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【閑話3】置いて行かれた男たち

おはようございます!

こんにちは!

こんばんは!



 晴れ渡る空。雲一つない。

 鳥の群れが渡っていく。

 その下で。


 屈強な男たちが手頃な石を見つけては、それを投げて飛距離を競い合っていた。

 ナシオ王国第三騎士団の面々である。

 賭けまで行われているらしく、ときおり歓声や悲鳴が響き渡る。


 「おーーい! エド!」


 呼ばれた男は、腰を上げて声の主を見た。

 歩兵部隊のクラバー隊長だった。


「戻ったんですね。団長たちは無事に着きましたか」


「ああ。俺たちと入れ替わりにな。さて、交渉はどうなるかねえ」


 クラバーは、つい今しがたまでエドが座っていた、貴重な、大きくて平らな石に腰掛けた。一人座るのがやっとの大きさだ。

 エドはクラバーをほんの少しだけ睨んだ。


 また歓声が上がる。


「なんだ。あんなんで盛り上がるのか」


「何せ、我らが騎士団員は、クラバー隊長たちのように町に行くこともなく、ずっっっと、この野っ原にいますんでね」


 クラバーは苦笑した。確かにそれは暇そうだ、と言って。


「いいなぁ。俺も行きたかったなぁ〜〜」


「仕方ないだろう。お前は第三部隊の隊長だ。団長も副団長も居ないなら、お前が騎士団の一番上だろう」


「でも、見てみたいじゃないですか。マルス将軍とやらを」


「まあ、それは確かになあ」


 クラバーは髭だらけの顎を撫で、さて、交渉にはどれくらいの時間がかかるだろうかと、空を仰ぎ見た。

 陽射しの眩しさに、彼は目をしばたいた。





 それから五日とたたずに事態は急変した。


 その日は石投げに飽きた騎士団員に加え、歩兵部隊員も参加した、棒投げ大会が開催されていた。


「石から棒に変わっただけじゃないか」


 クラバーが呆れたように言う横で、ここ数日で手元の金を全て胴元に奪われたエドが、顎を両手で支えながら地面に座り込んでいる。


 胴元とは言え、その正体は会計関連の秘書業務を受け持つ騎士団員であり、彼が溜め込んだ金は基本的に第三軍のために使われる。もちろん団長も黙認している。

 一文無しになったとしても、我が第三軍に寄付したと思えば、エドの心はさほど痛まない。懐はとても寂しいけれど。


「いいんですよ。この際、投げるものなんて何でも」


「飯作るか、寝るくらいしかすることないからなあ」


 もちろん、彼らは日が昇ると鍛錬をする。その習慣は変わらない。しかし、余暇にする遊びに選択肢が無さすぎた。

 すぐ近くにある、オルテガ王国の王都の城門は、彼らの前では完全に閉ざされている。

 たまに約束通り、の量かは疑問だが、食料の補給をしに人と荷馬車がこちらにやってくるくらいだった。


「あーーあ。本当にひ」

「おい、あれを見ろ!!」


 急にクラバーが大声をあげたので、エドは慌てて立ち上がり、クラバーが見る先に目を細める。


 土煙りをたてながら、こちらに騎馬の一隊が向かってくる。


「副団長だ!! 全員、遊びはやめろ!!」


 先ほどまで棒投げに興じていた面々は、あっと言う間に整列をする。



「副団長! まさか、夜通し駆けて来たんですか? 団長は?」


 エヴァンが息を整え、酷使してしまった愛馬の立て髪を撫でながら近づいてきて、エドの近くで馬を降りた。


「……交渉は成立した。エド、一緒に来てくれ。私はオルテガ国王に報告をせねばならん」


 エヴァンと共に帰って来た隊員は彼を除いて九騎だけ。その彼らも指示を出すべく、すぐに待機組の隊員たちの元に向かっていく。


「クラバー隊長。歩兵部隊は頼みます。急ぐ必要は無いと命令されましたが、なるべく早く帰途に着きたい。エド、行こう」


