俺つええなんてなかった
目の前の敵をひたすら切り続ける。
スケルトンの上位種、スケルトンウォーリアーの振るう長剣を躱し、後ろに回って頭蓋を砕いて一段落。
かと思いきや、周囲には敵がまだわらわらいた。笑えねえ。
状況が変わったのは十分ほど前だ。溢れてくる魔物に上位種が混ざる割合がやおら増えていきこちらの統率が少し乱れたところに第8層から第23層のボスが現れたのである。
最悪なのがカルデラさんのパーティーに次ぐ準主力級のパーティーが依頼でよその街にいるってことだ。ちなみに俺の実力はその一個下くらい。
陣形が崩れるのは早かった。
それでもどうにか態勢を立て直し、カルデラさんのところが21、22、23層のボスをなんとか結界に閉じ込めたのが今現在。
俺もケルファーや知り合いの何人かと一緒に街の奥へ入り込もうとする8、9、10層のボスをさっき倒し、次のボスをはっ倒そうとどうにかこうにか目標ヘ進んでいる最中だ。
おかげで前線が大分押されている。
だが、幸い用事でこの街に来ていた魔術師の一団が大規模な結界を張り、ボスの行動範囲を制限しているので、死者はかなり抑えられているらしい。だが、それは気を抜いていい理由にはならない。
残りの11〜20層のボスをいかに倒すかが重要そうだ。
魔術師らがボスモンスターをダンジョン近くの開けた場所へ誘導しようと試みていたらしいが、成功したかどうかはわからない。
「オラァ!」
ケルファーが魔力の斬撃を飛ばす。それでようやく、目標地点に向かう最後の道が開けた。
「走れぇ!!!」
走る。走る。向かってくる敵を二刀流スキルで切り、ときに体術スキルで躱し、前へ前へとひた走る。
あと少し。そこに、やつは現れた。
「モガアアアアアアァァァァァァ」
「ミノタウロスが2体!?」
「マジかよ」
一緒にここまで突っ走ってきたジョニーのパーティーらが、気力を削がれた顔をする。
無理もない。あと一歩というところで高い壁に阻まれたのだ。それに、あと一歩と言っても残りのボス集団との戦いがどんなふうになるかは誰にもわからない。
だが、ここでミノタウロスと戦えば、確実に時間のロスになる。少なくともボスの集団との戦いには影響が出るだろう。カルデラさんのパーティーも、21〜23層のボスを倒すのにかなり無理をしているはず。
ヤバい、とここにいる誰もが思った。
「ミラーとケルファーの旦那ぁ、ここは俺らんパーティーに任せてくだせぇ。どちらにしろ俺達ぁあのボス集団との戦闘にはついていけねえ。あんたら二人を先に行かせたほうがいい」
「ジョニー?」
「ちょうど今使ってるこのハルバードの強化にこいつの角が必要なんでちょうど良かった。おめえらもいいな」
「押忍!」
「大丈夫でさぁ、無理をするつもりはありゃせん。うまく立ち回りますよ」
まったく、そんなかっこいいセリフを言われたら託すしかなくなるだろうが。
「必ず帰ってこい」
そういうと、鉄の杭をお相手さんの首めがけて投擲し、ケルファーと残りのボスが集まっているところへ駆け出した。
去り際に、牛の悲鳴と、男たちの気合の入った声が聞こえた。
「知り合いだったのか」
走りながら、そう聞いてくる。
「まあ、なんというか俺が初めて共同で依頼を受けたパーティーなんだ。それ以来の縁だな。あと一人ほしいってときに入れてもらう感じ」
その前は基本ソロだった。
「だったら、ちゃっちゃとこのデカいヤマを乗り越えようぜ」
「だな」
目の前のスケルトンを切り捨てながら、そう答える。
眼前には、ボスモンスターが集まっている空間があった。
何人かの魔術師が結界を張って行動を制限しているが、よく見ると何人か倒れ伏しており、ギリギリのラインを維持しているのがわかる。
「来たぞ!」
声を上げて味方だと知らせる。
状況を理解したのだろう、結界に二人分通れるくらいの穴が空いた。
「行くぞ」
「おう」