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前世の記憶持ちの女伯爵は、嫁ぎ先の国で夫を皇帝にすることにした  作者: 針沢ハリー


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【閑話5】図書室と初恋?



 カリーナはその日、皇太子妃殿下へのお礼の手紙を書いていた。


 皇太子妃から受け取った本は、包みを開ける前にロイに取り上げられた。彼が部下に点検させ、それが終わったものが手元に戻ってきて、ようやく中を見ることが出来たのだ。


 読み終わったものは、まだ一冊だけだった。冒険者の航海日記風の物語だったが、とても面白かった。その感想を書き連ねていると、とんでもなく分厚い手紙になってしまった。

 まあ、仕方がない。他の本についても同じくらいの分厚さの手紙を書くことになりそうだが、諦めて受け取っていただこう。

 カリーナはそれに封をすると、侍女に託した。


 そして、読み終わった本を手に、図書室へ向かう。


 図書室は定期的に空気を入れ替え、埃をはらわれていたため、思ってよりも本の状態が良かった。

 新たな蔵書は増えていないそうだが、目録はしっかりしているようだし、多少整理すればこのまま使い続けられるだろう。


 カリーナは、埃避けの布がかけられたテーブルから、それを引き剥がすと、とりあえず手に持っていた本をそこに置いた。

 来歴をつけた目録を作らなければ、蔵書には加えられないからだ。


 すでにある目録をめくって、その蔵書を確かめながら、その記録の付け方を確認する。


 そうしていた時、ある一冊の本に目が止まる。

 カリーナは慌てて立ち上がると、その目録に書かれていた棚を見つけ、その一冊を探す。


「あった……」


 それは『流亡の王子』という題名の、幼い頃に父に買ってもらったあの絵本だった。

 ここは離宮として、本来の使われ方をしていた時には、子どもが訪れることも多かったのだろう。


 カリーナが持っていた物と違い、装丁はごく普通だった。

 一枚一枚丁寧にページをめくると、内容はカリーナが待っていた物とほとんど同じだ。一字一句覚えているので、多少の違いは目についたものの、同一の物語である事に間違いはない。


 カリーナは嬉しくなって、それを抱えたままロイの執務室に向かった。



 ロイは領地経営に関する書類を捌いていたようで、普段領地経営を託されているノルガが一緒にいた。彼はカリーナに丁寧に腰を折った。


 「カリーナ? 何かあったのか? そんなに息を乱して」


「いえ、お仕事中に申し訳ありません。休憩までお待ちしますので」


 カリーナは、水差しから水を注いで、それを持ってソファに座った。またこの本を読みながら待っていればいいだけだ。


 だが、ロイはすぐに人払いをし、カリーナの隣に座った。


「よろしかったのですか?」


「ああ。こき使われているから、こういう機会でもないと、休憩なんてほとんどないんだ」


 そう言うと、彼は自分の膝を叩いた。

 カリーナに、そこに座れと言っているのだ。二人の約束で、人目がなければ、ロイが望むようにすると言うことに落ち着いている。カリーナは本を持ったまま、彼の膝に横に腰掛け、彼の肩に頭をつける。


 そうすると、ロイはとても嬉しそうに微笑んだ。


「それは? 皇太子妃から贈られた物ではないな?」


 カリーナは、この王子様のお話しを知ってるか彼に聞いた。当然、彼は知っていた。幼い頃に飽きるほど読み聞かされたと言う。


「この王子様は私の初恋の人なんですよ。あなたを初めて見た時、この王子様みたいだと思いました」


 少し照れながらそう言うと、なぜかロイは首をひねって、カリーナの腹に手を回し、より体を密着させる。


「初恋相手のその物語の主人公と、私を同一視したと言うことか? そなた、私が初恋なのか?」


 今度はカリーナが首をひねる番だった。


「……ちょ、っと違う気もしますけど……」

 そうなのだろうか? ロイと出会うまでに恋愛はある程度してきたのだが、確かに、ロイほど初対面から彼女の心臓を掴んだ相手は多分いなかったとは思う。

 あの時の心臓は大忙しだった。

「まあ、はい。そうですか、ね?」



 ロイは真顔で頷いた。


「奇遇だな。私もこの間、クリストフに、そなたへの初恋は楽しいかと聞かれたんだ」


「……は? え?」


 いや、そんなはずはない、はずだ。ロイは女の扱いに慣れているようにしか思えないし、カリーナが初恋だなんて、あり得ないと思う。

 カリーナがそう言うと、ロイは不満気な顔をする。


「ただの肉欲以外の感情で、側において離したくないと思ったのは、そなたが初めてだが?」


「……も、やめてください……」

 カリーナは顔を手で覆った。なんでこの男は恥ずかしげもなく、こんな事を言えるのだろう?


 ロイは、カリーナの手の上から、彼女の唇の辺りに口づける。


「今日はもう、仕事などやめて、寝室へ戻ろう」


 ロイは、カリーナを軽々と抱え上げようとする。もちろん咄嗟にカリーナはそこを逃れた。


「なぜ逃げる?」


 カリーナは片手でまた火照っている顔を隠しながら、彼を嗜める。

「お仕事はして下さい。お客様がおいでになる前に片付けなければならないとおっしゃっていたでしょう?」


「……分かった。これは今日の夜までには終わらせる。その後の楽しみのために……」


 ロイはそう言うと、立ち上がっていたカリーナを抱きしめた。

 

「初恋は楽しいな」


 彼がそう言うのに、カリーナは何と答えたらいいのか分からずに、とりあえず、よく分からない事を言う夫の唇を強引に塞いだのだった。



            おしまい。

お読みくださり、ありがとうございました!

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