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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第一章
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我、未だに異世界でアルコール童貞なり

あれからマグロブさんに連絡を取り、伯爵から冒険者ギルドへ一報を入れてもらった。

今まではただ各階層の魔物が狂暴化したから気を付けてね、くらいのレベルだったが、下の階層で出るはずのモンスターが上の階層で出現するのは、警告じゃすまない。

ギルドからは、迷宮への立ち入りを禁止するお触れが出た。

一方俺らのほうは、あれからひたすら名簿をチェックして、居所がわかってるやつらに怪しいやつがいないか、何か迷宮内で妙なことがなかったかという点について聞き込みを行っていた。

だるみ極まりナシゴレンな作業だったが、収穫はあった。

二週間近く前に19層に潜った3人組のパーティーが、黒ずくめのローブを着た集団を目撃していたらしい、とのことだ。

めっちゃ怪しい。多分そいつらが何かした可能性が高い。

だが、この状況で19層に潜って痕跡を探そうと思えるほど、俺らの肝は太くなかった。

なので、現在ギルドの酒場で駄弁っている次第である。

俺は新聞を読んでいた。スマホがニュースをガッポガッポ読み込んでくれたころと違い、この世界ではこういう形で自分で情報収集をしなくてはならない。まあギルドでただで読めるから金銭面での負担が少ないのが救いだ。

