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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
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ああ、店員さん、注文した後にメニューを回収しないでください時間潰すのにつかうんです

まずい。理由はよくわからんが、この子の何か地雷っぽい部分に触れてしまったのかもしれない。

「えっと、その。若いのにこうやって人に教えを請いて精進しようって点っす」

「教えを、請う?」

「ほら、マルレーヌさんに教わってるんでしょう?なんか、こう。アレを」


どれだよ。

なんだか良くない雰囲気を感じ取ったので、必殺・落とし物をしたふりをして机の下を覗くを使用することにした。場にいる全員が男だと気兼ねなく使用できるのがいいところだ。

ちらりとみてみると、彼の足元に杖が転がっているのが見えた。あの時見た光景から察するに、やはり魔術師なのだろう。

「まあ、教わっているといいますか、叩き込まれているといいますか、しごかれているといいますか」

オッケー、今のでどういう指導方針なのかはなんとなく察したわ。

マルレーヌさんとの関係について聞こうかと思ったが、やめた。二度手間になっちまうしな。


「へー、そうなんすね。ところで、さっきから食べてるそれ、何なんですか?」

あ、こいつ、まずいと悟って話題を変えたな。

「あー、パフェというものです。背の高いグラスに、アイスクリーム、フルーツを盛り付けたものですね。一か月くらい前に流行ったんですよ。今は流行が終わった後なので、こうして食べているんです」


なん、だと。

ケルファーがパフェを知らなかったとか、最近流行りだしたとか、アイスクリームを作れるだけの技術がこの国にあることだとか、いろいろ気になることはあったがそんなのはアルバの最後のセリフですべて吹っ飛んだ。


流行が終わった後なので、食べているだと!?

完全に思考が俺と一緒だ。トレンドを意識するナウでヤングな若者なら今流行っているから食べにくるというところを完全に逆行してやがる。

分かったぜ。こいつのことを好きになれそうな気がする。


「ちなみに、それに入ってるのは?」

一瞬ちらりとケルファーの方を見たのち、彼はゆっくりとグラスに視線を戻す。

「普通のアイスクリームと、ホイップに、砕いたナッツと、イチゴとブルーベリーっすね」

およ、ブルーベリーか。ひょっとしたらツェル村のかもな。

「あとなんかキウイ?ってのも入ってるみたいです」

キウイか。もとになってる鳥はこの世界にいるのだろうか?


「キウイっすか。聞いたことないっすね」

「多分、南の大陸で発見された新種の果物じゃないか?」

二人がこちらを見る。

「果物の数なんてたかが知れているんだ。ましてや物資の流通量も多い帝国だ。となると、新しく見つかった果物だろう。そして見つかる可能性が一番高いのが」

「南の大陸、ってわけか」


南の大陸。二十五年ほど前に見つかった、王国からさらに南へと南下して海を渡った先にある謎の大陸。

人が住んでいるのかもよくわからず、いくつかの国から冒険者が派遣されて調査が進められており、分かっているのは多様な植生が存在していることと、ダンジョンが一つ存在すること。そして奥の方にマナが濃い地帯が存在して、その近くに巨大な山があることだ。

地球でのキウイはたしか中国原産でニュージーランドで改良されたマタタビの仲間なのだが。この世界では随分と違うらしい。


「これですね」

カチャリカチャリと匙を動かしていたアルバが、グラスから匙に何かを乗せて俺たちの前に持ってきた。見たところグラス内のキウイを取り出してくれたらしい。なんて優しいんだ。

