【閑話8】恋文
本日は「恋文の日」だそうで。
27話の裏側です。
その日、第五皇子は離宮にて書類仕事に追われていた。
帝都に向かった妻からは、最大の目的である、皇太子妃との約束を翌日に取り付けたため、一晩皇宮に泊まると連絡が来ていた。
彼はやがて仕事を終えると、食事と湯浴みを済ませ、自身の寝室に入った。しかし、そこに留まることはなく、続き部屋の夫婦の寝室に入る。
カリーナは居ないのだから、自分の部屋で眠ればいいのだが、ここにこうして来てしまった。
彼女が知ったら呆れるだろうか。
彼女を送り出す時にも、変装してついて行きたいと心の声を漏らしてしまったら、大いに呆れられてしまった。
彼はベッドに腰掛けた。いつも彼女が横たわる場所に手を置こうとして、それに気がついた。
枕の上に封筒が置かれている。
瞬時に身構えるが、その封筒の表面に、すっかり見慣れた筆致で彼の名が書かれているのに気づく。
彼はそれを取り上げて、封筒から一枚の便箋を取り出して、広げた。
『私を信じて待っていてください。
愛しています。私のロイ。
あなたの妻より』
彼女らしい、簡潔な手紙だった。
彼はその文字をなぞった。カリーナの書く文字は、繊細でありながら躍動感に溢れている。
彼女の騎乗姿にそっくりだといつも思う。
初めてそう思ったのは、出会った、まさにその日だったかもしれない。
信じて待っていて、か。彼は苦笑する。
彼はカリーナの能力の高さを信じている。
だが、彼女自身についてはどうだろうか。
いつか、急に居なくなってしまうのではないかと、どこかで思ってはいないだろうか。
彼の母親のように。
情けない。こんな歳になってもまだ、あの出来事を引きずっているのか。
彼は、その手紙を手にしたまま寝転がった。
彼女を抱いて眠りたかった。
実のところ、彼女の帰る頃に合わせて、途中まで迎えに行こうと思っていた。
だが、敷地内で待っていたほうがいいかも知れない。
いや、アプローチで待っていて、馬車から彼女が降りてくる時に、手を差し出すくらいにしておこうか。
彼は手紙を丁寧に封筒にしまい、枕元に置いた。
妻が眠っている様子を思い浮かべながら、彼も目を閉じた。
おしまい。
お読みくださり、ありがとうございました。
妻の方は、何も考えずにグースカ寝てると思います。