新聞には、勇者が辺境の地でバジリスクの群れを掃討したこと、王子の即位式の日程についてなどが書かれていた。

それらを頭の片隅に収めつつ向かいのケルファーに尋ねる。

「ケルファーよ、どうするんだい」

「俺だって知りたいぜ」

まあもし何か思いついたらこんなところでフィッシュアンドチップスつまんだりしないか。

とはいえ、やることが全くないわけではない。

「それよか、カルデラさんとやらは来るのかい」

「ああ、じきにな」

今日はカルデラさんのパーティーから話を聞く日である。

酒場で駄弁っているのも主目的はカルデラさんの帰還を待っているが故であった。

「伯爵家の方はどうだ」

「マグロブさん曰く、王子の即位式が終わって現当主が帰ってから、本格的な調査をするつもりらしい。それまでは今いる騎士団で警戒体制を敷くんだと」

冒険者の方もギルドマスターが領主代行に掛け合って協力体制を敷こうという腹づもりらしい。

たしか当主が王子の即位式で王都にいるから、今領主代行をやってるのは次期当主と現当主の補佐役が何人かだったはず。とくれば。

「果たして当主様の帰還は間に合うかね」

「どうやらおんなじことを考えているみたいだな」

察しがはやいな。

もしこれが人為的に起こされたとしたら、王子即位式で騎士団の半数がいないこのタイミングは絶好の機会なのだ。

故に、現当主の帰還は間に合わない。

そんな悪い予感がした。

そして悲しいことに、俺の悪い予感は高確率であたる。前世からずっとこうである。

思考が暗闇に走りかけた俺を、ギルドに響いた声が現実に引き戻す。

「戻ったぜ」

どうやら、待ち人が来たようだ。

受付で依頼完了の手続を済ませたカルデラさんのパーティーは、ナイルを連れて俺らのテーブルにやってきた。

ナイルが俺に耳打ちする。

「ギルドの部屋を一つ借りたので、そこで話しましょう」

「わかった」

そういうと、ナイルはその部屋の方へと向かっていった。

「なあ、あの子可愛くないか。まさかお前」

「何バカなこと言ってんだ」

それだけは絶対にない。

全く。こいつは何を言っているんだ。

「いや、でもあの距離は」

「わかったから行くぞ」

こいつ、大丈夫かな、一応今からマジな話し合いをするんだけど…。



***



ギルドでは、申請をすることでギルドの奥にある部屋を借りることができる。

部屋の中にはカルデラさんのパーティーメンバーと俺、ケルファー、ナイルがいる。

既にナイルは概要を説明し終えたらしい。優秀ザマス。

「俺らに聞きたいことがあるんだってな」

「ええ、そうです」

怖い、カルデラさん怖いよ。顔に傷あるし、目つき鋭いし、声低いし、ケツアゴだし。あ、最後のは関係ないか。

「三日前にダンジョンに潜ったそうですが、そのとき何か変なことはありませんでしたか。怪しいやつを見かけたとか、普段見ないモンスターがいたとか」

「変なことねぇ」

そういって彼は顎をさする。見た目は完全にヤクザのそれだ。

「そういえば、オークジェネラルの数が多かった気がしたっす」

そう答えたのは斥候を担当しているひとだ。つい最近入ったそうなので名前は知らん。

「普段と比べてどのくらいですか」

「肩慣らしに向かった28層でオークジェネラルに三体遭遇したっす。いつもなら一体ぐらいなのに」

なるほど、しかしいつもより多いというからにはおそらく、

「そのあと攻略した33層でも4体に遭遇したんす。ここもさっきと同じで普段なら一体。多くても二体が関の山っす」

やっぱりか。

「他には何かありましたか」

そう聞くが、全員特に何か印象に残るようなことはなかったらしい。

外れか、最深層攻略ならなにか別のことを聞けるかと思ったが

「あの、、」

声のしたほうを見ると、パーティーの魔法火力担当のサシェラさんが手を挙げていた。

こっちは古参なので俺も知っている。

首を縦に振って続きを促す。

「私の気のせいかもしれないんですけど、使っている魔法の威力がいつもより若干上がっているような気がしたんです。気のせいか、消費した魔力量もいつもより少し少なかったような」

ふむ。取りあえずメモっておこう。

「おや、私はいつもと同じように感じましたが」

ふむ、プリーストはいつも通りと。

この人も最近入った人だ。教会に所属するプリーストは所属パーティーをしょっちゅう変える。だから名前は知らん。酒場でよく隣に座るおじさんくらいの距離感でいるのがコツだとカルデラさんは言っているが、俺は酒場に行ったことがないしそもそもソロである。

アドバイスする相手と前提条件が違うがゆえにアドバイスが意味をなさないことってあるよね。

閑話休題。

とりあえず、その後もちょこっと質問をしたが、特に目ぼしい情報はなかった。

つまり収穫はなかったのだ。ガッデム。

そう思い、撤収しようとしたが、

「そういえば、ギルドの資料で同じような現象の記述があったのを見た気がするんですけど」

ナイルの発したその一言に、何かひっかかるものを感じた。

ギルドの資料、魔法の威力上昇、魔物の狂暴化。

ひょっとして。

俺はある可能性に気づいた。

「ナイル、ギルドの資料室に連れて行ってくれ」



「たしかこっちにあったような」

記憶を頼りに資料室をあさる。ここには過去のギルドで起こった依頼に関する資料や薬草、魔物のデータが揃っており、暇なときはよくお邪魔してた。おいそこ、一緒に遊ぶ人いないんですかとか聞くんじゃない。

「これだ」

十分後だろうか。俺は目当ての資料を見つけていた。

「ダンジョン内でのマナ飽和?」

ナイルが首を傾げながら尋ねる。かわいい。

「ダンジョンってのは外よりマナの濃度が濃いんだが、それがある一定量を超えるとダンジョン内での魔物らにも影響が出る。魔物が狂暴化したり、ダンジョンのトラップの効果が変化したりすることもあるそうだ。ここにはそう記述してある」

一息ついて説明を続ける。

「サシェラさんが言ってた魔法の威力上昇もそれによるものだ。魔法の発動原理を考えれば当然の帰結だ」

威力の高い魔法を行使するには、術者本人のマナだけでなく、周囲のマナを取り込む必要がある。周囲のマナ濃度が高ければ、必然取り込む量は増え、それは魔法の威力の向上を意味する。

しかしプリーストの祈りは違うシステムに則っているので、威力は上がらない。

そこまで説明をつけて、資料のページをめくる。

「問題はここからだ」

ここからがマ〇マなんです。

「さっきも言ったが、トラップの効果が変化してその結果下層の魔物が上層に転移してくることがある。そいつらは稀にボス部屋を開けてしまうことがある」

「それだけなら特に問題ないのでは」

「いや、普通冒険者がボスに挑んだらたとえ負けたとしてもボスは部屋から出られない。ところが、ボス部屋がダンジョンモンスターによって開けられかつボスが戦闘に勝利した場合、理屈はわからんがボスは部屋から出てこれる」

「なんだと!?」

カルデラさんがすごい大仰な反応をした。

「その場合どうなるんスカ」

「ボスがその階層を徘徊する、だけならいいが一度部屋から出たボスはその階層を支配下に置き、ダンジョン外へと出ようとする性質がある」

「それって」

「ダンジョンスタンピードだ」

資料室の照明のオイルが切れてジジッと鳴った音が、やけに大きく響いた。


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