「あげませんよ」

「いやもらおうとも思ってねえよ」

どうやら先ほど地雷を踏みかけたせいか、若干警戒心を上げてきてるみたいだな。

「ミラー、俺らもなんか頼もうぜ」

「そうするか」

というかそもそもこの店に来てるのになにも頼まないってのも座りが悪いしな。


そばにおいてあるメニューをサラッと確認した俺らは、三十秒ほどで何を頼むかを決定し、店員を呼んだ。



***



五分ほどして、頼んだ品が到着した。

その間、俺たち三人の間にあまり会話はなかった。あまり話しかけないで欲しいというオーラを放ち始めたのをケルファーも察したのだろう。話しかける頻度はサイクロイドのごとく減少し、ついには最終兵器、俺昨日転んだんだよねを繰り出すに至った。

まあそんなことはどうでもよくて、いやどうでもいいと言うと語弊があるのだが、とにかくマルレーヌさんが来るまで、和やかなとはやや離れた時間を俺らは送ったのだ。

そして頼んだスコーンをモッシャモッシャと食み終わってジュースで適当に流し込んでから十分くらいして、俺たちをここに呼び寄せた張本人である彼女がやってきた。


「おや、皆さんお揃いで」

「いやあなたが集めたんでしょうに」


ツカツカとこちらに来た彼女は、アルバの隣に座った。


「さて、昼間にも話をしました通り、私はこの子の面倒を見ています。そしてこの一週間はかなり立て込む予定で、面倒を見る予定がないのです。ですから実力のありそうなあなたたち二人にその間この子の面倒を見てほしいのです。詳細はここに書いてきました」

そう言って、わきに抱えたかばんから一枚の紙を差し出した。

二人でのぞき込む。見ると、面倒を見る時間、すべきこと、報酬とその受け渡し方法やその他の事項が書いてある。

見たところ、こちらを騙そうなんて文章は書いていない。何か魔術で文章を隠してるのではと思いケルファーにチェックしてもらったが、そういうのもなかった。


「この一週間、彼を休ませるという発想にならなかったのはなぜです?」

「あなたたちほどの実力であればわかるでしょう。一度修練を放棄すると、冒険者としての力はみるみる下がっていく。ましてや彼は発展途上。であれば、この一週間を好きにさせるというのは悪手だと思いませんか?」


うむ、全くもって正論である。サボったやつから弱くなっていく。


「適度な休息だって大事でしょう。あまり訓練で締め付けすぎると、どこかで反動がきますよ」

とはいえ、訓練だけで他に何もさせないというのもそれはそれで問題だろう。甘いと言われるだろうが、こちらもちょっとくらい意見を表明したっていいはずだ。

「わかる。俺も昔めちゃくちゃしごかれてしばらく反動でいつもの倍ご飯食ってた」

「それ反動でも何でもないじゃん」

ただ疲れた体がエネルギーを欲してるだけじゃん。

「その通り。加えてあなたたちは魔術師ではない。ですからそこに書いたでしょう。面倒を見る時間以外は彼の好きにさせてもよいと」

おいマジかよ今のケルファーの台詞を完全スルーとはやりおる。

そう思うと同時に先程の紙に視線を戻す。たしかに結構ゆるいスケジュールになっていた。お前五個くらい授業とり忘れてるんじゃねって大学生の履修計画くらいゆるかった。

なるほど、であればなおさら報酬の高さが気になるな。


「報酬は本当に金貨六枚なんですか?」

言外に、高すぎやしないか何かあるんじゃないのかという意味を込める。

「高すぎる、と言いたいのですか」

「これでも銀ランクですからね。依頼の相場くらいは大体頭に入ってるつもりですよ。変わり種含めてね」

ウソは言っていない。伊達に八年やってきたわけではないのだ。

「おい、俺は入っていないぞ」

「だまらっしゃい」

耳打ちしてきたケルファーにそう返す。

「では、試しに明日私とアルバが潜る時の大体の流れを実演してみましょう。それで分かるはずです」

デモンストレーションありかよ。かなり気合入ってるな。


この話を書くときに念のため調べて知ったのですが、キウイって熱帯の果物じゃなかったんですね。

よくよく考えてみれば小学校の校庭にあったんだからそりゃそうだって話ですけど。

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