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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
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料理初心者に揚げ物はムズイ

本質的には別の存在?


「どういう意味なんですか?魔女はみな、この世界の外から来たとでも?」


人間というのは矛盾した情報に対面すると、動きがどうしても鈍くなると聞いたことがある。まあこの場合は本人から事前提示があったので問題ないといえばないわけだが。


「少しだけ、長話になります。先ほど、魔女の多くは寿命に抗えず死んでいき、六人だけが残ったという話をしましたね。では逆に聞きますが、なぜその六人だけ寿命の頸木くびきから脱却できたのでしょうか?どう思います、ミラーさん?」


その点に関してはあの時突っ込むかどうか迷ったのは事実だ。しかしそこまで重要ではないだろうと流していた。


「魔法を超えた特殊な何かがその六人に起こった、のでしょうか?」


今、改めて考える。もし仮に何らかの魔法で寿命という概念を無視できるようになるのなら、魔女のうわさに魔法で寿命をいじくっているというお触れがついてもおかしくない。しかし現実はそうではない。

となれば、魔法以外の要因が働いたと見るのが妥当だろう。


「60点、というところでしょうか。なぜここに来たのかという点を加味していただけるとよかったのですが」


あ、そうか。その特殊な何かと目の前のコレ(・・)が関係あるのか。というか絶対そうだわ。


「今私たちの目の前にあるこれは次元の裂け目というものです。この世界の外にある異界とこの世界の間を結ぶ空間のゆがみとでも言いましょうか。この世とあの世を媒介する裂け目、神のまします世界を垣間見る裂け目、異次元と結ぶ裂け目。解釈はいろいろありますが、この向こう側には別次元にある世界が広がっているのです」


道理で恐怖心を覚えたわけだ。

もしかしてワンチャン地球に帰れたりするのだろうか?

……いや、やめよう。そんなことをする必要はない。それに、いまもそこそこ楽しいし。



「そして、今生き残っている六人の魔女はみな、この裂け目からの来訪者の洗礼を受けたのです」

「来訪者っすか?」

「ええ、異なる世界を行き来できる存在が別世界にいるらしく、彼もそのうちの一人であると名乗っていました」

マジかよ、渡来族みたいな感じなのだろうか。話を聞く限り転生者とは別の存在っぽいが。

「それで、洗礼というのは何なんですか?」

「この裂け目は、本来ランダムでこの世界にあらわれるもの。しかし、それによるこの世界への影響ははかりしれません。そこで、彼は当時の勇者と協力して裂け目を固定し、監視役として今の六人の魔女が選ばれたのです。洗礼とは、監視役になるために私たちに施された異界の魔術です」


ずいぶんと壮大な話だな。


「その魔術によって、寿命から解き放たれたっつーわけです?」

「そうなりますね」

なるほど確かに長い話だったわ。ヤンキーのはいてるスカートくらい長かったわ。


「つらくないんすか」

あ、言われちゃった。

「そうですね、ときどきいやな役割を負わされたなあと思うことはありますが、まあ楽しくやっていけてますよ。町の人たちの生活をのぞくのも楽しいですし」

「のぞく?」

「私の家にある魔道具です。この世界の行ったことのある場所全てが見える優れものです」


全地球対応系ストーカーだと…。あな恐ろしや。


「さっきの麺料理もそれで知ったんですか」

「ええ、キヤルナガルのどこかの料理だったと記憶しています。私なりにアレンジを加えてはいますがね」

絶対あのトッピングのことだな。


「六人の魔女全員が監視役ということは、裂け目は世界に六つ存在するんすか?」

「いえ、今は五つになりました」

あ、そうなんだ。

「おかげでラオダンだけ役目から解放されてあっちこっち放浪しているそうで、うらやましい限りです」


「やっぱり監視役が嫌になっているんじゃ…?」

かなり顔をしかめていたぞ今。


「嫌になっても、与えられた役割ですからね。全うしないわけには行きません。それに、まれにここから来訪者が現れたりするのです。そういった方々に対応するのも私たちの役目です」

