電気ガス水道がそろっていることを、銀行口座に水道光熱費という勘定が存在する、と表現するのはどうでしょう
よし、なんとか月一投稿はした()
「そんなところですかね」
ベッドの上で膝を抱えた体勢でアルバはそう締めくくった。
「そうか、ありがとな話してくれて。辛かっただろ」
「いえ、そんなことは。聞いてて分かったと思いますけど、悪いのは僕ですし」
まあ確かに、パーティーの名をかたって悪事を働き、信頼を損ねた。だから追放される。それはその通りだ。これに関しては反論できねえ。
「フラムバルドから逃げて、この街に来たってわけか」
「はい」
「マルレーヌさんとはどういう経緯で?」
「流石にお金は生きていくうえで必要なので、ギルドにいって依頼を受けたのですが、そこでしくじってしまって。たまたま通りがかったマルレーヌさんに助けてもらったんです」
「ああ、なるほど。ギルド職員が来るってなると、ダンジョンか?」
「はい、ちょうど確認することがあったみたいで。それで、危なっかしくて見てられないと言うので、半ば無理やり魔法の訓練をしてくれることになりました」
「俺たちに依頼してからはあんま会ってなかったけど、話聞く限り、相当のお人よしだな」
「あ、あはは、そうですね」
ん? なんか変な反応だな。あれか、めちゃくちゃしごかれているから素直にいい人だって言いづらいのかな?
ありそうだなそれ。この辺でマルレーヌさんの話はやめとこう。
ふむ、話を聞く限り、レオノーラとの間にあるクソデカ感情が原因の大部分を占めているっぽいな。残りはパーティーメンバーの二人との罪悪感って感じか。
うん、重い、想像の数倍重いよ。俺一人で抱えるって意味でも、アルバの持ってる感情って意味でも重いよ。
でも、ここで引くわけにもいかないしな。
「仮に、仮にだぞ。今レオノーラに会えるってなったら、何話す?」
俺の質問に、アルバはピクリと動きを止めた。
やべえ、流石にいきなり切り込みすぎたか?
「そう、ですね。いろいろありますけど」
なんだろう、聞いているこちらまで緊張してくるな。
「とりあえず、謝りたいなって。別れ際にひどいこと言っちゃったし」
ひどいと言えばひどいかもだが、それはレオノーラの方も同じなのでは? と部外者の俺が言うのは簡単だが、アルバ本人はあくまで自分に非があると思っているのか。
「でも、それと同時に、僕は守られるほど弱くないんだぞって思いっきり言ってやりたいって気持ちもあるんですよね」
あ、やっぱり守ってあげるって発言は結構根に持ってたのね。いやこの場合根に持ってるとはちょっと違うか。
難しいな。劣等感ってのは周りがどうこうできる感情じゃないからな。あくまで自分が解決しなくちゃならない。
「ありがとうございます、話聞いてくれて」
あ、いかん。ちょっと考えてたらアルバが話をまとめにかかってるぞ。まずい。いやまずくはないが、できればもうちょい情報がほしい。
あれ、でもこういうときってあまり刺激するような会話を長く続けちゃダメなんだっけ?
「やっぱり僕なダメな奴ですね。このくらいで魔法の行使に支障をきたすなんて」
「ダメってことはないだろ」
不思議なことに、その台詞はするりと口から出てきた。
「もしかしたら世間的には大したことじゃないのかもしれない。でもな、自分の身に起きたことが大したことかどうかなんて、それこそ死んだときに振り返ってようやくわかるもんだ。俺たちは今、目の前にある壁を何とかして超えようと歯ぁ食いしばってんだ。その時アルバがめちゃくちゃ辛いって思ったなら、それはアルバにとってデカい困難だったってことだ」
どこかのオタクに優しいギャルが、100%の痛みはその人によって違う、その人が100%の痛みだと感じたならそれは100%の痛みだ、みたいな台詞を言ってた気がする。全くその通りだ。出来事に対する感情なんてのはあくまで個人の尺度でその強弱を図るべきであり、他人と比較するもんじゃない。
「じゃあ、僕がいま強化魔法をうまく使えないのも?」
「多分だが、強化魔法でもレオノーラに追いつけなかったから無意識に自分でも使いたくないって思ってるんじゃないか?」
もしかしたら違うかもしれんけどな。
「あ、いやそういうつもりで聞いたのではないんです、けど」
「え?」
あれ、もしかして受け答えミスった?
