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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
62/73

何か覚えたいなら効率とか考えるな。いったん量をこなせ

正面のスケルトン目掛けて突進する。相手が持ってる盾を防御するより早くその腕を切り裂き、首をはねる。骨を蹴り倒して後ろにいるサハギンの攻撃を腰を落として躱し、股下を切りつける。血しぶきを見ながら勢いでスライドし、さらに奥にいるサハギンに向けて思いっきり剣を振り上げる。

やっぱりだ。こいつら動きが遅い。加えてこっちの攻撃も体感通りやすくなってる。もろいのだ。この階層のモンスターのレベルと比べても弱くなってるとはっきり言いきれる。

ってことはだ。

ダッと地面を蹴って距離をとってそちらを見れば、オーガの脳天に思いっきり一撃を入れているケルファーの姿がそこにあった。

同時に、魔力が高まっている気配と、こちらに向かってくるあの五人の冒険者らの様子も見える。

どうしようか。群れはもう五体しかいない。あっちの人たちに任せて俺もオーガをちゃっちゃと始末しに向かった方がいいのか?


「双剣のひと、そのままサハギンとスケルトンを始末してください。オーガには今私が魔法を打ち込みます」


おー、ありがてえ。しかるべきタイミングで指示をくだせるのはいいリーダーだ。

そう思った次の瞬間、頭上を閃光が通過していった。


ズキュゥゥン。

ちょいと訂正、躊躇なく部下を捨て駒としてこき使いやがるのは悪いリーダーだ。

おい間髪入れなさすぎだろ。今魔法を打ち込みますって言ってノータイムで打ち込んだぞあの人。

あ、オーガの首元が黒くなってる。あの感じは雷魔法だろうか。

目線を下に落とすと、スケルトンとサハギンがこちらに背を向けて逃げようとしているのが見えた。

逃がすか。

鉄杭を取り出して、右にいるサハギン目掛けて投擲する。同時に走り出す。

あ、刺さった。

右手に持った剣を振り下ろす。背後からの攻撃。左手の剣を逆手にして受け止める。

力を抜いて受け流し、そのまま右手の剣で心臓を一突き。

そのまま右手を振りぬく。ちょうど横から来る攻撃を防げるという寸法だ。

すでに残りの魔物は逃げ出そうとしている。そちらには一緒にいた冒険者が向かっている。あの人数差だ。流石に大丈夫だろう。

俺はゆっくり息を継いで、両手に持った剣で目の前のスケルトンを切り刻んだ。




***




ひとまず、片付いたな。

「お疲れさまでした」

「お疲れ様です」

とりあえず、一緒に戦ってくれた冒険者たちに挨拶しておく。流石に会話がないのは辛い。

「強いですね。あなた」

「え、まあそれなりに」

「ランクは?」

「銀です」

「ほええ。外から来たん?」

「そう、ですね。旅の途中で、路銀稼ぎに」

「ああ、そうか。見ない顔だと思ったら」


わいわいがやがや。

ああ、急に戦線を組んだから話しかける機会を逃してしまっただけで、多分この人たち元はおしゃべり好きなんだろうな。雰囲気でわかるもん。

「おう、全員集合か。俺も混ぜてくれよ」

「皆さん、お疲れさまでした。私としては取りあえずいったん地上に戻りたいのですが、いかがなさいますか?」

ケルファーと女の魔術師、そして緑のフードを被った人も集まってくる。

「わたしたちは地上に戻ります。流石にあんなことがあった後だと依頼受ける気もないし」

「同じく」

「うんうん」

「しかり」

「それな」

息ぴったりだなこの人たち。すげえ。


「俺らは、戻ってもいいけど。どうする?ミラー」

「そうだな」

正直まだ目的の素材が一つそろってない。明日来るとなるとまた入場料を払わねばならない。だから個人的にはまだ探索を続けたい。

しかし、この群れを作った原因がもしかするともしかするかもしれないのだ。安全策をとるのなら引き上げるべきだろう。

うーん、どうしよう。

まあ入場料くらい、別に依頼を受けて稼げばいいか。

「戻るか、ちょいと気分転換したい」

「では、全員でまとまって行動しましょうか」

特に拒否する理由もない。全会一致で、俺たちは地上に戻ることになった。


「ミラーさんは旅を初めてどれくらい経つんですか?」

ブラウンと名乗った青年が聞いてくる。持っているロングソードから察するに、アタッカーなのだろう。茶髪に長身、ワックスで決めた髪。チャラ男に見えなくもないが、こっちを見るまなざしにはちゃんと尊敬の意が感じられる。