え、マジで。もしかしたら俺もここから異世界に来ていたのかも知れないのか。

「大変っすね」

「ええ、ですがまれにやってくるあなたたちのような方々とお話するのもかなり楽しいものですよ」

そう言って、彼女はこちらを向いて笑った。



***



散歩の目的であったのだろう裂け目を後にし、俺たちは家に戻った。

「ああ、なるほど。この家の見た目も、魔法でいじくっているんですね」

「ええそうです。本来の見た目だとこの森にはミスマッチなので」

道理で中が広く感じたわけだ。


「今日はもう遅いので、泊まっていってください。夕食は私が用意いたします」

「え、いやそんな悪いっすよ」

「お構いなく。客人が来ることはまれですからね。もてなすのも意外と楽しいものですよ。それに言ったでしょう、私料理は好きなんです」

こちらに手を振りながら、彼女は向こうへと行ってしまった。

残された俺たちは顔を見合わせる。


「取りあえず、さっきいたとこ戻るか」

「そうだな」

ケルファーの提案に同意して、ラーメンを食べたリビング?らしき部屋に戻る。

「俺らもしかしてすんごい秘密知っちゃったんじゃね?」

「かもな」

言うなれば隠れて世界を守っていたキャラに遭遇したわけだ。RPGならラスボスに一度負けた主人公たちが態勢を立て直すタイミングで助けに入るそういうキャラのはずだ。

「まさか道に迷った結果がこう出るとはな」

「それは俺も思う」


迷子がいい結果を生むことってあるんですね。


「それにしても大変だったな、屋敷からの脱出」

椅子に座りながら相方に問いかける。

「え、ああ。しかし運がよかったな、盗賊らが牢屋から抜け出したおかげで俺たちが目立たなくてすんだ」

「そう、それ」

元はといえばあの屋敷でのごたごたがなければ魔女との出会いもなかったわけだ。ある意味彼らのおかげともいえる。絶対言いたくないけど。


「そういや結局、ここからどうやって最寄りの町まで行くんだ?」

「え、ああそういえば入ろうと思ったのもそれが目的だったな」

すっかり忘れてた。あまりにもインパクトが強すぎたからな。

地図を開いて確認してみる。

「ここからこう来て、こっちに来たから、さっきの森がこの辺だろ」

地図で見ると、思ったより北東の方に来ていた。子爵の馬車でかなり飛ばしたからだ。

「ってことは、この街道に出ればいいってことか」

「かな」

問題があるとすれば、この地図は最新版とはいえ、なにかのトラブルで街道が通れなくなることがざらにあることだ。


「でその先に進むと、ん?」

「どしたん?」

「帝国だ」

「お、国境超えちゃう感じ?」

「だな、途中にいくつか町があるけど、まあ二日あれば帝国入りになるな」

「行きたくないのか?」

「いや、そういうわけじゃない。ただ越境手続きがな」

「あり、帝国って結構ゆるくなかった?」

「でもお前いま無職じゃん」


なぜだろう、ギクリという効果音がケルファーの背後に見えた気がする。


「ま、まああれだよ。なんか適当に職業名乗っておけばいいだろ」

「いやだよ、入国時におまえが捕まる絵面。見たくないよ」

「俺だっていやだよ」

ではどうするなんてことを話し合おうとしたその時だった。


「お二人とも、できましたよ」

どうやらご飯ができたらしい。続きはその後だな。


「速かったっすね」

「いえいえ。ささ、召し上がれ」


そう言って目の前に出されたのは、大皿に乗った大量のフライドチキンとパン、ポテトサラダ、そしてバレーボールくらいデカいお椀に盛られたオニオンスープ。

うん、突っ込まない、突っ込まないぞ俺は。ダイエットはもういいんですかとか二度と聞かない。

しかしチキンの量多いな。どう考えても今晩食いきれる量じゃないんだが。


「では私はこれをもらいますね」


なんて考えていたら、先にテーブルに座ったイギベルさんがチキンの皿からぐっと何かを取り出した。

どうやら丸鶏を一羽そのまま揚げたらしい。道理でチキンの目方がおかしくなっていたわけだ。

…ちょっと待て。

「こんなに作ったんですね」

「ええ、まあ魔法も併用してますからね。このくらいの量であれば問題ないです」

ふむ、察するにお代わり用に残っているのはないようだ。

ということは、この人は自分が食べる用に丸鶏一羽を揚げたことになる。


うん、突っ込まない、突っ込まないぞ俺は。


「おい、ミラー。早く食べようぜ。揚げ物なんだからサクサクのうちに食った方がいいだろ」

いかんいかん。情報量とカロリーの多さに混乱したが、それはそれとしてご飯はしっかり食べなくてはいけない。よく食べてよく寝ることは健康の基本だ。

俺は椅子に座り、フライドチキンを一つ手に取って食らいついた。









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