普段チャラいやつが真剣になるとなんやかんやでギャップがすごい
「これからどうする」
そう切り出したのは誰だったか。
こっちが聞きてぇよ。
「スタンピードが仮に起きるとしたら、その規模はどのくらいですか」
カルデラさんのところのプリーストが尋ねる。
「わからん、だがこのままではおそらくこの街は壊滅する」
「街全体に知らせる必要があるな」
「俺とカルデラさんで領主代行に連絡、たしかギルドマスターもそこにいたはずです。そこで話をつける。他の人たちはギルドに冒険者を集めてください。ミラーはダンジョンの現状の確認を頼む」
そう言ったのはケルファーだと理解するのに、少し時間がかかった。
それくらい、昨日と雰囲気が違っていた。だが、そんなのはどうでもいい。
彼の判断は的確であることを、この場にいる誰もが理解していた。
故に、一度心情のけりをつけてからの行動も皆速い。
全員が、指示された場所へ向かう。
ダンジョンの入口へと走る。
異世界にきてから八年過ごした街だ。依頼で他の街に繰り出すことはあったが、基本一週間もすれば帰ってきていた。
この街に愛着があったということだろう。
そういえば、この依頼を受ける前、旅に出ようかって考えてたな。
ダンジョンスタンピードを無事に乗り切ったら、放浪するのもありかもしれない。
道すがら、そんなことを思った。
ダンジョンの前では見張りの奴らがいつも通り突っ立っている。状況確認も含めまず彼らに話しかけた。
「スタンピードが起きるかもしれない」ってことを端的に伝えると、彼らはすぐに動いてくれた。
この場には俺ともう二人が残り、あとの人たちは周辺にいる人たちの避難に当たる。
残された俺たちの間には、緊迫した空気が漂っていた。
「大丈夫ですかね」
そう漏らしたのは誰だったのか。いや、誰でもいいのかもしれない。この状況で平常心を保てるほうがおかしいのだ。
周辺の人たちの避難が終わって、見張りに余裕ができると、監視をローテーションで担当することにした。こういうときこそしっかり休まねばならない。
俺が休む番になって二十分ほど経った頃、冒険者達が集まってきた。ケルファーやカルデラさんたちも来ている。
「まだ何も起きてないみたいだな」
「ああ」
ケルファーが隣に座りながらそう聞いてきた。
「しかし騎士団に入って3つ目の任務がこんな超弩級になるとは思わなかったわ」
「俺もこんなに大事になるとは思わなかったよ」
しかも半ば仕事に対するやる気を失いかけていた頃である。そこに来てスタンピードとか言うまじでめんどいテンプレを持ってくるとは。この世界の神は意地でも俺を働かせたいのか何なのか。労働基準法で訴えてやろうか。
「この一大事が終わったら二人で飲みに行こうぜ」
「バカ野郎、そういうのは終わったあとに提案しろ」
死亡フラグかと思っちゃうだろ。大丈夫だよね。たちました、とか言われないよね。
「領主代行様は?」
「事態収拾に尽力中。住民の避難はやってくれるっぽい」
「残りの騎士の数からして、モンスターどもは冒険者だけで対応しろってことか」
「そうなるな」
若干気が重い。
とはいえ、この街の未来がかかっている。おいそれと逃げられるはずもなかった。
これから来る厄災について思いを馳せる。
しばらくの間そうしていると、突然クソでかい音が響いた。
「魔力の波長がおかしい、全員戦闘用意!!」
「来たか」
二振りの剣を握り、深呼吸をして精神を集中させる。
目の前の魔物の掃討に集中しろ。
視野は広くもて。
無理をしすぎるな。
身体が戦闘態勢に移行したのをはっきり知覚すると同時に、視界の先にあるダンジョンの入り口から、スケルトンとホブゴブリンが大量に湧き出ているのが見えた。