「強化魔法を使えなくなってるのも、変じゃないってことですよね?」
「ああ、そうだな」
「そう、ですか」
よかったこれでいや変なことですやっぱり僕はダメなんですなんて言い出したらどうしようかとおもったぞ。
しかし、ベッドに上半身を起こして下を向いているアルバの表情は晴れない。まだ何かひっかかるような顔をしている。
そりゃそうか。
おっといけない、もう一つ確認することがあったぜ。
「そういや、この話ケルファーにも話すのか?」
「え?」
「いやだって、俺だけ聞いたってのもな」
あいつが買い出しに行っちゃったから俺だけが聞き手に回ったわけで、本来なら二人で聞いていただろうしな。
首の後ろをかきながらアルバを見ると、やや嫌そうな表情をしている。
まあこの短時間で己の暗い過去を二回も話すのはちと精神的にキツイよな。
あれ、でもあいつアルバの口から聞きたいって言ってたような。
「まあいいか、今すぐってわけでもないし」
「ええ、できれば日にちをあけてからでお願いしたいです」
アルバが俺に話してくれたって事実を持っていけばあいつも納得するだろ、多分。
万一納得しなくても、アルバが嫌がることはあいつならしないだろうしな。
「おーい、ミラー。戻ったぞー」
そんなことを考えていると、ドアの外から響く声が聞こえた。
「お、戻ってきたみたいだな」
とりあえず、ドア開けるか。
「そう言えば聞いていませんでしたけど、どこに行ってたんですか?」
「ああ、言ってなかったっけ? まあ買い物だよ」
さすがにグラノーラ云々の下りはバカすぎて言えねえ。
「おかえり」
「おう、戻ったぜ」
家主じゃないのにおかえりっていうのなんか変な感覚だな。
「んで、目的のものは手に入れたか」
「ああ、ばっちりだ」
ふむふむ、グラノーラと、これは、玉ねぎか? それにカリフラワーと鶏ガラ。
「スープでも作る気か?」
「まあな」
そう言って、ケルファーは台所へと向かった。
「お、アルバ起きてたのか」
「はい、ついさっき目覚めました」
あれ、ついさっきだっけ?
「体は大丈夫そうか?」
「ええ、特には何も」
「そうか、今からチキンスープ作るけど、飲む?」
「え、いいんですか?」
「当たり前よ」
これがスパッと言えるのがケルファーのすごいところだよな。というか返事しながら食材切ってるし。
「あ、そうだ、ミラー。火起こすの手伝ってくれよ」
「はいはい」
何回か野宿したから分かるが、こいつがこういう時は火起こし以外も要求してくる。まあだから何だという話だが。
「ん? なんだこれ。どう使うんだ?」
懐から火打石を取り出して火をつけようとしたが、なんか俺の見たことのある炉と違う。
いや、違くはないのか。というかこの形は。
「コンロじゃねえか」
「あれ? ミラーさんご存じで?」
「え、ああいや。まあ、うん」
やべえ、どう使うんだ?って言った後なのに知ってるって言っちゃった。完全に見栄張ってる虚栄心バリバリのやつとして見られちゃう!
どうしよう、コンロの同音異義語なんて第七特殊消防隊のあの人しか知らねえよ俺。
「へえ、すごいですね。やっぱり旅をしてるとそういう情報に目ざとくなったりするんですか?」
「ま、まあな」
ええい、ここはこのまま乗り切るしかねえ。
「初代皇帝が残した資料の中にあった、すぐに火がつけられる魔道具コンロの改良型が、二か月くらい前に〇〇商社から売られ始めたんですよ。それで、使いたいって人たちのために試験的に導入した集合住宅の一つがここです」
あ、そうだったのか。初代皇帝すげえな。国打ち立てた上にインフラの底上げもしたのか。
「あり? じゃあここの家賃って結構するんじゃ?」
ケルファーが玉ねぎを切る手を止めて話に加わってきた。涙がきつくなったに一票。
「いえ、それが、半年ほど前に実験した試作型が爆発したそうで、今回は入居者が減ってしまって。家賃はひと月銀貨一枚です」
「「マジ!?」」
やっす! 事故物件でもないのに? あ、いや事故は起こっている、のか? いや起こってねえな。
「しかし、だとしたらなおさらよくすむ気になったな」
「やはり、家賃が安かったので、あのときはお金にゆとりがあるわけではなかったですし」
「あー、わかるわ。金にゆとりがないと何もかも削ろうとするからな、羽ペンの先とか」
「それ意味合い違くないですか?」
お、アルバナイスツッコミ。
「まあ若いうちはどんな環境でも生きていけるだけのガッツがあるからな。年取るとそうはいかん。アルバも、寝具とかは大事にした方がいいぞ。体が無茶を聞いてくれる期限は意外と短いぜ」
まあこの世界の人間は大体が50歳くらいまでピンピンしてるけどね。
「き、肝に命じておきます」
「そうだぞ、俺も今玉ねぎ切ってから涙もろくなった。気を付けた方がいい」
