37.犯人探しか、化かし合い
おはようございます!
こんにちは!
こんばんは!
第二皇子は、呼び出されたその部屋に向かった。
父親である皇帝が目覚めた知らせがもたらされるのではと、いそいそと母親の館から馬車に乗ってやってきたのだ。
そこには、一歳違いの弟である第五皇子が、冷たい無表情で待ち構えていた。
服装がいつもと違う。軍装を纏ったその男は、皇子ではなく、将軍としてこの件の指揮を任されたのだと言った。
そして、だいぶ年下の弟である第三皇子と近衛隊長の姿もある。こちらは形ばかり同席しているといったところだろうか。
だが、何よりも重要なのは第五皇子の直属の部下なのだろう、兵士たちの姿も見える事だ。この兵士たちは近衛とは違い、第五皇子一人に忠誠を誓った者たちだ。
第二皇子は怪訝そうに顔を歪めた。
「……私をわざわざ呼び出して、何のつもりか」
彼の弟はそれには答えずに、一言だけ言った。
「弁明をお聞きしよう」
「弁明? ……いったい何の……?」
そこで、この男に嵌められたのだと、背を冷たいものが駆け上がった。
「そなたっ! 私を陥し入れる気か!」
「私が第二皇子殿下を? まさか。あなたが皇帝陛下を危険に晒したという証拠が発見されたので、その件についてお伺いしようとしているまで」
弟は、部下に手で何か指示を出した。
その兵士が続き部屋から連れてきた人物は……。
「そなた、母上の侍医のっ! なぜそなたがここにいるのだ!」
兵士が意匠の凝らされた宝石入れのような箱を持って近づいてきた。
それを開けさせた弟は、「こちらに見覚えは?」と聞いてくる。
鼓動が早い。これは、侍医が持っていたのならば、母上が仰っていた例の……。
「違うっ! 私は触ってもいないっ!」
「毒物であることはご存じでいらしたようだ」
「ちがう……」
目の前が白くなる。第二皇子は何もしていなかった。
彼の処置のおかげで父親である皇帝は助かった。父が目覚めたら、それを聞かされたら、次の皇太子は自分に決まったもの同然だと思っていた。
こんな、馬鹿な事があってたまるか。
そうだ。そんな事よりも!
「そなた! 毒が仕込まれていた事を知っていたな! 妻と共に食事に、ろくに口をつけなかったではないか!」
弟であるこの第五皇子の方が、自分などよりもよほど怪しいではないか!
席次も低い。兄である第二皇子を陥れ、自分がそれに取って代わろうとしているに決まっている!
だが、彼の激情とは裏腹に、どこまでも冷静な声が響いた。
「私はよほど信頼出来る相手が用意したものでなければ、どこでも、特にこの皇宮では食べ物を口にはしません。これまでもそうでした。一度酷い目に合ったもので。確認はいくらでも取れましょう。それを知る者は少なくない」
「……口だけならば何とでも言えよう!」
「ですから、ご確認いただけるはず、と申し上げております。それに、皇帝陛下以外の方々には異変が無い事もお考え合わせいただきたい。そんなことよりも」
第五皇子は、裏切り者の侍医を手で指し示す。
「この者は、二つあったうちの一つをあなたに渡したと申しております。内容が内容ですので、発言に対する誓約書も書かせました」
第二皇子はとっくに冷静さを失っていた。このような場でもいくらでも逃れようがあるはずだった。
しかし、彼は先を見据える事が出来なかった。
ろくな言い訳もできず、彼は言わなくていいことを言った。
「これは、そなたの母親が、私と母上をこのようにした時に使われたものだぞ! そのくせに、なんと厚顔無恥なっ!」
それは、彼がやはり毒物を入手出来る状況にあった事を白状しただけだった。
彼の弟の顔に冷徹な顔に一瞬の迷いも見えなかった。
「……その件に関しては、今後きちんと調べさせましょう」
こいつも母親の腹の中にいた時に、その母親が何をしたかまでは知らなかったのだろうと、第二皇子はほくそ笑んだ。
そして彼は侍医を睨みつける。彼の母親の信頼を裏切るような真似をしたからだ。
だが侍医は特に悪びれる様子もない。
その男を睨みつけた第二皇子の脳裏に、ふと一つの考えがよぎった。
初めから彼ら親子は騙されていたのではないか、と。誰かにずっと踊らされていたのではないか、と。
「お認めにならずとも結構。ご自分たちの館にいていただくのに足る証拠も証人もおりますので。第二皇子殿下をお連れせよ!」
第二皇子は、ここへ来た時とは真逆の感情に支配されながら、母親の館に戻った。
近衛や兵士達に見張られ、監禁状態におかれた。
このまま皇帝が目を覚まし、彼に不利な証拠を信じでもしたら……!
あのまま死ぬに任せておけば良かったのか……。しかし、それでは困るのだ。
第二皇子は後ろ盾がほとんどない。第四皇子の母親はいるが、その支持は絶対とは言えない。
皇帝自身に彼を皇太子として指名してもらう必要があると思ったのだ。
「そうお嘆きになることはございませんよ」
彼の母親である第二皇妃は、病床から息子を励ました。
協力者はいる。まだ終わってはいない、と。
皇帝の寝室は、一際豪華な装飾に彩られていたが、今は煎じた薬の苦味のある臭いで満たされていた。
ベッドの傍らには、第八皇妃が付き添っている。
その若い女性は、さめざめと泣いている。
「確かに、第二皇子が何かを陛下に飲ませるのを見たのですね?」
「はい……。『毒だ』と叫ばれた第二皇子殿下が、陛下がお食べになった物を吐き出させた後で。
それまでは、陛下は確かに意識がおありでした。何かお身体に異変があって倒れられただけだったのでは、と。ですが、殿下がそれを飲ませた途端に、陛下は意識が遠のかれて……!」
「なぜ、それを飲ませようとした時にお止めしなかったのですか?」
「てっきり、気付け薬が何かかと……。申し訳ございません……」
第八皇妃は、顔を覆い嗚咽を漏らしながら、肩を振るわせる。庇護欲を掻き立てようとでも言うのか、潤んだ瞳で第五皇子を見つめてくる。
第五皇子は、その女を冷ややかな目で見下ろしたのだった。
つづく……
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