 クラバーが頷くと、エヴァンは馬を換え、エドと共にオルテガの王都に向かって再び馬を駆る。


「説明してください、副団長。団長とライドは? たった二人で砦に残ったんですか?」


「違う。国へ帰った。我らもすぐに追いかける」


「国!? ナシオ王国に!? なんで!?」


 そう言っている間に、オルテガ王都の城門が見えて来た。


「その説明は後だ。長くなる」


 エヴァンはそれ以上、エドの疑問には答えようとしなかった。



 それから半刻、エヴァンとエドは、撤収の準備を進める第三軍の元に戻って来た。

 何人かがエヴァンに駆け寄り、それぞれ報告をする。後一刻もあれば出立は可能との事だった。

 それに応え、いくつか指示を出したエヴァンが、さて、酷使してしまった愛馬はクラバー隊長に任せてゆっくり帰ってこさせよう思って首をめぐらした時だった。

 目の前に腕を組んだ、決して逃してくれそうにない、クラバーとエドが立っていた。


「そろそろ話してもらおうかね」


「いつまでもだんまりは無しですよ、副団長」





 「……結婚? あの隊長が?」

 エドが言った。


「天変地異の前触れか、マルス将軍がよほど団長の好みだったか」

 クラバーは眉を寄せて、半分本気で大地の異変の到来について考えているようだった。


 「政略結婚だそうですが、それ以上は分かりません。二人で賠償金の減額交渉をしていたはずが、なぜかそう言う事になったそうです」


 ちなみに、とエヴァンは続けた。

「お相手の都合で、ナシオ王国での滞在期間は四日ほど、その後はディレイガ帝国に向けて出立するとの事です」


「それは、やけに急な話だなあ」


「騎士団はともかく、歩兵部隊は間に合いませんね。まあ、我々も入れ違いになる可能性はありますが」


 エヴァンは、大きく息をついた。

「引き継ぎくらいはさせなければ。私に任せると言っただけで、行ってしまったもので」


 彼の目の前で、二人は顔を見合わせた。

 先に口を開いたのはエドだった。


「ああ〜〜。そうなりますと、むしろゆっくり帰ってもいいんじゃないですかね。俺はそう思いますよ、副団長」


「……は?」


 今度はクラバーがエヴァンの肩を叩いた。

「無理はしなさんな。昔のこととはいえなあ」


「……何のことをおっしゃっているのか」


「誤魔化しても無駄だから」


「いや、他の男と、とは。いくら割り切ったつもりでも、目の当たりにするとなあ」


 エヴァンはその場に座り込んだ。

「何であなたたちが知っているんですか……」


「初めからですよ。副団長、一目惚れだったでしょ。可愛かったな。あの頃(はたち)のエヴァンは」


「何だ、そうだったのか。いや、我らはご本人に気づかれない程度に団長の、当時は副団長だったが、警護をしていたんでね。あんたの家に入り浸っていたのも、いつ二人が初めて一緒に朝を迎えたのかも……」


 エヴァンは地面を見つめたまま言った。

「もう、それくらいでいいでしょう……?」


「いや、俺は、二人の間に何があろうと、お前が配属されて来た時には、もう終わってたみたいだったから、構わなかったからな」


「その辺は、きっちりしてるからなあ。団長は。やはりウェイリン辺境伯の薫陶を受けたんだろうねえ」


 エヴァンは力無く地面に手をついた。


「地面にめり込まないで下さいよ、副団長殿」


「おいおい、せっかくの綺麗な髪がついてるぞ、土に」



 エヴァンは、色々な意味で、しばらく立ち上がれなかった。



            おしまい。

この件の詳細は、外伝、及び第四話を参照のこと。


が、がんばれ……!!


お読みいただき、ありがとうございました!

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