俺はただのオメガだ、クイーンなんて奇跡じみたものじゃない)


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