男二人で何かが起きるわけないだろいいかげんにしろ
ミノタウロスは強い。第10層のボスであるこいつは、レベル40の戦闘職5人で勝てるレベルの相手だ。21層のフロアに湧くのはそれより弱いが、それが三体いるというのはどう考えてもこちらに不利である。
ヤバイ、一度深呼吸したら急に冷静になってきた。
今普通に逆境じゃね?
「ミラー、暗器投げてくれ。俺が同時に突っ込む!」
その一言が、弱気になった意識を跳ね飛ばす。
「やってやろうじゃねぇか!」
杭を投げる。横目でケルファーの突撃をとらえる。
カンッッッ、と音がした。
しまった。外した。どうやら角に当たったらしい。あれ硬いんだよな。
だが、そんなことお構いなしにケルファーは突っ込んでいく。
相手は陣形を組んでいない。ケルファーは前の二体をすり抜けて、後ろの一体に斬りかかった。
「前の二体をさばけるか!?」
どうやら自慢の攻撃力で、一体ずつ始末するつもりらしい。
作戦は把握した。ならばこちらも答えるのみ。
「問題ナァシ」
こちらに向かって振るわれた斧をかわす。続けてもう一体の斧もかわす。
かわしながら、ケルファーをやつらの視界にできる限り入れぬように、時にちくちくと攻撃をかわしざまに浴びせていく。
それをひたすら繰り返す。
正直言ってしんどい。なにせこいつら突進攻撃もしてくるのだ。息が上がっていくのが自分でもわかる。
だがそれがなんだ。
こちとら異世界でソロで冒険者やって八年だぞ。それが今久しぶりにパーティー組んでの共同作業だ。そう簡単にへばっていられるかよ。
ケルファーからの合図を信じて、ひたすら耐える。
そして、その時は訪れた。
目の前のミノタウロスの背中から血しぶきが上がる。
左斜め後ろのミノタウロスが動揺して動きを止めた。
今だ。
高速で走り、目の前のやつの顔面に回転しながら剣を斬りつける。
走り抜けたら、振り向きざまに杭を投げる。
奥のやつの腕に刺さったのが見えた。少しだけ猶予が生まれる。
「お疲れさん」
「あの斬撃はお前がやったのか」
「ああ。魔力を斬撃の形にしてとばす。ただあの斧だと防がれるかも知れなかったから、最初は使わなかった。ただ見ての通り、背中がら空きなら余裕で切れる」
多分それを駆使して奥のやつも倒したんだろう。そこまで考えたそのとき、残りの一体が起きるのが見えた。
だが、こうなってしまえばこっちのものである。
「オラァ!」
魔力の斬撃が飛ぶ。
相手は斧で防ごうとするが、さっきの杭で腕の動きが鈍い。
斬撃は、斧をもった腕をきれいに切断した。
同時に、俺も突っ込む。
二刀流のスキルをしっかり意識して、ミノタウロスの足めがけて連撃を繰り出す。
連撃は左足から股を通って、背中にまで到達する。
ここまで来れば楽勝だな。
正面で、ケルファーが笑顔で大上段から剣を振り下ろしていた。
***
やったぞおおおおおお。
素直にそう叫びたかった。大学生の時も、叫びすぎて近所に怒られたことがある。
だがここで叫ぶのは危険すぎる。敵がきてまうよ。
取りあえず討伐の証拠だけ剥いで帰ろう。
「角とって帰るか」
おんなじこと考えてたか。
ダンジョン内で魔物を倒すと、死体はスライムや他の魔物の餌になる。だから死体は放置しても問題ない。代わりに、何々をぶっ倒しましたって証明がしたいときは、そいつごとに定められた討伐部位ってのを剥いで提出するのがマストだ。
角を一体から二本ずつ、計六つはぎとって、俺たちは地上へと戻った。
うむ、外の空気がうまい。
「ヴィィィィィィィィィァァア」
「どうした」
まるで変人を見るような目を向けられた。
ちょっぴりショックだ。
「重大なことが起きた後は叫ぶんだよ」
「なるほど」
納得してくれたようだ。
「それより騎士団長に角を渡して、もらった名簿を見ないとな。あと迷宮には立ち入りを禁止したほうがいいな」
「やること多いな」
さてどこで名簿を見るべきかと思案していると、こんな提案をしてきた。
「騎士団の寮の俺の部屋に来いよ」
まじかよこいつ。俺が男で良かったな。女だったら一夜をともにする合図だったぞ。
「ああ、というかこの名簿の量は俺一人じゃムリ。頼む、お前が必要だ」
俺が男で以下略。
というかこいつわざと言ってるだろ。
「じゃあ案内頼むわ」
「おう」