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前世の記憶持ちの女伯爵は、嫁ぎ先の国で夫を皇帝にすることにした  作者: 針沢ハリー


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29.第二皇妃が育てた毒の花

おはようございます!

こんにちは!

こんばんは!



 「母上。申し訳ございません。せっかく皇太子の席が空いたというのに、私の不甲斐なさのため……!」


 第二皇子は母親である第二皇妃の寝室にいた。

 彼の母は長いこと、床に伏しては回復し、しかしまた床につく、という状況を繰り返していた。


 もともと体が丈夫でなかった事と、第二皇子を妊娠している最中に毒物が盛られたと疑われる体調不良に見舞われたためであろうと侍医には言われている。


 彼女が生死を彷徨いながらも産み落とした男児もまた体が弱く、幼い頃は長く生きられないだろうと言われていた。


 だが彼は病弱ながらも成人し、今では無理をしなければ、常人と変わらない生活が送れるようになった。


 

 本来であれば、皇太子の席が空いた時点で、次子である第二皇子が立太子されてもおかしくはない状況だった。


 しかし……!


「あの、マルス将軍などと身分を偽っていた、廃嫡されるべきあの男が、ケイン皇子を担ぎ出したりしなければ!」


 第二皇子は、手を握りしめる。ただでさえ血色の良いとは言えない顔が、わずかな光しか入らない室内で、どす黒く変色したように見える。



 そこで、軽く咳をした母に、彼は慌てて近づき、水差しからコップに水を注ぐ。

 その水を口に含み、嚥下した第二皇妃は、弱々しいがはっきりとした口調で言った。


「ルドガー。あなたは皇帝となるに相応しい知性と品位を併せ持った、唯一の皇帝陛下の息子なのです。ご自分を卑下るすような事は口になさらないように」


 第二皇子は頭を下げた。


 そうだ。自分の他に、その地位に相応しい者などいないのだ。


 第三皇子はろくに教育も受けようとせず、遊んでばかりだという。成人はしているものの、まだ子供っぽい行動ばかりが目につき、皇帝にと押す勢力も無いに等しい。


 第四皇子はまだ幼なすぎる。母親が公爵家に養女として入ってから輿入れしたため、後ろ盾には事欠かないが、ただそれだけだ。

 まだ本人の資質など分からない幼子など、本気で支持する者は後ろ盾の公爵家とその縁戚くらいのものだ。


 

 競争相手はいなくなったはずだった。しかし……!


「ケイン皇子はすでに十四。頭脳明晰であると、評判も良いですね」


「はい。母上」


「しかし、それは父親が次期皇帝であったればこそ。それが居なくなってしまえば、母親と共にどこぞへやられてもおかしくは無かったというのに……」


「あの男の仕業です! 第五皇子など、本来何の力も持たないというのに! 武力を笠に着て、ケイン皇子を支持するなどと!」


 母はまた水を口に含む。


「第五皇子の母親も、大変図々しくて礼儀を知らない方でした……」


「私を母上共々亡き者にしようと、毒を盛ったのも、おそらくその女だったと……!」


 母親は鎮痛な面持ちで下を向く。


「憶測でそのような事を言ってはなりませんよ、ルドガー。

 ただ、私があなたを身籠っている時に、第三皇妃の懐妊が発覚したのは事実……。もしかしたら、自分の子が男子だった時のことを考えて、手を回したのかもしれないと言うだけです。決めつけてはなりません」


「母上はお優し過ぎます! 私たちをこのように苦しめながら、その息子は図々しくも健康に育ち、もしや皇太子にと言われていた! 赦して良いことではありません! 

 しかし、それも自らの罪で帳消しにしてしまったのですから、馬鹿な女です!」


 母親はまた水を飲んだ。花に水でもやるかのように、少しづつ。


「その通りですね……。皇帝陛下を裏切るなど、あってはならない事でした……」


 第二皇子は力強く頷いた。彼にできる精一杯の力を込めて。


「して、私は今後どうすれば良いのでしょうか? 各地を周り、縁談話も出ましたが……それは大して力になりそうにない者ばかり。有力な貴族は大変慎重で……」


 彼は、有力な支援者の獲得に難儀していた。それも全て、第五皇子の存在のせいだ。


「やはり、第四皇子に近づくのがよろしいかと……」


「はい。母上。私と第四皇子には親子ほども歳の差がありますし、いかようにも説得出来ましょう。どうぞ、私にお任せください」


「あなたの御心のままに……」


「私が帝位についた暁には、第五皇子を亡き者とし、母上の無念を晴らして差し上げます……」


 息子は母親が背筋を伸ばして座る、豪奢なベッドの傍らに跪き、その手をそっと握った。


 第二皇妃には、息子のその貴公子然とした姿は、着飾って微笑めば、数々の令嬢方の心を掴むはずだと思われた。

 彼女のために咲いた、弱々しかった蕾は、奇跡的に花を咲かせた。



「あなたならやり遂げられるでしょう。困難が立ち塞がり、方法に困ったら、私の侍医の所に行きなさい。良いものをお持ちですから」


 それは、母と自分自身をこのようにした、まさにそれとそっくりな物だと、第二皇子は聞かされて育った。

 いざとなったら、それで邪魔者を排除する。


 そして、彼は皇帝になるのだ。



 ゆっくりと時間をかけて育てられた、第二皇妃のために咲いた花は、本来は端正なはずの顔を歪め、顔の片側だけで笑った。



 母親に「また参ります」と告げ、その部屋を後にすると、第二皇子は第四皇子の母である第八皇妃に面会を申し込むための手紙をしたためた。


 本来、自分が得られるはずのものを、彼は当然の権利として取りに行くだけだ。


 幼い第四皇子と年若いその母親は、出来るならば協力者とし、それが出来なければ排除すれば良い。それだけの存在だ。


 彼はただひたすらに、そう信じていた。

 自分が、精神を犯し、正常な判断力を失わせる毒を浴びながら育ったとも知らずに……。




つづく……


ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

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