「一か月とかそんな感じ」

ダサい。ちょっとこなれてる感を出そうとして日数を長めに申請している俺マジダサイ。

「いやー、助かりました。俺たちとマルレーヌさんらだともうちょい苦戦してたかも」

「いや、流石にあの威力の魔法ぶっ放せる人いたら何とかなっただろ」

オーガ二体、それから群れに打ち込むので四、五発はいるだろうが、上手く時間稼ぎはできるはずだ。

聞くところによると、どうやら、ハニング砦での戦いに参加するために、銀ランク以上の冒険者は多くがこの街を離れているらしい。逆に、何かあったときに王国に逃げられるようにここにとどまっている人もそれなりにいるそうだ。


「あー、あの女の人すごいよな。何者なんだろ?」


俺の左にいるケルファーがブラウンたち五人組に声をかける。

「あの人、どこかで見た気がする」

「え、ソーヤーまじ?どこどこ?どこで見たん?」

五人のうち弓を持ったおかっぱの人が目を細めながらぼそっとつぶやく。それを目ざとく聞きつけたポニーテールを結ったピンク色の髪をした女の子が問いかける。

「分からないからどこかって言ってるんでしょ。でも思い出せないってことは毎日会ってる人じゃないと思う」

おお、鋭い分析だ。


「ああー確かに!うちらまだ若いからね。何回も会った人は覚えてるもんね」

「いや年とっても何回も会う人は覚えているだろ」

黒髪のすこし癖っ毛の少年が突っ込む。名はネヴィルと言ったか。

うん、そりゃそうだ。暗記の基本は接触回数を増やすことだからな。そこは年とっても変わらんわ。

とはいえ、子供の頃みたいにガンガン覚えられるかと言われると流石に無理だと感じるのもまた事実。

というか、俺もう三十近いのか。マジかよ。

この子らはまだ二十歳くらいだろうか。十歳差か。全然イメージがわかねえ。年齢なんて見た目から乖離してなんぼだからな。まあただ単に見た目から年齢を推測する行為を俺がしたことないっていうのもあるが。


「あの斬撃、すごかったですね」

「ああ、コツはな……」

やや後ろの方で、ケルファーと五人のうちの一人、大きな盾を構えたヒルという青年が話している。というか、どう見てもタンク役なのになんで斬撃のコツを教えてんだあいつは。日本史勉強したい高校生に世界史教えるようなもんだぞ。いや、そこそこは役に立つのか。じゃあいいか。

そこから逆に目を向けると、魔術師二人が会話をしながら前を歩いてるのが見える。

さっきはドタバタしていて誰も気にしなかったが、あの二人が何者なのかは確かに気になる。俺たち七人は今歩きながらかるく自己紹介をしたのに、あの二人だけ身の上について何も語っていない。

まあ聞く気もないけどな。なんで話さないんですかって聞いて「君のような勘のいい冒険者は嫌いだよ」とか言われたら間違いなくめんどいことになるからな。女の人の方は明らかに高位の魔術師だし、いざこざを起こすのはよくないだろう。

おそらくここにいる人たちもそう考えてるはず。であるならば、ここは適当にやり過ごすのが吉だ。あと五分もすれば階層を抜けられるだろうからな。



***



そんなこともあって階層を抜けたあと、ギルドについた。

どうやら二グループとも依頼を受け終わったらしく、手続きをしてから帰るのだそう。

受付で軽く話していた魔術師の二人は即座に二階へと上がっていってしまったので、自然、流れ解散となった。

「ちょいと遠回りして帰ろうぜ」

そんなわけで、ケルファーの提案に乗って街中をぶらぶらしながら歩いている。


「思ったんだけどよ」

「おう、どうした」

「俺ら北に来たわけじゃん?行ったことないからって」

「そうだな」

完全に勢いだけで決めたけどな。

「こんだけデカいダンジョンがある街だったら、なんかこう連絡とかあるんじゃないの?」

「プファルツとってこと?」

「そう」

確かに、考えてみればそれはとても自然な話だ。帝国と王国も仲が悪いというわけではない。国境をまたいでいるとはいえ、そういう話を一切聞かなかったのはなかなか変な話だ。