「それ年関係ないだろ」
みたいな下らんやりとりを挟みつつ。
「できたぞ」
「ああ、おつかれさん」
スープが完成した。
「すみません、ご飯まで作ってもらっちゃって」
「なーに、気にすんな」
「あ、でも座るところが」
「心配いらねえよ、俺とケルファーは床でも。なあ」
「ああ」
テーブルを部屋の中央に置き、それを囲むように座る。
「どうだ、味は?」
「おいしいです」
「それはよかった」
うん、マジでうまい。肉が入っていれば完璧だったが、それは言わないお約束だろう。
「話戻すけど、アルバは依頼受けつつマルレーヌさんの特訓に付き合ってる感じなのか?」
「ええまあ、そうですね」
「それって依頼からの収入だけで回していけるんか?」
「おい、ケルファー。そういうことを聞くのはご法度だぞ」
冒険者の金回りのことは聞いてはいけない。これ豆知識な。
「え、マジ? なんかギルドにお金預けてるからみんなそういうのに気い使ってるんだと思ってた」
「ンなわけあるかい。大体は宵越しの銭は持たないって謳い文句のもと金遣いは荒いぞ」
俺みたいな奴はどっちかというと例外だ。外れ値だ。自分のことをこう言及するあたり、おそらくまだ中二病に罹患している可能性大。
「え、じゃあアルバも?」
「いえいえ、僕はぜんぜん、毎回きっちりはかって使ってますよ。貯金は少ないですけど」
「そ、そうか。悪いこと聞いたな」
「そういうことを聞くってことは、お前さてはかつてお金関係で失敗したことがあるな?」
「う゛」
どうやら図星らしい。せっかくだ。もっとつついてやろう。
「ほうほう、聞かせてもらおうじゃないの」
「つまんねえ話だぞ」
「いいからいいから」
「そうですよ、僕もその話聞きたいです。参考になるかもしれませんし」
正論を装ってケルファーに話をさせようとは、アルバなかなかしたたかだな。なかなかとしたたかってなんか似てるな。
「騎士団に入る前のことなんだが、まあ孤児院を飛び出して来てその日暮らしだったから金がなくてな。ある時同じ部屋で雑魚寝してたやつから、いい話があるって誘いが来たんだわ」
「なるほど」
「ふむふむ」
もう大体落ちが読めたわ。伊達に大学入学時にマルチ勧誘の注意喚起を見せられていない。
「まあザックリ言うとクリスタルゴーレムの腕をさるお方の指定した場所まで届けてほしいっていう依頼だ。報酬は金貨4枚だった」
「ふむふむ」
「まあ指定した場所についたら、なぜか王国の騎士団がいてな、その手に持ってるのはなんだって聞いてきたわけよ。そこで気づいたんだ。俺らだまされたんだって」
「えー、その話自体がウソだったってことですか?」
「ああ、多分なにか盗んだとか不正なルートで得た品を処分しようと、使い捨てできる奴らを探してたんだろ。それでたまたま俺たちが関わっちまったわけさ」
「怪しい儲け話には乗ってはいけない、特に割りの良すぎるのは要注意ってことだな」
「ミラーの言うとおりだぜ」
そう言って、ケルファーはお椀に残ったスープをごくごく飲み干した。
「さて、俺らはここらでおいとまするぜ、アルバ」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
「いや流石にこの部屋にずっと三人いるのはまずいだろ、狭いし」
それはそう。
「分かりました。今日はすみません、迷惑おかけして」
「ぜんぜん、気にすんな」
ケルファーが笑顔をたたえてサムズアップする。
「明日もいつもの時間で大丈夫ですか?」
「いやただその前にちょっとだけ話しておきたいことがあるから、訓練開始はちょいと遅れる」
あぶねえ、流れで言い出しそびれるところだった。
「話ですか?」
「ああいやいや、訓練の本筋、というかアルバには関係ない話だ。気にすんな」
「わかりました」
うんうん、聞き分けがいいのはよいことだ。
「じゃあ、俺たち帰るわ、今日は早めに寝るんだぞ」
そう言い残して席を立つ。
ケルファーも同じように立ち上がり、俺たち二人はドアをくぐって外へ出た。
「アルバ、昔のことについて話しただろ」
「お、よく気づいたな。ああ、だから関係ない小噺をしていたのか」
「まあな」
帰り道の途中、相方はそんなことを言った。
「ちなみに、聞きたい?」
「んー、前も言ったけどできればアルバ本人から聞きたいな」
「悪い、おまえが戻ってから言えば良かったな」
先走ったか。
「気にすんな、アルバに二回話してもらうのが嫌だってのは一緒さ。とりあえず、明日考えよう」
「気長だな。あと三日しかないぜ」
「最悪もうちょいこの街にとどまるさ」
「だとしたら、俺への貸しが増えていくぞ」
「あー、それはこまるな」
「残念、俺は困らない」
「その言い方はなんかむかつくな」
そんな言い合いをしつつ、俺たちは宿屋に戻った。