「わからん。ここ以外の帝国との行き来って東側の、何だっけ?」

「リューロックだな。王都の東にある場所だ。そっから北にデカい街道が整備されてて、そこを行き来するのが一番利用者が多いはずだ。後はリューロックからさらに東に進んで船に乗って海を通るって手もある」

「そうだそうだ。思い出した」

一回だけ帝国に依頼で駆り出されかけたことがあったな。その時につかったのがそのリューロックから出るぶっとい街道だ。やたら速い馬車だったのをよく覚えている。

「そこに利用者吸われてるんじゃね?」

もしくはこの街に引きこもりが多いのか。

「プファルツとここドミランノルトに行き来の需要が少ないってことか?」

「お互いにダンジョンを抱える都市だからな。冒険者が行き来するより、自分のダンジョンのところに居座ってほしいんだろ」

多分これだと思う。万が一に備えて往来の手段はあるけど、誰もつかわない、みたいな。

「なるほど」

「というか、伯爵のもとで働いてたお前の方がこういうのは詳しそうだけどな」

「それ言ったら冒険者として直に現場にいるお前だって詳しそうだぞ」

なるほど確かに。一理あるな。

おっと、どうやら街の中心部の広場まで来ていたらしい。

ちょっと先には領主の館が見える。プファルツのと違いそこまで大きくはない。


ここまでは街の中央を南西から北東目掛けて突き抜けるメインストリートを歩いてきた。泊ってる宿屋に戻るためには、左にそれて小路を進んでいくのがいいだろう。

ちらりと右手を見る。遠くに見えるのはダンジョンの近くに建っている物見やぐらもどき。

というか、改めてみるとダンジョンとギルドの間に倉庫しかないな。

「おーい、何見てんだ?」

「んんー なんでも」

おっといけない。ボーっとしているように見えたらしい。

歩くスピードを上げて、相方に追いつく。

「どうする?もっと向こうまで行くか?」

「いや、あっちは住宅が多いだろ。このまま広場突っ切って戻ろうぜ」

「オッケー」

どうやらこいつも同じ考えのようだ。

「んじゃ、よーいどんで競争な」

え。


「よーい、ドン」

「突っ切るってそっちぃ!?」

こんな人のいるところで猛ダッシュするんじゃありません!!

ちくしょう、あいつ速いんだよな。

だがしかし、人混みをよけながら進む能力に関しては俺も自信がある。単独行動する人間は必須の能力だからな!



***




「追いついたぜ」

「く、こんなところで」

「さあて」

「ま、待ってくれ。俺にはやり残したことがあるんだ」

「知らねえなあ」

「く、仕方ないな。かくなるうえは」


「ねえ、この寸劇やめない?」


いくら表通りではないとはいえ、厨二病を患った頃を思い出しちゃうんだが。

というかこいつ演技上手いな。

「しゃあねえなあ」

構えた腕をおろしながらケルファーがぼやく。

「というかここどこだ?」

「え、お前がここ目掛けて走ってきたんだろ」

「いや、途中からテキトーに走ってた」

「なんでだ」


え、うそでしょ。このタイミングで迷子?


「まあ、戻れるやろ」

「いやまあそれはそうだけど」

周りを見渡してみる。住宅が並んでいる。が、格式高い一軒家というより、江戸時代の長屋みたいな、お金のない大学生がすむアパートみたいな印象を強く受ける。

同時に、ダンジョンの近くの物見やぐらの先端を見つける。ということは、方向は大体あっちだな。

「おい、こっち」

「え、もう方向分かったん?」

「まあ、おあつらえ向きの目印があるからな」

顎をクイってやって、方向を示した。一回やってみたかったんだよねこれ。


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